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第181話 慕う心

 今後の方針を話し合ったアイリス達は、キッドの強い要望もあり宿屋の外で夕ご飯を食べることになった。その帰りにアイリスはオニキスと偶然出会い、話をすることになった。


「お時間を頂いてしまって申し訳ありません、聖女様」

「いえ、私もオニキスさんとは話したいと思ってましたから大丈夫です」

「ぴぃぴ」


 大通りから少し路地に入った所に広場があり、そこのベンチに二人で座って話始める。宿への帰りだったのでジーク達が心配するだろう、とは思ったが何となくオニキスと話をしたほうがいいと思ったアイリスは会話の席につく。


「私が何故自分で温泉を汲みにいっているか、お聞きにになりたかったんですよね?」

「はい、そうです」


 オニキスはふと夕闇が覆い始めた空を見上げながら口を開いた。


「私の一族は昔から悪魔族の長に仕える役職を担っていました。父も先代の族長……つまりはベリル様やエスメラルダ様のお父上にあたる人物に仕えていました」


 アイリスは静かに相槌を打ちながら話に耳を傾ける。ピィも空気を読んで静かにしていた。


「私も小さい頃から族長の邸宅に出入りし、父の仕事ぶりを見ていました。いつか私も父のように族長を支える仕事に就きたいと考え始めていました」


「いいお父様だったんですね」


「はい。主に忠実な真面目なヒトでした」


 アイリスの言葉に笑顔でオニキスが言葉を返す。


「その頃からエスメラルダ様にはよくして頂いていました。お話の相手をしたり、ちょっとした手伝いをお願いされていました。そして、父が病で現役を引退した後は私が族長の従者に召し上げられたのです」


 普段真面目で堅そうに見えるオニキスだが、話している時は柔らかい表情を浮かべていた。


「それから数十年経った時、族長が交代することになり長男だったベリル様が退いたことでエスメラルダ様が悪魔族の長になったのです。それから私はずっとお側でお仕えさせて頂いていました……」


「?」

「ぴぃ?」


 そこまで話すとオニキスは切なそうな表情を浮かべて語りを止めた。


「オニキスさん……?」

「……こんな話を聖女様にするのも申し訳ないですが是非聞いて頂ければ、と思います。私もこのお話を誰かに打ち明けるのは初めてなものでして」


 彼は軽く頬を掻きながら語り始めた。


「エスメラルダ様は私が小さい時から面倒を見てくれていました。私はいつしか、このヒトにお仕えしたいと考えるようになったのです」


「えっと……それってつまり……」


「はい……その頃からずっと私はエスメラルダ様をお慕いしていたのです……自分でも驚きの感情でした」


 耳のあたりに赤みを帯びてきたオニキスの方に自然と視線を向ける。彼はまた語り始める。


「ベリル様が六使となり、エスメラルダ様が族長になってからは激務の毎日でした。ですが弱音ひとつ言わずに族長として周りに認められるように必死に頑張っておられました。昔から知っている私はお側で手伝う間に更に惹かれていったのです」


「そうだったんですね……」


 アイリスはオニキスの話を聞いてるうちに胸の奥が妙に熱くなるような気がしていた。気が付くと彼の話に聞き入っていたほどだ。


「だからこそ、お身体とお心が不調の今……一番近くにいて、一番あのお方のためになるだろうと思っている飲料の温泉を汲む仕事を誰でもない私がしているのですよ」


 『……なんかわかるな……あのヒトの気持ち』


 こちらを向いた赤みを帯びたオニキスの顔をみたアイリスはふと、以前ジークが呟いていた言葉を思い出していた。ジークにはオニキスの気持ちがあの時点でわかっていたのだろう。


「お恥ずかしいですが、聖女様にはすらすらと自分の気持ちを語ってしまいました。やはりあなたは今代の聖女様の資質がおありなのでしょうね。誰もを優しく包んでくれる、そんな力をお持ちのように私は思っております」


「いえ……そんな」


 誉められたアイリスも照れた仕草を見せる。それを見てオニキスは微笑む。


「……聖女様にはお心に決めたお相手はいらっしゃいますか?」


 ふとオニキスが呟く。


「え……私、ですか?」

「いやいや……申し訳ありません。出過ぎた質問をしてしまいましたね」


 その時、アイリスの胸の鼓動が一回り大きくなった気がしたのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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