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第180話 今後の方針

 エスメラルダの邸宅から戻ったアイリス達は紅茶とお菓子をテーブルに並べながら今後の話し合いをしていた。


「あたしは族長さんが快復して試練の記憶を取り戻した頃にもう一度シルヴァナインに来た方がいいと思うのよね」


 テーブルに置かれた皿に並べられた焼き菓子をつまみながらディーナが口を開く。


「もぐもぐ……なるほど。ディーナはこのままここに残るよりは先に他の所で試練を受けてきた方がいいって言いたいんですね。もぐもぐ」


 同じようにキッドも焼き菓子を頬張りながら話していた。手にとる量はディーナの倍ほどあり、彼女に軽く手を叩かれていた。


「そういうこと。最果ての丘に一番近いのはドラゴマルクなんだから、向かうとすればウルフォードになるわね。元々、迂回していくつもりだったんだから」


「んー……それは……どうかなぁ」


 目を細めながらジークが呟く。額には少し汗を浮かべていた。


「……ジークは族長のお父さんに会うのが嫌なだけってとこでしょ?」

「うわ、ディーナ。ボクが迂闊に言えないことを言ってのけちゃう所がすごいです」

「ぅぐ……」


 痛いところを突かれたジークが唸る。尻尾も元気なく地面に垂れていた。


「大方そうだと思ったわよ。何にせよ、アイリスは聖女として試練をこなしていかなきゃ一人前って認めてもらえないんだから早く行動するに越したことないじゃない」


「まあ、そりゃそうだよな……」

「アイリスはどう?」


 ディーナが真剣な表情を浮かべながら聞いていたアイリスに尋ねる。


「ディーナの言ってることもすごく正しいと思う。でも……私はもう少しだけここに留まったほうがいいと思うの」


「お嬢は何か考えがあるんですか?」


 相変わらず菓子を頬張りながらキッドが口を開く。アイリスは軽く左右に首を振った後、言葉を返す。


「考えっていうほどのものはないの。でも……何となくまだここに居たほうがいい気がするだけ」

「ぴぃぴぃ」


「聖女の勘ってやつ? まあ、アイリスの言うことは結構当たるから信憑性はあるけど……んーわかったわ。とりあえず、あと数日シルヴァナインには逗留する。それでも状況が変わらないようならウルフォードを目指す。これでいいかしら?」


「ありがとう、ディーナ。うん、私はそれでいいと思う」

「オレも賛成」

「ボクもですぅ」

「決まりね。はぁ……何だか最近あたし達話し合ってばかりよね。ちょっと疲れちゃったわ」


 羽と両手を大きく伸ばしながらディーナが呟く。


「もうこんな時間なんですね。もうすぐ夕食ですかぁ……」

「なんだよキッド、あんまり嬉しそうじゃないな」

「そりゃ、ここの宿のご飯は美味しいですよ? でもそろそろ飽きてきたというか、新しい味を舌にのせてあげたいというかですね」


 そんな二人のやりとりを見てディーナが大きく吐く。


「要するに同じご飯に飽きたってキッドは言いたいんでしょ?」

「そうです! 流石ディーナ、ボクの思ってること何でもお見通しですね!」

「あなたがわかりやす過ぎるだけよ」


「それなら今日は街に出て外で食べましょうか」

「ぴぃぴぃ」


 アイリスが微笑みながら提案する。キッドは嬉しさで部屋をぐるぐると周り出す。


「キッド、浮かれすぎだぞ?」

「そういう兄貴こそ、尻尾揺れてますよぉ?」

「……うるさいな」

「ふふ。それじゃ、宿のヒトに美味しいお店を聞いて出かけましょう」


 話の流れから今日の夕食は街に出て食べることにしたアイリス達。宿のヒトからシルヴァナインで美味しいと評判の良いお店を教えてもらってそこに向かうことにした。


 お店は大通りに面していて、時間もちょうど夕食時ということで賑わっていた。運よく席もとれたことで皆で楽しく美味しい料理に舌鼓を打つのだった。


「美味しかったですねぇ!」

「ああ、あの肉料理美味しかったな」

「悪くないわね。これまでの場所とまた違った味が楽しめて良かったわ」


 お店を出て一同が口を開く。


「それじゃ、宿に帰りましょ」

「ぴぃぴ」

「そうだな」


 皆、宿のある方に歩き出す。するとアイリスの瞳に知った顔が映りこむ。


「みんな、先に行ってて。ちょっとお店に忘れものしちゃった」

「もううっかり屋さんなんだから。気を付けてね」

「オレもついて行こうか?」

「大丈夫、すぐ戻るから」


 そう言ってアイリスは歩いてきた方に駆けていく。大通りから少し人気のない路地に入っていこうとしていた人物に声を掛ける。


「オニキスさんっ」

「……ああ、これは聖女様でしたか」


 認識阻害のローブは一度アイリスをしっかりと認知した者に対しては効果が薄くなる。声を掛けられた時は顔を傾けたオニキスだったがすぐにアイリスだとわかり口を開く。


「また飲料の温泉を汲んできたんですか?」

「はい。もう日課のようなものですからね」


 手に持った容器を軽く胸のあたりまで掲げてみせる。アイリスは気になっていたことを尋ねてみることにした。


「邸宅には使いのヒト達は結構いましたよね? オニキスさんは一番身分が高い従者さんだと思うんですけど、どうしていつも温泉を汲みにいく役割をしてらっしゃるんですか?」


「はは、これは鋭い所を突いてこられますね。流石は聖女様というところでしょうかね」


 参った、というようにオニキスが微笑んで見せる。


「すいません。こういうこと、聞いておかないと余計に気になっちゃって」

「……すぐそこに広場があるんです。そこで少しお話しましょうか」


 オニキスの提案を受け、アイリス達は少し会話をすることになったのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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