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第162話 二人の約束

 渾身のデートの誘いを受けたアイリスはジークとヴィクトリオンの街に出かけることに。誘われたアイリスもすんなりと了承してくれてジークは内心嬉しさと安心感に包まれていたのだった。


 立ち寄った喫茶店で特産のお茶を飲みながらジークは自分の故郷、ウルフォードのことをアイリスに話していた。


「旅の中で色んな街を見て来たけど、やっぱりウルフォードは田舎って感じなんだよなぁ」


「そうなの? どんな所が?」


 興味を持ってくれたようでアイリスが覗き込むように尋ねてくる。尻尾を左右に振りながらジークが言葉を返す。


「んー、まずこういう喫茶店はないかな。冒険者ギルドの出張所はあるけど、規模は小さいし……まあ、酒場くらいはあるか」


「お店とか少ないんだ?」


「そうだな。昔からひいきにしてる服屋とか飯屋はあるけど、今まで見てきたような大きな通りとかっていうのはないな。建物もそんなに多くないし。土地は広いんだけどな」


 アイリスはジークの話を楽しそうに聞いていた。考えてみれば、ジークの故郷の話をちゃんと聞くのは初めてのことかもしれない。それほど、ジークはウルフォードに関連することを今まで話していなかったというのもあるが。


「でも、良い所なんでしょ? ジーク、今までの話の中で『嫌い』とは言ってないもん」


「ああ、良い所だよ。森は静かで、木漏れ日はとっても温かいんだ。思わず昼寝しそうになるくらいにさ」


「いいな、私も木漏れ日に当たってみたくなっちゃう」


「まあ……オレも久しぶりに帰りたくなってきてるかも」

「ヴァルムさんに会って話をしたからでしょ?」


 にこやかにアイリスがジークの考えを当ててみせる。そういう所はジークは顔に出るのをアイリスもわかっていた。


「んーアイリスは結構オレの考えてること、わかるよな」

「ふふ、だってジーク楽しそうに話しているし……両耳がピンと立ってるから」

「あー、これ癖なんだよなぁ」


 今もピンと立っている両耳を両手で抑えながらジークとアイリスは笑い合っていた。内心、自分のことをどう思っているか等聞きたいことは山ほどあったが今回の目的とはずれるような気がしたのでジークはその思いは飲み込むことにした。


「ここまで結構旅をしてきたね」

「ああ、そうだな」


「色々なことがあったのにまだ試練は二つ目だもんね」

「確かになぁ……フライハイトに入ってまだ二つ目の領域だもんな」


 喫茶店の席から見える外の雑踏に目をやりながら二人で言葉を交わしていた。


「色々……あったもんね」

「アイリス?」

「あ、えっと、今回の試練も大変だったもんねっ」


 アイリスはびくっと肩を上げながらジークの方に顔を向ける。


「そろそろ出るか。次はお店巡りでもしようぜ」

「うん、わかった」


 ジークは慌てたようなアイリスの反応には何も言わず、次の予定を口にする。アイリスもそれに合わせて一緒に喫茶店を後にした。


 大通りに出ると服やアクセサリーのお店が並ぶ通りへと二人で入っていく。獅子族の土地というのもあって獅子族が愛用するものが多かったが一応他種族、人間族用のものも並んでいた。


「お、一応人間族用のものもあるんだな」

「でも結構柄が派手かも……」

「はは、確かに獅子族っぽいもんな」

「うん、そうなんだよね」


 二人は会話をしながら通りを歩いていく。どこに行っても聖女の試練達成の話が持ち上がっていた。それほど今の自分達のやっていることは注目されているということだろう。


「でも、良かったよな。そのローブ貰って」

「うん、私も助かってるもん」


 今アイリスが纏っている認識阻害のローブがなければ、狼族の少年と一緒に歩いている人間族の女の子というだけで『聖女』と『聖騎士』というのが一目でばれてヒト混みに囲まれてしまっていただろう。


 一通り衣服や装飾品のお店を見て周ると夕方に近づいているようで空が淡く、朱く染まってきているのがわかった。


「ジーク、そろそろ神殿に戻る?」

「あ、もう一つ寄っていきたい所があるんだ。もう少し付き合ってくれるか?」

「うん、いいよ」

「ありがと」


 そう言ってジークはアイリスを先導してある場所に足を運ぶのだった。


「あれ? ここって」


 アイリスが気づく。そこは以前スカ―と名乗っていたカルと一緒に街を散策して立ち寄った静かな広場だった。


「どうして此処なの?」

「え? いや、何ていうかその……上書きしたかったっていうか」


 最後の方の言葉は呟くように小声になっていた。


「え? 何?」

「こ、ここ静かそうだったからさ。最後に落ち着きたかったんだよ。うんうん!」


 そうはぐらかして、広場の長椅子に二人で腰かける。ジークはそこから見える噴水や空の話をして間を持たせようとしていた。その様子を見て、アイリスが笑みを浮かべていた。


「……ねえ、ジーク」

「ん? なんだよ、アイリス」

「ありがとうね」

「え? な、なんだよいきなり」


 隣に座るアイリスがジークの方を見ながら口を開く。慌てたようにジークも身体を内側に向けた。


「私を元気づけてくれるために誘ってくれたんでしょ……?」


 頭の毛をくしゃくしゃと証が刻まれた左手で掻きながらジークが口を開く。


「いつも元気なお前が珍しく……落ち込んでたように見えたからさ」


「やっぱりばれちゃってたんだね。私隠すの下手なのかな」


 アイリスは苦笑いを浮かべながらジークに応えていた。


「仕方ないよな。いきなり、『世界に潜む闇』って言われてもさ」

「うん……正直まだ受け止め切れてない感じがするの」

「いいんじゃないか」

「え?」


 アイリスに向かってジークが微笑む。


「まだ旅は続くんだからさ。ゆっくり嚙んで、呑み込んでいけばいいのさ」

「……ジーク」


 トクン、と自分の中で鼓動がしたようにアイリスが感じていた。


「それにさ、そういう所も考えてやるのが『聖騎士』の役割だと思うんだよな。前にガーライルさんが言ってたようにさ」


 長椅子の上で足を組み、向こうで流れている噴水の方を見ながらジークが呟く。今日のジークの表情はアイリスにはとても頼もしく見えていた。


「え、えっと……」


 その雰囲気に呑まれたのかアイリスは言葉がいまいち上手く出せずにいた。その様子を軽く笑いながら再びジークが言葉を掛ける。


「約束するよ……アイリスの悩みはオレが必ず受け止める。だから、お前もさ……オレの前では素直になってくると……その……なんていうかさ」


 一番良いところで言葉たらずなジーク。その様子をディーナが見ていたら絶対に小言の嵐だっただろう。


「ありがとう、ジーク。うん、二人の約束だね」

「どういたしまして」


 笑い合っていると夕日が沈みかけていた。


「そろそろ帰るか」

「うん、そうだね」


 二人は長椅子から立ち上がると神殿に向かって歩き出した。途中でジークが左手をもじもじしていたが、残念なことにアイリスには気づかれなかったようだ。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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