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第163話 託された手紙

 ジークとのデートから帰ってきたアイリスの表情はいつもと同じように明るくなっていた。ディーナやキッドも心配していたのだろう、帰ってからは共に時間を過ごしていた。


「私、ちょっと一旦部屋に戻ってくるね」

「ぴぃぴ」


 夕食後の談話室でゆったりと過ごしていたアイリスが何か物を取りに部屋へと戻っていく。


「おう、気を付けていけよ」

「うん、ありがと」


 アイリスが談話室から出て行くと、ディーナとキッドが楽しそうな表情を浮かべながらジークが座っていた長いソファの両方に座ってきた。


「な、なんだよお前ら?」


「ジーク、あなた弱腰に見てたけどなかなかやるじゃない」

「そうですよぉ、兄貴。お嬢元気になったじゃないですかー」

「まさか、ジークがあんなに真っ向からデートに誘うとは思わなかったわ、あたし」


「ばっ、別にいいだろ。オレはアイリスの聖騎士なんだから!」

『ふ~ん』

「何じーっと見てんだよっ。で、デートしてきたくらいで大げさなんだよお前らっ」


 ディーナとキッドが左右から含み笑いをしながらじーっとジークの方を見つめる。すると先ほどまでのことを思い出してしまったのか、彼の顔がゆっくりと赤くなっていく。ピンと立った両耳の先まで赤みを帯びる。


「あー、もう近い近い!!」


 我慢できずにジークが立ち上がる。尻尾が勢いよく左右に振れていた。


「兄貴って本当にわかりやすいですよねぇ」

「本当ね。気づかないアイリスは余程鈍いわよね」

「お前たちなぁ……!」


「ごめんね、お待たせ」

「ぴぃ」


 ジークが声を荒げようとしたちょうどその時、アイリスが談話室に戻ってきた。ジークは慌てて近くにあった椅子に座る。その様子をディーナ達は面白い様子で見ていた。


「なんだか楽しそうな声が聞こえてたけど、何かあったの?」


「べ、別にたいしたことない話さ。な?」

「どうでしょうねぇ~」

「そうねぇ」


 思わせぶりな言い方をするディーナとキッドを無言でジークが睨みつける。これ以上いじると噛みついてきそうな雰囲気を察して二人が身を引く。


「なぁに? 私にも教えてよ」

「えっと、あれだ。今日の夕食も豪華だったよなって話だよ」

「ああ、そうだったんだ。うん、シャルさん達が用意してくれるご飯美味しいよね」

「うんうん。だよな!」


 額に冷や汗を浮かべながらジークがアイリスと話を合わせる。どうやらアイリスも信じてくれたようだ。アイリスに見えないようにジークが胸を撫でおろす。


 そんな中、談話室の扉が数回ノックされる。アイリスが扉を開けるとシャルとカルが立っていた。


「やあ、楽しそうな話の途中失礼するよぉ」

「ごめんね、夕食後なのに」


「いえ、大丈夫ですよ」


 アイリスに手招きされ、二人が談話室に入ってくる。そのまま近くの椅子に腰かけたシャルが口を開く。


「少しみんなに話があってね。時間もらえるかな?」


「はい。構いませんよ」

「ありがとう、アイリスちゃん」


 軽く目くばせした後、シャルが口を開いた。カルは椅子には腰を下ろさずにシャルの隣で立ってアイリス達を見ていた。


「試練も終わったし、そろそろヴィクトリオンを出発する日取りも決まったかな?」


「はい。ちょうど今話していた所でした」

「結構長く滞在してたしね」

「師匠とまた離れちゃうの寂しいですねぇ」

「また会えるでしょ。くよくよしないの」


 ジークがいじられるより少し前。夕食が終わった直後の話し合いでそろそろヴィクトリオンを出発しようという話が持ち上がっていたのだ。


「ふふ。アイリスちゃん達が旅立った後はオレもまたマルムに戻ることになるなぁ」


「ボクはアイリスちゃん達のおかげで兄さんとゆっくり過ごせたのは嬉しかったけどね」


「ああ、そうだねぇ」

 

 アイリスが口を開く。


「やっぱり『竜信仰』のヒト達の目を欺くためですか?」


「ああ、そうだね。これからが本番って言ってもいいからね」


「シャルさん、どういうこと?」


 気になったジークが口を挟む。


「竜の聖域ドラゴマルクへアイリスちゃん達が辿り着いた時、事態は大きく動くとオレは思ってるんだ」


「それってキッドのことがあるからかしら?」


 ディーナも続いて口を開く。シャルは静かに頷きながら言葉を続ける。


「そうだね。『竜信仰』のこれ以上の拡大を止める為にも、混乱下にあるドラゴマルクを安定させるためにもキッドの存在が必要不可欠なんだ。アイリスちゃん、ジーク、そしてディーナ。どうかキッドを宜しく頼むね」


「な、なんかボクすごくドキドキして来ました……」


「キッドは通常通り旅を続けて大丈夫だよ。『竜の心眼』さえ発現させなければ相手側に悟られることもないだろうから」


「ふう、良かったですぅ」


 カルがキッドを見て微笑みながら安心させる言葉を掛ける。


「そしてこれを持っていって欲しいんだ」


 シャルがアイリスに向けて一通の手紙を差し出した。裏を返すと獅子族の長の証が刻まれた封蝋が押されていた。


「シャルさん、これは?」


「獅子族の長シャルとしてキッドの身を証明する証書が入ってる。それをドラゴマルクにいる族長代理であるパルジファル様に届けて欲しいんだ。アイリスちゃんに託すのが一番良いとオレが判断したんだよ」


「……わかりました。必ず届けますね」


「お願いね、アイリスちゃん」


 以前カセドケプルで預かったローエングリンからの手紙に次いで二通目の手紙を預かることになったアイリス達。


 話はそれで終わりを迎えた。一行がヴィクトリオンを旅立つ日が近づいていた。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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