第166話 悪魔族の領域
地図の目印になっている風車小屋から続く山道を歩いていくと、ちょうど谷間に街が姿を現した。周りを崖に囲まれている天然の要塞のようにも見える。アイリス達は関所での手続きを終えるとシルヴァナインの街に無事に到着した。
「さっきの衛兵のヒトなんだって?」
手続きの時に少し時間がかかっていたアイリスを心配したジークが口を開く。
「族長さんの体調が優れないらしくて、逗留場所の宿を決めてゆっくりしてから来てくださいって」
「なんか大変そうだな」
「いいじゃない。キツい山道を歩いてきたんだから、少しは身体を休めないとね」
「ディーナは飛んでるんだから、疲れてないですよねぇ……?」
キッドが荷物を持ち直しながら目を細めて嫌味を口にする。だが、当のディーナは辺りを見渡していい感じのお店がないかをチェックしていた。
「シルヴァナインって鉱物が近くの鉱山でとれる関係で装飾品が有名なのよねぇ」
「ボクの話聞いてましたか?」
「何よキッド、美味しい料理のお店もあるかもしれないから探してあげてるんじゃない」
「え。そうだったんですか、なら早く言ってくださいよぉ」
にこにこしながら尻尾を振るキッドを見て、アイリスとジークが苦笑いを浮かべていた。
「すっかりディーナにいいように扱われてるな、キッドの奴」
「ふふ、でも仲が良いっていいことじゃない」
「ぴぃぴぴぃ」
「まあ、そうだな。それじゃ、逗留する宿探しでもするか」
「それなら宿屋の通り、覚えてるから案内するわね」
一行は宿屋の通りに入っていく。どの宿も装飾がとても綺麗で中には鉱物を加工した看板なども見受けられた。やはり悪魔族の領域だけあって、行きかうヒト達は悪魔族が多い。毎度思うことだが、フライハイトに来てから人間族とは顔を会わせたことがなかった。
「そういえばディーナは詩姫のコンサートでシルヴァナインは来てるんだよね?」
「まあね。でもあたしはティフィクスからの順路でしか来たことがないのよね。ティフィクスからヴィクトリオンを経由するとかなり遠いのね。勉強になったわ」
軽くため息を吐いた後、ディーナが両手を軽くあげながら話をしてくれた。
「他に知ってることってあるんですか?」
キッドが更に尋ねる。
「そうねぇ……悪魔族の長は悪魔族の六使のヒトと兄妹って聞いてるわ」
「悪魔族の六使ってベリルさんだよね、ジーク」
「ああ、アーニャ様に合う時に一緒について来てくれたな」
「六使のヒトとは面識があるのね」
感心する仕草をディーナが見せる。
「うん。ベリルさんはアーニャ様とガーライル様と一緒に60年前の戦争を止めた仲間なんだって。会った時はお歳を召してるようには見えなかったけどね」
「まあ、人間族と違って魔族は急激に老化したりしないからそう見えるのよね」
「……」
ちらっとジークが横目で隣にいたアイリスの方を見る。
「あら、ジーク。今アイリスが老けた想像してたんでしょぉ?」
「な、ちげーよ」
「大丈夫ですよ兄貴。兄貴はきっとお嬢が何歳になってもす……もが」
「違うって言ってんだろうが!」
焦った表情を浮かべながらジークがキッドの口を両手で押さえつける。
「ねえ、みんな宿屋さん沢山あるよ! どこに泊まるか迷っちゃうね」
「ぴぃぴぃ」
ジークが大きなため息を漏らす。どうやら聞こえていなかったようで胸を撫でおろす。
「もが、もが!」
「あ、悪い。押さえっぱなしだったぜ」
「酷いですよ、兄貴ぃ!」
「まあ、今のはキッドが悪いわね」
「ふふ、ジーク達楽しそうだねピィちゃん」
「ぴぃぴ!」
「あ、待ってくれよアイリス」
前を歩くアイリスが肩に乗ったピィに笑いかける。その隣にジークが駆けてきて並んで逗留先となる宿屋を決めるために通りを歩いていく。
程なくして逗留先の宿屋は決まり、受付を済ませたアイリス達はそれぞれの部屋に落ち着くことになった。夕食時には皆で備え付けの食堂に集まり、美味しい料理に舌鼓を打つ。明日は族長の元を訪ねる予定を決め、各自ふかふかのベッドで眠りについた。
かくしてシルヴァナインの夜は更けていく。夜の街には微かに霧がかかっていたのだった。
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