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第160話 竜信仰の闇

 シャルとカルから15年前の話を聞かされたアイリス達。二人と先代の竜人族の長アルビオンとの関係もその話を聞いて理解できた。だが、シャルの口からアルビオンは殺されたのだと告げられる。


「殺された?!」

「ぴぃぴぃ?!」


 ジークの肩に移っていたピィもジークと同じように声を上げる。


「シャルさん、さっき言っていた『竜信仰』って一体……?」


「そうだね。アイリスちゃんは今代の聖女だからね……オレ達が言わなくてもいずれ先代の聖女アーニャ様から聞かされることもあることだ。なら今説明したほうがいいかもねぇ」


 軽く深呼吸した後、シャルが言葉を続ける。


「まず皆は『竜』という存在を知っているかな?」


「『竜』って昔話とか本に出てくるもののことですか?」

「伝説の存在っていう奴だろ? おとぎ話の中の」

「ボクは全然わかりません……!」

「確か、あたし達魔族の祖先って言われてるわよね」


 アイリス、ジーク、キッド、ディーナがそれぞれ問われた『竜』という存在について反応してみせる。


「そう。『竜』という存在は伝説上のもので、オレ達魔族の祖先にあたると言われてるものさ。そして竜人族がその血が濃いと言われている。『竜信仰』というのは竜の聖域ドラゴマルクの影で勢力を増している一つの教団の総称なんだ」


「その勢力はドラゴマルク内に留まらず、この世界全体に広がっているんだ。現に先代獅子族の長グリードも『竜信仰』の息がかかっていたからね」


 シャルの後に続いてカルも口を開く。


「でもグリードってシャルさんに負けた後に捕まっただろ?」


「彼も捕まった後に暗殺されてるんだ」


「……まじかよ」


 事態が重いものだと感じたジークの顔が険しくなる。アイリス達も同様だ。シャルが話を続ける。


「オレ達の調べによれば60年前の人間族と魔族の間で起きた戦争も引き金は『竜信仰』の教徒達の可能性があるって話だからねぇ。それほど奴らの勢力は世界の影で広がっているのさ。アルビオンのおじきはそのことにいち早く対応して、『竜信仰』の息がかかったグリードが支配していたこのヴィクトリオンの開放に動いてくれたのさ」


「そして奴らにとって邪魔な存在になったアルビオンさんは……ボク達がもっと早くその存在を知っていれば……っ」


「カル、アイリスちゃん達に説明している時に感情的になっちゃだめだよ」

「ごめん、兄さん」


 アイリス達はシャル達の話を真面目に聞いていた。


「つまり、その『竜信仰』の奴らの存在があるからシャルさんの影としてカルさんが族長を名乗っていて、信頼できるヒト達だけが今この神殿にいるってこと?」


「ジークの言ったことで概ね合ってるよぉ。どの種族であっても奴らの息がかかった教徒がまじっているのが今の世だからね。用心しているってわけさ」


 ジークは深く頷く。その横でディーナが口を開く。


「なるほどね……なんだか物騒な話になってきたと思ったらそんな教団があったなんて。あたしでも知らなかったわ。これからはあたし達も気を付けていかないとね」


「そうしてくれるとオレ達も安心できるよ」


 シャルがさらに言葉を続ける。


「そして『竜信仰』の温床になっているドラゴマルクには今、族長は不在になってる。アイリスちゃん達も知っている通り代理としてアルビオンのおじきの右腕であり穏健派のパルジファル様が何とか場を持たせているんだ」


「それでキッドの存在が大事になってくるってことなんですね」


「その通りだよアイリスちゃん。まだ仮定の段階ではあるけど、キッドが混迷を極めている現在のドラゴマルクにとって重要な人物だとオレ達は思っているんだ。恐らくは竜人族の六使ローエングリンも同じことを考えているんだと思うよぉ」


「ボクが重要な人物……ですか」


 呆けたような表情をキッドが浮かべている。恐らく話をまだ十分に理解出来ていないようだった。


 アルビオンと同じ『逆鱗』を持ち、雷の力を使え『父親』と言っている者はアルビオンの弟の『モーガン』ということを聞けばある程度の可能性を感じるだろうが、当人にしてみれば今はまだ受け入れるに早いということだろう。


「まあ、今はそんな感じでいいかもしれないわね。あたし達だってまだ半信半疑の仮定の話だって思ってるんだし」


「そうだな。キッドは今のままでいいかもな」

「ぴぃぴぃ」


 キッドを見ながらジークとディーナが言葉を交わす。


「アイリスちゃんもここまでの話は大丈夫かなぁ?」

「はい……正直すごい大きな問題で私も理解するには時間がかかりそうです」

「そうだろうね。でも今はそれで充分だよ」


 自分の知らない所で世界が動いているという事実はアイリスにとっても刺激が強かったようだ。だが今代の聖女である彼女はそのことも受け入れていかなければいけないのだ。


「さて、大体の話はこれで終わりにしようか。かなり長い時間をとってしまったからね。みんなも今日の試練で疲れてるし、病み上がりでもあるから後は部屋に戻って身体を休めてよ」


 シャルの一言で食事後の会話は幕を閉じることになった。アイリス達は各自の部屋に戻るために長い廊下を歩いていた。


「なんかすごい話だったな」


 ジークがアイリスに話しかける。


「うん。まだちゃんと受け止められるか私心配だな」

「オレがついてるぜ。聖女のことを護るのが聖騎士の務めだからなっ」

「ありがと、ジーク。……ちょっと手、握ってもいい?」

「へ?! あ、う、うん。いいぜ」


 そっとアイリスがジークのふわふわした左手を握る。おどおどしていたジークだが、握られた時にその手が震えていたのを感じてぎゅっと力強く握り返す。


「ありがとう」

「ああ」


 その時アイリスはとても安心した表情を浮かべていた。そのまま二人は部屋までの廊下を歩いていく。


「お嬢達いい感じですねぇ」

「もっとぐいぐい行けばいいのに。……っていうか今回の話、あなた理解出来てるの?」

「んー、話が難しすぎて半分も頭に入ってこないんですよねぇ」

「……まあ、今はそれでいいかもね。ほら、行くわよ」

「あ、待ってくださいよディーナ」


 アイリス達に続いてキッドとディーナも部屋へと戻るのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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