第172話 湯冷ましの合間に
見事ディーナとキッドの企みによって混浴の温泉で二人っきりになったアイリスとジーク。二人は温泉から出てくると外で待っていたディーナ達と合流した。
「お前ら……!!!」
「あら、ジークどうしたの? そんな怖い顔して」
「そうですよ、兄貴ぃ」
全身の毛を逆立てながらジークが二人に言い寄る。形相は今にも八つ裂きにされそうな程、険しいものだった。だが、当の二人は何も知らない風を装っている。
「こ、こんよくだって知っててオレ達を入らせたんだろ……!!」
大事な所で言葉を濁しながらジークが言葉を続ける。
「え? 何って言ったの? よく聞こえなかったんだけど」
「ボクも聞こえなかったですぅ」
「お前らなぁ~!!!」
ジークが更に声を大きくしようとした横でアイリスは顔に赤みを帯びながらぼーっとしていた。
「お嬢、どうかしましたか?」
「……やだ、ちょっと急接近させすぎたかしら……」
キッドがアイリスに近づきながら尋ねる。ディーナは背中を向けて呟く。
「アイリス、どうした?」
怒っていたジークも呆けているアイリスに気付いて声を掛ける。
「えっと……ちょっと湯あたりしちゃったみたい。冷たい飲み物買ってくるね」
「ぴぃぴ」
預かっていたディーナの肩からピィがアイリスの肩に乗り移る。
「一人じゃ危ないからオレも付いていくよ」
「ありがとう、ジーク」
そう言って、二人で飲み物を買いに行くことになった。残された二人が顔を合わせながら口を開く。
「んー、ちょっと刺激が強すぎちゃったかしらね」
「何かまずかったんですか? 一緒にお風呂に入るだけなのに」
「……あたしも良心が痛むことってあるのね。ちょっと反省するわ」
「ほえ?」
無邪気な顔をしてこちらを見るキッドを見ながらディーナが呟くのだった。
一方ジークはお店で冷たい飲み物を買って、外のベンチで休んでいるアイリスの元へ急いでいた。先ほどよりは顔の赤みはとれてきたように見える。
「ほら、買って来たから飲めよ」
「うん。……はぁ、冷たくて美味しい」
「ぴぃぴ」
「本当に湯あたりしちゃったんだな。なんか、そのごめんな」
「ううん。ジークが悪いわけじゃないでしょ? 私がついお湯に浸かりすぎちゃっただけよ」
心配そうにジークが見つめている。その視線にアイリスも気づいているが何となく、そちらを見るのことは気が引けた。何故だろう、と考えていると誰かに声を掛けられた。
「アイリス様、ジーク様?」
二人が声の方を見ると昨日エスメラルダの邸宅で会った従者のオニキスだった。手には大きめの容器を持っていた。
「オニキスさん、こんにちは」
「どうも」
「お二人とも温泉巡りの途中でしたか。お声を掛けてお邪魔してしまいましたね。申し訳ありません」
二人の雰囲気を察して謝罪の言葉を口にする。
「いえ、私が湯あたりしちゃったので休憩していた所ですから謝らないでください」
「そうでしたか。調子はよくなりましたか?」
「ええ、ジークが冷たい飲み物を買ってくれたのでよくなってきました」
「それは良かったです」
二人が会話をしているのを見守っていたジークが口を開いた。
「オニキスさんも温泉に入りに来たんですか?」
「いえ、私は別の用事です」
「別の用事って?」
更にジークが尋ねるとオニキスは手に持った容器を少し持ち上げながら答える。
「ここの温泉街には飲料としての温泉もあるのです。その効能が身体の不調に効くというので、時々足を運んでいるというわけです」
「ああ、エスメラルダさんに飲ませてあげるんですね」
「はい。少しでもお体のためになればと思って通っているんです」
「オニキスさんみたいに良くしてくれる従者のヒトがいるって安心しますね」
アイリスが何気なく言葉を掛けると、オニキスは少し目線を逸らしながら口を開いた。
「そう……ですね。そうであって欲しいと思っています」
「どうかしましたか?」
「あ、いえ。何でもありません。私はそろそろ行きますね。また何かあればご連絡に伺いますね」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
立ち去っていくオニキスを見ながらジークが呟く。
「……なんかわかるな……あのヒトの気持ち。多分だけど」
「? ジーク何か言った?」
「あ、いや何でもない。それよりだいぶ顔色よくなったみたいだな」
オニキスと話している間にアイリスの顔の赤みも火照りも引いたようだ。
「うん。だいぶ楽になったかな」
「それじゃ、あの二人の所に戻るとするか」
「そうだね」
二人は仲良く並んで歩きながらディーナ達の所に戻っていくのだった。
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