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第158話 シャルとカルの過去

 キッドの話の中に出てくる『父親』は先代竜人族の長アルビオンの弟モーガンだった。一つの可能性が垣間見えた時、アイリスはシャル達に何故アルビオン周辺の情報などを集めたり、それに沿って行動しているか尋ねるのだった。


「双子のオレ達が子供だった頃、ヴィクトリオンにはスラムがあったんだよねぇ」

「え? 街にそんな所あったか?」

「ううん、色々歩いたけどなかったよ」


 シャルが呟くと、ジークが反応する。アイリス達もその言葉は理解していた。カルが代わりにに答える。


「兄さんが族長になってから廃止されたんだよ。今のヴィクトリオンには孤児院もちゃんとあるしね」


「今から15年前、まだこのヴィクトリオンに『貧困』という病気が蔓延していた時の話をしようかねぇ……」


 シャルは一度閉じた瞳をゆっくりと開けながら語り始めた。


◇◆◇


 今から15年前、つまり先代獅子族の長グリードが統治していた頃のヴィクトリオンには当時の貧困によって捨てられた子供達等が身を寄せ合って出来たスラムがあった。


「兄さん……お腹すいたね」

「大丈夫だ、カル。オレが今日も何か食べ物をとってくるから」

「昨日、怖いヒトに見つかって兄さんボロボロじゃないか……ごめんね。ボクも身体が弱くなければ……」


 幼い頃のシャルは首を左右に振りながら口を開く。


「カルはそんなこと心配しなくていいんだ。今日は上手く忍び込むさ」


 スラムから大通りに出れば賑やかなお店が立ち並んでいた。そこから今日の食べ物を調達してくるのが日課になっていたのだ。


 当時のヴィクトリオンに蔓延していた『貧困』は族長であるグリードの傲慢ともいえる統治から生じたものだった。元々、この地は代々『強い者』が族長になってきた。その当時一番強かったのがグリードだったのだ。


「でも今日は止めておいたほうがいいんじゃない? 確か竜人族の偉いヒトが来るからスラムにいる皆は大通りに出るなって衛兵さんが言いに来たじゃないか」


「そんなの関係ないさ! 逆に食べ物が手に入りやすくなるかもしれないだろ」


「兄さん……ボク達いつまでこんな生活をしなきゃいけないんだろうね」


「……オレ達が弱いから駄目なんだ……『力』さえあれば……」


 シャルとカルが俯き加減で話をしている時、通りから人影が近づいてくる。その者は巨躯を持ち、同時に優しい声で双子の兄弟に言葉を掛けてきたのだ。


「スラムにいる者達は皆、自らの行く道を諦めた子供達ばかりだと思ったが……中々骨がある子供達もいるものだな」


「あんた誰だよ……?」

「おじさんは一体……?」


 背中に赤い鱗を携え、鎧を纏った竜人族の男だった。男は言葉を続ける。


「『強く』なって何を望む? 子供達よ」


「……このヴィクトリオンから『貧困』なんか無くして、豪華な神殿でも立ててやる!」

「ボク達のように悲しい思いをするヒトを無くしたいです……!」


 双子の真っすぐな瞳を見たその男は二人の持つ才能に気付き、自分が滞在している間に特訓をしてやると約束してくれた。その者こそ先代竜人族の長アルビオンだったのだ。


 特訓は街の外れの人気のない森の奥で行われた。毎日ボロボロになるまで特訓を受ける日々が続いた。


「おじきはどうしてヴィクトリオンに何日も滞在してるのさ。」


 アルビオンが用意してくれた食べ物を口に頬張りながらシャルが尋ねる。


「今の族長グリードの統治に問題があるとドラゴマルクまで噂が広がってきたのだ。それを確かめるための視察でこの地に訪れたが、大事なスラムのような場所の説明は一切なかった。それどころか奴め、金でこちらを丸めこようとしてきよったのだ」


「アルビオンさんは……グリードとは違うんですね」


 カルも病弱さが段々と無くなって顔色もよくなり、シャルの隣で話を聞いていた。


「戦争はもうとっくに終わっているのに、孤児がスラムに溢れるなど考えられんからなぁ。こっそりと抜け出してこうしてお前達に特訓をしているというわけだ。強くなれよ、二人とも」


「でも何でオレ達を選んだのさ?」

「ボクも気になってました」


「ふふ、それはな。お前達二人の瞳の奥に『心眼』の光を見たからだ」


『心眼……?』


 竜の心眼を持っていたアルビオンには双子の二人が『心眼』の才を持っていることを見抜いていたのだ。特訓の内容もその発現を促すためのものだった。


 それからしばらくして二人は『心眼』を開花させることになり、実力を着実につけて行った。そしてアルビオンとの別れの時がやってきた。


「もう行っちゃうのかよ、おじきぃ」

「もっと色々教えてもらいたかったです……」


「はは、いつまでも親離れが出来ぬ奴らではこの地を任せられんだろうが」


 気さくに笑いながら二人の頭を何度も撫でる。視察の期間が終わり、グリードにも早く帰るように催促されるようになったということだった。


「今はつらいかもしれぬ。だが、お前達が力を極めた時、この地に平穏は必ず訪れる。その時まで切磋琢磨するのだ」


「オレ達なら今回開かれる族長を決める闘技でだってグリードを倒せるかもしれないじゃないか!」


「ならん……! 今は力をよく貯めておけ。早く咲いた花は踏みにじられてしまうからな。この地に溢れている影は『貧困』だけではないということだ。こちらの準備が整った時、使いを寄越す……その時までは『心眼』を他所で使うことは禁ずる。わかったな、二人とも」


「……わかったよ」

「わかりました」


 アルビオンが去ってから3年の歳月が経った。アルビオンの言いつけ通り修練を重ねたシャルとカルは8歳を迎えスラムでひっそりと生きていた。そこにアルビオンが再びヴィクトリオンを訪れるという報せが二人の元に届いたのだ。


 その年も族長を決める闘技があり、グリードが今回も勝つだろうという皆の予想だったが今回は毎年の闘技とは違い竜人族の長アルビオンも闘技を観戦することになっていたのだった。


◇◆◇


更に昔話は続く。



数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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