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第179話 抜け落ちた記憶

 霧と行方不明の関係性に気が付いたアイリス達だったが、霧の発生の時期や対策については平行線のままだった。そんな時、オニキスから連絡が届く。行き詰った今、試練開始の朗報かと思っていた一行だが族長エスメラルダから驚くべき事実を聞かされることとなる。


「ちょ、ちょっと待ってよ。試練の内容を覚えてないって……どういうこと?」


 皆、驚いた表情を浮かべていた。その中で一番最初に口を開いたのはディーナだった。


「そのままの意味です……聖女様達が試練を受けるために旅をしているという話を聞いて私も試練の準備をしていたはずだったのですが……思い出そうとしても頭の中にモヤがかかったように思い出せないのです……」


「そ、それじゃあ、試練は受けれないってことですか?」

「キッド、落ち着けよ」

「あ、兄貴……でも」


 残念そうにキッドが俯く。ジークも驚きはしたが、エスメラルダの罪悪感に沈んだ表情を見ていたら責めるような言葉をかけるのは忍ばれた。それはアイリスも一緒だった。


「そんなに落ち込まないでください。無理に思い出そうとしてもお身体に障りますから」


「申し訳ありません……聖女様。聖騎士様もお気を使って頂いて……」


 そこまでいうとエスメラルダは激しく咳き込む。聞いていた通り、まだ事故のショックと病み上がりの身体に負担がかかったのだろう。オニキスが近くに置いてあった容器からコップに液体を注いでエスメラルダに飲ませる。恐らく、飲料としての温泉だろう。


「ありがとう、オニキス……」

「いえ、ゆっくりお飲みください」


 エスメラルダは少量口に含むと肩で大きく深呼吸をして口を開く。


「話を遮ってしまって申し訳ありません。私も出来るだけ思い出す努力を致しますので……」


 表情など、先程よりも体調が悪そうにアイリスには見えた。最初に問いただしたディーナもこれ以上は何も言えない、という表情をしていた。


「私達はこれで失礼しますね」

「では、私がお送りいたします」


 アイリスの言葉にオニキスが反応する。エスメラルダも天蓋の奥から深く礼をしているのがわかった。オニキスの後に続いて一行は族長の部屋を跡にする。


「内容は聞いておりましたが、どうしてもご自身でお話したいということでしたので……」


 邸宅の入り口まで続く廊下を歩きながらオニキスが再度、謝罪の言葉を述べる。アイリスは首を静かに左右に振る。


「気持ち、わかります。責任があるからこそ、自分で話さなきゃいけないことってありますもんね」

「ぴぃぴぃ」


 入り口までくるとアイリス達は一礼して、宿への帰路についた。


「……あんな族長さん見たら、何も言えないよな」

「うん、そうだよね」

「ぴぃぴぃ」


 エスメラルダの邸宅が見えなくなった辺りでジークが一言呟く。そこから黙って歩いていた皆も口を開く。


「そうですよね……すごく体調悪そうでしたもんね」

「あたしもやりとりを見ていて、いたたまれなくなっちゃったわよ」


 キッド、ディーナも暗い表情をしながら呟く。


「とりあえず宿に戻って、これからのことを話し合いましょっ」

「ぴぃっ」


 皆の暗い雰囲気を吹き飛ばすような笑顔を浮かべながらアイリスが声を掛ける。


「そうだな。オレ達まで暗くなっていても仕方ないもんな」

「ですね。何かお菓子でも食べながら話し合いしましょ」

「ふう、確かにキッドの言う通りかも。美味しい紅茶も欲しい気分ね」


 そう言いながら一行は宿へと戻ることにした。それからキッドやディーナの提案通り、お菓子と紅茶を添えて今後の話し合いをすることになった。


 一方、その頃族長の邸宅ではオニキスが日課となっている飲料の温泉を調達に出かける所だった。


「エスメラルダ様、温泉の調達で少し邸宅を留守にします。何かあれば他の使いの者をお呼びください」


 先程アイリス達と話をしたこともあって眠っているのか、返事はなかった。


「……それでは行って参りますね」


 何か言いたげな表情を浮かべながらゆっくりとオニキスは静かな廊下を歩いていくのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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