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第182話 内緒の話

 オニキスが自ら飲料の温泉を汲む理由を聞いたアイリス。その時、オニキスから尋ねられた言葉に戸惑うのだった。


「え、えっと……」


 戸惑うアイリスにオニキスが言葉を掛ける。


「本当に申し訳ありません。ただ、お話している刹那あなたが誰かのことをお考えになっていたような気がしたのです。その表情があまりに綺麗だったので尋ねてしまいました」


「わ、私そんな顔になってました?!」


 アイリスは両手で頬を何度か軽く押し付ける仕草をする。それを見て、オニキスが微笑む。


「私が勝手に思い込んだだけかもしれません。お気になさらないでください」

「は、はい……」


 歯切れが悪い言葉を呟きながら、アイリスはもう一度オニキスから尋ねられた言葉を思い出す。


『……聖女様にはお心に決めたお相手はいらっしゃいますか?』


 心臓の音が大きく自分の胸の奥から響くような感覚を受ける。そっとアイリスが胸に聖女の証である紋章が輝く右手を当てる。ふと閉じた瞳の裏に見知った誰かが映り出す。


「アイリス!」


 はっと目を開けると両手を腰に当てながら機嫌の悪そうな表情を浮かべて立つジークの姿が視界に入ってきた。


「あ、ジーク……」


「何ぼーっとしてんだよ。お店に忘れ物をしたっていうから後から追ってみれば来てないって言われたんだぞ? 何処に行ったかと思って探したらこんな所にいるんだもんな」


 ジークは大きなため息を吐きながら言葉を掛ける。


「申し訳ありません、聖騎士様。私が呼び止めてしまっていたのですよ」


ベンチから立ち上がったオニキスが口を開く。


「あ、そうだったんですか。まあ、族長さんの従者さんと一緒だったならいいか……」


「ジーク、他のみんなは?」

「ぴぃ?」


「先に宿に帰らせたよ。オレだけ戻って探してたってわけさ」

「聖騎士様は聖女様が心配だったんですね」

「え、いや……まあ、そういうことになるかな」


 鼻先を赤く染めながら、ジークは頭の後ろを掻いていた。そんな仕草を見て、アイリスは微笑みながら口を開いた。


「ありがとう、ジーク。心配してくれて」

「いや……そんな面と向かって言われると照れるぜ」

「ぴぃぴぃ」


 二人のやり取りを見てオニキスも微笑んでいた。彼には何となく理解出来たようだ。


「それでは私はこれで失礼します。ああ、そうだ。お身体も冷えてしまったでしょうから、お二人とも一杯ずつ温泉をお飲みになりませんか?」


 オニキスは温泉が入っている容器を掲げながら提案する。


「せっかくだしもらうかな」

「うん、私も飲んでみたいって思ってたんです」


 二人は小さめの容器を手渡され、その場で飲料としての温泉を口にする。とても暖かく、軽い感じがして飲みやすい印象を受けた。


「なんか思ってたより飲みやすいな」

「うん、とってもすっきりするし身体もぽかぽかしてきたね」

「確かに」


「それはよかったです。呼び止めてしまったお礼にしては少々足りない気もしますがね」


「そんなことないですよ。ご馳走様でした」

「ご馳走様です」

「ぴぃぴ」


 アイリスとジークが並んでお礼の言葉を口にする。オニキスも深く礼をするとその場から立ち去っていく。最後に軽く振り返り、アイリスに言葉を掛けた。


「聖女様、あのお話はご内密にお願いしますね」

「はい、わかってます」


 アイリスが笑顔で返事をすると、彼も笑みを浮かべて路地に消えて行った。その言葉の意味がわからないジークは目を細めてアイリスの方を見ていた。


「何の話してたんだよ?」

「ご内密にって言ってたでしょ」

「……すごく気になるんだけど」

「内緒よ。ね、ピィちゃん」

「ぴぃぴぃ」


 そう言ってアイリスが先に歩き出す。機会を逃したような表情を浮かべながらジークが後を追う。


「なあ、教えてくれてもいいだろぉ?」

「だーめ」

「ケチだなぁ」


 先を歩くアイリスの耳の辺りが赤みを帯びていたのに気づいたのは肩に乗っていたピィだけだろう。


 二人が路地から出てきたちょうどその時、大きな声が上がる。


「大変だ! また街はずれに魔物が出たぞ!!」


 大通りまで戻ってきた二人の耳にその声が入ってくる。魔物と霧の噂は広がっているのだろう。通りを歩いているヒト達は足早にその場を去っていく。


「ジーク!」

「ああ、行くしかないよな!」

「ぴぃ!」


 声をあげていたヒトに場所を聞いたアイリスとジークは急いで目的の場所へ急ぐのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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