第161話 ジークからの誘い
『力の試練』を達成したその日にキッドの異変やシャル達の過去、そして世界の影に存在している『竜信仰』の話を聞かされたアイリス達は部屋に戻ったあと各自でその事実を受け入れたり考えたりして明日を迎えることになった。
まだ誰も起きていないだろう早朝の時間、ジークの部屋ではベッドに横になって天井をずっと見つめながら何かを考えているジークの姿があった。聖騎士の紋章が刻まれた左手を掲げてぎゅっと握る仕草をする。
「……よし」
翌朝、各自朝食に呼ばれ廊下で顔を合わせた。
「おはよ、みんなよく眠れたかしら」
「おはようございます、兄貴、お嬢」
「おう、おはよ」
「うん、おはようみんな……」
「ぴぃ」
ディーナ、キッドが先に部屋から出てきた。それからジーク、アイリスの順であいさつを交わしていく。アイリスは珍しく眠そうな表情を浮かべていた。
「アイリス、あなたちゃんと眠れたの?」
「あ……うん。大丈夫」
「そう? ならいいけれど」
ディーナが気にかけて声をかけるが、アイリスは大丈夫だと言葉を返す。廊下で立ち話を少しした後、四人は朝食が準備している部屋へと歩いていく。
朝食も豪華なものが沢山あり、キッドはディーナに注意されながらも口いっぱいに頬張っていた。それをみてジークもアイリスも笑みを浮かべていた。
シャルとカルも同席していたが、挨拶は交わしたが特に会話はなかった。
「それじゃ私、先に部屋に戻るね」
「あ、はい。ピィさんもボクの肩に乗ってるので後でお嬢の部屋に連れていきますねぇ」
「うん。お願いね、キッド」
「……」
食事中、いつの間にかピィはアイリスの肩からキッドの肩に移っていた。ディーナは部屋を後にするアイリスを見つめていた。
「はぁ……あれは結構重症ね」
「ふぇ? 何がですかディーナ」
「あなたは気にしなくていいわ。美味しいものでも食べてなさい。ねえ、ジーク……あれ?」
ディーナがジークに声を掛けようとすると彼の姿も既になかった。
「アイリスっ」
「ジーク? もうご飯はいいの?」
部屋に戻るまでの廊下で先に出たアイリスにジークが駆け足で追いつき、声を掛けてきた。両耳はピンと伸びていて、尻尾には力が入ったかのように上を向いている。
「ああ、もう済ませたんだ」
「そうなんだ」
少し俯き加減でアイリスが前を向く。それを見てジークが再び声を掛ける。
「なあ、アイリス」
「ん?」
「この後オレと街に行かないか?」
「え……それって」
「うん。で、デートの……誘いってやつ」
顔がだんだん赤くなるのを悟られないように身体を傾けながら、ジークがアイリスを誘う。
「……うん。行く」
刹那呆けたような表情を浮かべたアイリスだが、そのあと一言呟いた。それを廊下の角からディーナとキッドが見ていた。
「あら……なかなかやるじゃないジーク」
「兄貴、なんか気合入ってますね。もぐもぐ」
その後部屋に戻ったアイリスは鏡の前で身だしなみを整える。少し口元が緩んでいるようにも見えた。聖女の証が刻まれた右手を胸にそっと当てて、ジークが待つ部屋の外に出て行く。
「ごめんね。待った?」
「あ、いや、オレも今出てきた所だよ。じゃ、行こうぜ」
「うんっ」
認識阻害のローブに身を纏ったアイリスと隣を歩くジークが神殿の外に出かけていく。街では『聖女が力の試練を乗り越えた』ニュースでもちきりだった。
「何かいつにもまして賑わってるね」
「ああ、見れなかったとはいえオレ達が試練を越えたことが知られてるんだなぁ」
雑踏を抜けながら二人が言葉を交わしていた。
「ねえ、ジーク」
「ん?」
「今日は何処に連れていってくれるの?」
後ろに手を回しながらアイリスが笑顔で尋ねてきた。いつもよりも可愛らしくジークの目には映っていた。視線を外しながらジークが答える。
「と、とりあえずお茶でもするかっ」
「うん。わかった」
二人は雑踏を越えて、喫茶店などがある通りへと移動する。ちょうどいいお店をみつけたので二人で入る。ヴィクトリオンでとれた茶葉で淹れたお茶を注文する。
「美味しいね、このお茶」
「ああ、やっぱりウルフォードのお茶とはまた味が違うなぁ」
「やっぱりそういうのあるんだ」
「ああ、その土地の環境とかで味って変わるみたいだな」
アイリスは口に少しお茶を含んで飲み込むと、口を開いた。
「そういえばウルフォードってどんな所なのか、聞いてなかった気がするね」
「あー、確かにあんまり旅の中では話してなかったかもなぁ」
「教えてくれる?」
「ああ、いいぜ」
穏やかな表情でアイリスが尋ねてくる。ジークも微笑みながら言葉を返すのだった。
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