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第15話 見習いの称号

 アイリスとジークが王城へ来てから数日が立った。

 その間にアイリスはアーニャから聖女の力を学び、ジークは騎士団の騎士達を相手に剣の修行をつけてもらいつつ、これからの旅に必要な準備を整えていた。


 巡礼の旅のはじまりが明日に迫り、クラージュ王との謁見の時を迎えていた。

 既に王の間には大臣やアーニャ、ガーライルが二人を待っていた。


 王の間にアイリスとジークが姿を現した。

 前回と違い、アイリスはアーニャに見立ててもらった聖女としての見た目と長い旅にも適したピンクと白を基調としたローブ姿になっていた。肩には聖獣のピィが乗っている。


 ジークはリチャードや騎士団から見繕ってもらった剣士風の装備を身に纏い、腰には剣を携えていた。


「二人ともこの数日で見違えたようだな」


「アーニャ様達のおかげです」

「ありがとうございます」

「ぴぃ!」


 大臣達もここ数日のアイリス達の特訓を見ていたこともあり、最初の時よりも見る目が変わったようだった。


「アーニャ、巡礼の旅の前準備について二人に説明してくれ」

「はい、わかりました」


 アーニャが一歩前に出て、アイリス達に話しかける。


「二人にはカセドケプルに行く前に、王都の北に位置するビナールへ立ち寄ってもらいます」


「ビナール?」

「初めて聖女が生まれたっていう町のことよ」


 初めて聞いた名前にジークは首を傾げたが、アイリスが小声で呟く。

 その様子を微笑みながらアーニャが続ける。


「ええ、聖女はじまりの町ビナール。その町の教会に祀られている巡礼の旅に必要な『ある道具』を取りにいって欲しいの」


「わかりました!」

「ピィピィ!」


 アイリスが明るく返事をする。

 同じ素振りでピィも返事をした。


「巡礼の旅は長く、そして厳しいものになるだろう。私からもせめてもの気持ちを用意させてもらった。受け取ってくれ」


 クラージュ王は隣に立つ宰相トーラスに向かって合図をする。

 宰相がアイリス達の前に歩いていき、手に持っていた麻袋をジークに手渡した。

 適度な重さを持つその袋をジークが見つめる。


「これは?」

「旅の支度金になります」


 ジークが中を見ると多くの銀貨の中に数枚の金貨が入っていた。

 この世界の通貨は60年前の人魔戦争の後、人間族、魔族共通の銅・銀・金の硬貨に統一されていた。 アイリスがお使いなどで持たされるのは銅貨が普通だった。銀貨、ましてや金貨など恐れ多い気がした。


 ジークもそれは同じだったようで慌てたような素振りでアイリスに声をかける。


「アイリス、すごいぞ! お金がたくさん入ってる」

「ジーク、みんなの前だから落ち着いて」

「あ、悪い……」


 その様子をみて周りからは笑い声が聞こえてきた。


「こんなにいいんですか?」


「可愛い子には旅をさせろ、というが、確かに子供に与えるには些か額が多いだろうな」


 アイリス達の反応が面白かったのか、口に手を当てて笑うのを耐えているようにも見えた。

 アーニャも同じように笑っていた。


「だが、お前達の旅にはそれだけの価値がある。それは私からの聖女と聖騎士への誠意と受け取ってもらえばいい」


「ありがとうございます陛下」

「ありがとうございます」


 更に王は真剣な表情でアイリス達に話しかける。


「この巡礼の旅は、お前たちがアルカディアに生きる全ての民からの信頼を手に入れるためのものでもある。つまりこの巡礼の旅を無事に成功させることで、お前たちは一人前の聖女と聖騎士として認められるというわけだ」


 話を聞いていたアーニャも王の言葉に静かに頷く。


「そこでアイリス、ジーク。お前達には巡礼の旅の間『見習い』の称号を与える」


「見習いの」

「称号」

「ぴぃ?」


 アイリス、ジーク、ピィそれぞれが呟く。

 王は大きく頷く。


「既にお前達二人が今代の聖女と聖騎士であることは、先日の謁見後に世界には知れ渡っている。そこでお前達には『見習い聖女』と『見習い聖騎士』として巡礼の旅に出てもらうことに話し合いの結果決定したのだ」


「このことについてもスペルビア王国ならびに氏族連合フライハイトの間での共有事項になりますので承知して頂ければと思います」


 以前話にあった巡礼の旅によって今代の聖女と聖騎士としての証をたてる、ということからこのような称号を与えることになったと宰相から説明を二人は受けた。


「わかりました! 見習い聖女として精一杯頑張りますっ」

「オレも見習い聖騎士として頑張ります!」

「ぴぃぴぴぃ!」


 こうして謁見が終わり、アイリスとジークは王の間を後にした。

 すると次いで王の間から軍務大臣のビルゴが出てきてアイリス達に声をかける。


「どうしたんですか?」

「まだ何か文句でもあるんですか?」

「ちょっとジーク失礼でしょ」


 アイリスをよそに、ジークは棘のあるような態度と言い方をビルゴに向ける。

 ビルゴは一度咳払いをすると何か手紙のようなものをアイリスに差し出した。


「これは?」

「……カセドケプルにある知り合いの商人への紹介状だ。持っていくといい」

「あ、ありがとうございます」


 どこか照れ臭そうに、バツが悪そうにしながらもビルゴは話を続けた。


「軍務を担う立場から先日はああ言ったが……私も君たちくらいの娘がいる。それが少し重なってしまったのかもしれん。エアリーズも我が国のことを想ってのことだ。それはわかってやってくれ」


 予期していなかった言葉をかけられてジークは驚いた表情をしていたが、アイリスから注意されて姿勢を正された。アイリスは深く礼をすると明るく、笑顔で口を開いた。ジークもそれに続く。


「ありがとうございます、ビルゴ様」

「ありがとうございます」

「ぴぃ!」


「うむ。道中気をつけてな」


 そう言ってビルゴは王の間へと戻っていった。


「なんだ、結構いいおじさんだったんだな」

「うん、何だか嬉しくなっちゃった」

「まあ、悪い気はしないよな」


 二人は軽く笑いあって明日の旅の準備をするために王の間を後にするのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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