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第16話 孤児院にて

 早朝、王城へと続く門の前にアーニャとガーライルに見送られるアイリスとジークの姿があった。ピィはアイリスの肩に乗っている。


 旅立ちの日にふさわしく、青空が広がっていた。


「それじゃあ、二人とも旅の無事を祈っています。大いなる意思のご加護がありますように」


「アーニャ様、ありがとうございます!」

「ぴぃ!」


 ガーライルがジークに近づき、何かを手渡す。


「聖女とその聖騎士だけが持てる特別な旅券だ。何かあれば、それを見てもらえばいい」


「ガーライルさん、ありがとうございます」


 それぞれが挨拶を済ませるとアイリスとジークは並んで歩き出す。

 アーニャ達は手を振って見送るのだった。


 王都ロークテルを出発したアイリス達は目的地であるビナールに向かう前にシルフォニア孤児院に立ち寄ることにしていた。


 アイリスが旅立つ前にエレオス院長に直接お礼を言っておきたいと言ったからだ。


◇◆◇


 孤児院を訪ねるとエレオスが快く迎えてくれた。


「アイリスが聖女に選ばれたと神官長様から直接聞いたときは驚いたよ」


「私も自分が聖女に選ばれるなんて思っていませんでした」


 エレオスとアイリスが仲良く談笑しているのをジークは黙って聞いていた。

 するとそこに髪の色がそれぞれ赤、黄、青色をした年少の男の子三人組が元気に入室してきた。


「アイリスお姉ちゃんおかえりなさい!」

「アイリス姉ちゃん聖女様になったってほんと?」

「となりのふさふさのお兄ちゃん誰?」


「こら三人ともちゃんと挨拶をなさい」


 エレオスに注意されて明らかに不機嫌そうな態度を三人組がとる。

 アイリスはその様子を見て笑いながらジークに紹介をする。


「ジーク、紹介するわね。クリール、ナジェ、ウォーレよ」


 紹介された赤、黄、青色の髪の三人は笑顔で元気に頷く。


「丁度良かった。アイリス、三人と一緒に自分の部屋の整理をしてくるといい」

「そうですね。わかりました!」

「ぴぃぴぃ」


 一緒に行こう、と元気にアイリスを三人の男の子たちが連れていく。

 ジークもアイリスについて行こうと腰かけていた椅子から立ち上がるとエレオスが口を開いた。


「ジークくんは私と少しお話をしましょう」

「え、あ、はい」


 部屋にはエレオスとジークの二人だけになった。

 二階にアイリスの部屋があるのか、男の子たちの元気な声が響いていた。


「元気すぎて困ってしまうこともあるが、いい子達だよ」

「ここには他にアイリスくらいの子供はいないんですか?」


 ジークはここに来てからアイリスと同じくらいの年齢の子供を見ていなかったことを疑問に持っていたようでエレオスに尋ねる。


「ああ、他の子は皆、里親に引き取られていったからね」

「えっと……アイリスは里親が見つからなかったんですか?」


 まだ知り合って間もないが、ジークにもアイリスが明るく元気な少女ということは理解できていたのもあって、最後までアイリスに里親が見つからないというのは不思議だと思ったのだ。


「あの子は小さい子達が里親に引き取られるまではここにいると聞かなくてね」


 その時困ったような、どこか寂し気な表情をエレオスは浮かべたのだった。

 エレオスは言葉を続ける。


「アイリスは優しい子だからね。ずっとこの孤児院では最年長として振舞ってくれていたんだ。みんなの母親のようにね」


「あいつらしいですね……」


 少しわかるような気がしたジークが呟く。

 それを見てエレオスは優しく微笑んだ。


「よかった。君がアイリスの傍にいてくれて」

「え、いや、えっと……?」


 いきなり褒められてジークが戸惑う。


「私は魔族と交流があまりなくてね。アイリスが聖女に選ばれて、その聖騎士が魔族だと聞いたときは驚いたものさ」


「はあ、なるほど……」


 確かに王都の広場でもそんな声を耳にしたのをジークは思い出す。


「だが、君と一緒に訪ねてきた時の彼女は変わらずの笑顔でいてくれた。それが私は嬉しくてね」


 その時のエレオスは本当の父親のように喜んでいるのがジークには伝わってきたのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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