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第185話 疑念と温泉

◇◆◇


 アイリスとジークがディーナとキッドによるお説教を受けていたちょうどその頃。別の場所ではある出来事が起きていたのだった。


「エスメラルダ様、オニキスです。温泉を汲んでまいりました……!? どうされたのですかっ?」


 アイリス達と別れ、邸宅に戻ったオニキス。ノックをして入室すると、ベッドではなく部屋の床に腰を下ろし腕から血を流しているエスメラルダの姿があったのだ。


「……ああ、オニキス。帰っていたのですね……あら? 私また寝ぼけてどこかにぶつけてしまったのかしら?」


「今、医師を連れて来ますのでエスメラルダ様はそのままでいてくださいっ!」


 勢いをつけてオニキスが邸宅に常駐している医師の部屋までの廊下を駆けていく。その間に以前も同じようなことがあったことが脳裏によぎるのだった。


「エスメラルダ様……」


「どうした? オニキス。何かあったのか?」


 途中の部屋からベリルがオニキスの声に気付いて姿を現した。


「ベリル様。エスメラルダ様がお怪我を!」

「何、それは大変だな。私も様子を見てくる。お前は医師を呼んできてくれ」

「はい。わかりました!」


◇◆◇


 一夜が明けたディーナの部屋にアイリス達が集まっていた。朝食までの時間を使って昨日の状況の整理を皆でしていたのだ。もちろん今回は正座やお説教はなく、アイリスもジークも胸を撫でおろしていた。


「確かに、オレがあのまま連れていかれていた可能性もあるって思うとぞっとするな」

「でもジークは途中で脱出出来た。何か思い当たることあるかしら?」


 椅子に腰かけているジークにディーナが尋ねる。壁にはシルヴァナインの地図が貼られ、聞き込みの結果や魔物が現れ行方不明のヒトが出た場所には印が書き込まれていた。


「いや、本当に途中までは身体が全く動かなかったんだよ。でも、全身を縛られそうになった時にあっちが何かに反応したみたいに拘束が緩くなったんだ」


「相手の姿は私も見えなかったけど、ジーク身体の自由が急に戻ったように見えたわ」


 アイリスもその時の状況を説明する。顎のあたりに手をあてながらディーナが考える素振りをしていた。


「その時に『謎の存在』側で何かあったってことかしら? んーでも、それなら同じように助かったヒトがいるはずなんだけど、そんな情報はなかったし」


「兄貴の身体が臭かったとかじゃないですかぁ?」


 冗談半分でキッドが笑いながら口を開く。その後、すぐに口の両端をジークに強く引っ張られることになるのだが。


「いひゃいれす、あにひぃ」

「オレはちゃんと身体の匂いには気をかけてるんだよ!」

「はぁ……真面目に話してるんだからちゃんとしてよね、キッド」

「ふぁい。おめんなひゃい」


 キッドに二人が言い聞かせている間、アイリスも椅子に腰かけながらその様子を見ていた。


「ふふ、キッドってば。ジークもだけど私達、一度温泉に入ってるからむしろいい匂いがすると思うけどね」


 微笑んでいたアイリスだったが、何か思いついた仕草をする。


「アイリス? どうかしたの?」

「ディーナ、もしかして『温泉』なんじゃないかな」

「温泉?」

「うん。私達が『謎の存在』と二度目にあった時……悪魔族の男のヒトが消えたあの時だって私達の誰かが同じように連れ去られていた可能性ってあると思うの」


 アイリスの言葉を聞いて、ディーナも少し考える素振りをする。


「アイリスの言う通り、その可能性はあったわね。でも私達には被害はなかったじゃない? キッドの大技が効いたからって考えていたけど」


「あの時私達は温泉からの帰りだったじゃない? キッドの言う通り、温泉の匂いを嫌ったって可能性ってないかな?」


「化け物は温泉嫌いってことですか?」

「どんな魔物だよ」

「でもアイリス、昨日は私達は外食をしに外にでただけで温泉には入ってないはずよ? それだと辻褄が合わなくない?」


「そうよね……あ!」

「どうした、アイリス?」


 何かを閃いたアイリスが声を上げる。


「私とジーク、昨日オニキスさんと会った時に飲料用の温泉を貰って飲んでるのっ」

「まって……それなら辻褄が合うかもしれないわ。『温泉』……盲点だったわ」


 その話し合いによって、今後のアイリス達の方針に新たな項目が追加されるのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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