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第187話 オニキスの話

 新たな可能性を踏まえて再び聞き込みを行ったアイリス達は、その可能性に確信を持つまでに至った。さらに聞き込みの結果、一連の霧と行方不明事件の中心にエスメラルダの邸宅があることが判明する。


 そんな時、従者のオニキスが夕食前という時間にも関わらずアイリス達を訪問してきたのである。アイリスは部屋に彼を快く通す。ディーナは機転を利かせ一足早く、壁に貼ってある地図などを布で隠した。


「オニキスさん、どうぞお掛けになってください」

「聖女様、ありがとうございます」


 礼をしてオニキスが席に腰掛ける。アイリス達もそれぞれの椅子に腰かけて彼の方を見つめていた。新たに見つかった可能性のこともあるため、少し雰囲気がピリピリしている。アイリスが軽くジーク達の方に顔を向ける。一同が静かに頷く。


「オニキスさん、族長さんからの連絡でいらしたんですか?」

「ぴぃぴ?」


 普段と同じようにアイリスが口を開く。肩に乗っているピィも顔を傾げて鳴いて見せる。


「いえ、今日こちらに来たのはエスメラルダ様からの用ではございません。私自身、皆さまにお話したいことがあるのです」


「私達に話したいこと……ですか?」


「はい。是非、聞いて頂きたいのです」


 そう話すオニキスはいつもよりも真剣な表情を浮かべていた。


「……わかりました。話してください」

「ありがとうございます」


 胸を打たれるような感覚を覚えたアイリスは話を聞くことにしたのだ。やりとりを見守るジーク達も同意と取れる頷きをしていた。


「聞いて頂きたいのはエスメラルダ様についてです」


「族長さんがどうかしたんですか?」


「このことはお兄様でいらっしゃるベリル様にも報告していないことになります。実は……エスメラルダ様はお部屋にいらっしゃらないことが時々あるのです」


「え?」


 アイリスが驚くように呟く。ジークやキッド、ディーナも同じ反応を示す。


「どういうことですか?」


「夢遊病……というのでしょうか。気づいたのは一か月前の事故の後でした。私がお部屋に用事を伺いに行った時部屋でお休みになっているはずのエスメラルダ様がいないことに気付いたのです」


「それでどうしたんですか?」


「急いで探しに出ると、邸宅の中庭で立ち尽くしているのを見つけました。本人も何故部屋から出ていたか覚えていないようでした」


 俯き加減でその時の状況をオニキスがアイリス達に説明する。


「事故のショックもあったので、それがきっかけなのだろうと私だけの秘密にすることにしていたのですが……」


 何か都合の悪いことを考えているのか、オニキスは視線を逸らしながら言葉を続ける。


「丁度聖女様達がこのシルヴァナインにいらしてからのことです。深夜私がエスメラルダ様のお部屋に様子を見にいった時でした……」


「何かあったんですか?」


 黙っているのに耐え切れなくなったジークが前のめりの姿勢になりながら尋ねる。他の二人も同じように前のめりで話を聞いていた。


「エスメラルダ様が部屋の中央で立ち尽くしていたのです。しかもお洋服の一部が破れていて確認すると打撲跡がくっきりと残っていたのです」


「族長さんには確認したの?」

「ディーナ、痛いですよぉ」

「ちょっと黙ってなさい」


 ディーナも落ち着きがない様子でキッドを押しのける形でオニキスに質問を投げかける。


「はい……以前と同じように何も覚えていないご様子でした。お部屋の一部も荒れていましたので、咄嗟にお身体を乱暴に扱われたかと……結局私の中だけで処理をしました」


「どうしてベリルさんには報告しなかったんですか?」


 再びジークが疑問に思ったことを言葉にして尋ねるとオニキスは俯き加減で口を開いた。


「……はい。お身体の傷を見られたくないとエスメラルダ様にも言われていましたし、夢遊病のことが表立ってしまったらあのお方の為にならないと考えたからです。全ては私の独断です……申し訳ありません」


 アイリスは以前オニキスと二人きりで話した内容を思い出したながら言葉を掛ける。


「……それだけ族長さんのことを思っていたんですよね」


「はい……」


「?」

「?」

「……」


 二人の掛け合いの内容がわからないディーナとキッドは顔を合わせていた。ジークは何となく心当たりがあるのか、神妙な表情を浮かべていた。


「ですが……状況は更に悪くなりました」


 オニキスは先日起きたエスメラルダが血を流しているのを発見したこと、夢遊病のことがベリルの耳にも入り事態が表立ってしまったことを説明した。


「ベリルさんは何て?」

「ぴぃ?」


「報告が遅れたことは許して頂けましたが、これは一族の上層部にもいずれ公表しなければいけないと言われました」


「まあ、オニキスさんとしては複雑だと思いますけど族長さんのためにはベリルさんとかにも知られて良かったんじゃないですか?」


 キッドが自分の考えを真っすぐに述べる。ディーナが焦ったように言葉を掛ける。


「ちょっともう少し柔らかく言いなさいよ」

「え、でもそうじゃないですか?」

「まあ……そうだけど」


 そっとオニキスの方を見る。彼は俯いたままだった。ジークが声を掛ける。


「確かに、キッドの言う通り族長さんの今の状況をベリルさん達も把握出来たなら良かったとオレも思います。でもそれならオレ達にこうして話をしにくる必要もないと思うんですけど……」


「オニキスさん、他に何かあるんですか?」

「ぴぃ?」


 オニキスは自分の顔に両手を押し付けながら呟くように言葉を紡ぐ。


「一連の出来事を私自身が整理していく中で……私は『恐ろしい考え』を抱くようになってしまったのです。……それを……聖女様達と一緒に確かめて頂きたいのです」


 顔に当てた両手が震えているのがアイリスには見てとれた。そっと自分の両手を優しく添える。はっとしたようにオニキスがアイリスを見つめる。そしてある話を切り出すのだった。




数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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