第14話 光の矢
儀式の間を後にしたアイリス達はアーニャ達に連れられて、かつて修練場で使われていた場所に来ていた。
「ここは昔、私達がよく剣の特訓をしていた場所なの」
「昔の君はとてもおてんばだったからね」
「確かにな」
アーニャを見て、懐かしむようにリチャードやガーライルが口にした。
史実では全盛期のアーニャも光の剣を携えて、前線で活躍していたという話だ。
その時に使用していた場所だとリチャードが説明してくれた。
「これからここで何をするんですか?」
アイリスが周りを見渡しながら尋ねる。
「ここではまず、ジークの腕前を見せてもらうわ」
アーニャの言葉を聞いて、今まで見ているだけだったジークが生き生きとした表情を浮かべる。
「お、待ってましたっ」
ジークが体を動かしてみせる。
種族的にも狼族は戦いに適した種族だとアイリスも何かの本で読んだ記憶があった。
そして、ジークが戦っている所を初めてみるということもあり、アイリスも興味を持っていた。
それはアーニャやガーライル達も同様のようだ。
「これを使ってくれ」
リチャードは壁にかけてあった練習用の木刀をジークに手渡す。
ジークは慣れたように右手で何度か木刀を振って重さなどを確認する。
「うん、いい感じだね」
「剣を使ったことはあるようだね」
「昔から父さんに教えてもらっていましたから」
ジークは剣を構える。アイリスから見てもかなり様になっていた。
「ではガーライル頼むよ」
「わかった」
リチャードからお願いされたガーライルは両の手を合わせると、そのまま地面に両手をつける。すると地面から土が盛り上がり、人型の土人形が何体か生成された。聞くと、土魔法の応用なのだそうだ。
「ではジークくん、腕前を見せてもらおうか」
「はいっ!」
ジークがぺろりと舌をみせて、戦いの顔つきに変わる。
素早く前方に跳躍して、土人形達の真ん中に着地する。そのまま足のばねを生かして、姿勢を低くし、そこから回し蹴りを数発繰り出す。そして右手の木刀を構えると連撃を土人形にお見舞いする。
一連の動作をした後に再び木刀をジークが構えると周りの土人形が崩れ、元の土の塊へとかえっていく。
ふん、と自信たっぷりの表情をジークは浮かべていた。
「ほう、これはすごいな」
「ええ、そうね」
「……」
リチャード、アーニャが拍手をしてみせる。
ガーライルだけは黙ってみていた。
「大したことないですよ、これくらい。でもなんか身体が前より軽い気が……」
「それは貴方が聖騎士に選ばれたことで『祝福』を受けたからよ」
『祝福』とは聖女から聖騎士に任命された者にもたらせる加護なのだという。
何の加護を得たかは成長しなければわらかないようだが、初期の段階でも身体能力の向上などがあるそうだ。
なるほど、とジークは確かめるように拳を何度か握っては開く素振りを見せる。
「ジークの腕前は問題ないわね。それじゃ、アイリス、次は貴方の番よ」
「えっと、私は何をすればいいんですか?」
「聖女の力は知っているかしら」
「癒しの力だって聞いたことがあります」
「その通りよ。治癒の力、聖女が大いなる意思から与えられた加護の一つね」
治癒の力は聖女を語る上で最も有名なものである。
代々聖女はこの力と共にアルカディアの民を救ってきたのだ。
「そして聖女にはもう一つの加護があるの。それを私から貴方に伝えます」
ゆっくりと深呼吸すると、アーニャが凛とした表情で語る。
「アイリス、貴方には聖女だけが使える魔法……『神聖魔法』を使えるようになってもらいます。この先の旅の中で貴方を守り、大切なものを脅威から守るために必要な力です」
本来アルカディアに存在する魔法は『火・水・風・土』の四系統であり、魔力の素質があるものが習得することが可能である。
高度な魔法はそれにみあった資質と練度が必要とされており、現在はある程度体系化されている。
それとは異なるのが聖女だけが使える魔法、『神聖魔法』である。
更にアーニャが口にした『脅威』とは主に『魔物』のことを指しているのであろう。
魔物とはアルカディアの世界に生息する人間族・魔族共通の害獣の類であり、その容姿や種類は様々で主に冒険者が対処にあたる存在である。
「聖女の使う神聖魔法もある程度は体系化されているの。『想いの力』と『名を紡ぐ』ことで使うことが出来るわ」
体系化された神聖魔法は癒す力と同様、習得はある程度の練習を積めばそこまで難しいものではないとアーニャは優しく説明してくれた。
「あとはアイリス、貴方だけの神聖魔法を生み出すことが必要ね」
「私だけの神聖魔法……」
アーニャは言葉を続ける。
「貴方自身が守りたいと思うものを思い浮かべて。その『想い』が貴方の中に眠る力を引き出してくれるはずよ」
「私の守りたいもの……」
再びガーライルが土魔法の応用で少し離れた場所に標的となる土人形を作る。
アイリスはゆっくりと歩き出し、正面で立ち止まる。
そして息を深く吐くとその場で静かに目を閉じる。
「大丈夫。貴方ならきっと出来るわ」
「アイリス、頑張れよ!」
「ぴぃぴぃ!」
自分を想ってくれる優しい声が耳に届く。
もう一度深呼吸をしてアイリスは息を整える。
「私は私の大切な皆を守りたい……困ってる誰かの力になりたい……」
アイリスは無意識のうちに左手を前方に掲げた。
すると右手の甲に刻まれた花の紋章が光り輝き、その光が左手へと収束していく。
左手が優しくその光を握りしめる。
光は上下にゆっくりと羽のように広がっていく。
そして上下に伸びた光の羽が弧を描くと弓の形に変化する。
すると再び、右手の甲にある花の紋章が光輝き、右手に光の矢が携えられた。
光の弓と矢が呼び合うように共鳴する。
アイリスは右手の矢を左手の弓にかけ、力の限り引く。
その瞬間、弓を形成する光の羽が羽ばたいた。
アイリスの内側から温かい力が溢れてくる。まるで湧き上がる水のような感覚だ。
目を閉じたアイリスの内から一つの言葉が浮かんでくる。
アイリスは『想い』と共に自らの中にある力の『名を紡ぐ』
「ホーリーアロー!」
口上と共に、一本の光の矢が放たれる。
輝く矢はまっすぐに発射され、土魔法で作られた標的を射抜いたのだった。
「すげえよ、アイリス!」
「ぴぃぴぃ!」
「ええ、とっても素晴らしいわ」
「さすがだね」
「聖女の輝き、見せてもらった」
その様子を見ていた皆が声をあげる。
「これが私の力……みんなを守るための力……!」
アイリスは自分だけの神聖魔法を無事獲得したのだった。
それからアイリスはいくつかの体系化された神聖魔法をアーニャから教えられ、会得することになった。
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