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第155話 逆立つ鱗

 シャルの口から力の試練の内容を変えた理由は『災厄の使徒』との戦いのためだということを聞かされ納得したアイリス達。だが、キッドに起こった異変についてはまだわからないままだった。


 そのことに心あたりがあるシャルが口を開く。


「キッドに起こったことについてだけど、あれは『竜の心眼』と呼ばれる状態なんだよ」


「普通の『心眼』とは違うんですか?」


 アイリスが尋ねるとシャルは静かに首を縦に振る。


「『竜の心眼』というのは『心眼』の祖にあたる存在で、竜人族の中でも『一部』の者が発現する可能性があるものなんだよねぇ」


「それじゃ、キッドってすごいってことじゃない?」


「え、ボクすごいんですか? 何だか嬉しいですね」


 シャルの言葉を聞いたディーナがキッドに言葉をかける。まんざらでもない表情を浮かべるキッドを見ながらアイリスが更に尋ねる。


「『竜の心眼』を発現させると雷を纏うんですか?」


 その質問を受けてシャルが少し閉ざした口に手をかける。


「んー、さすがアイリスちゃん。見ている所が鋭いなぁ」


「ごめんなさい。言いにくいことでしたら、大丈夫ですよ」


「あー、いやヒト払いをしている今だから言っておいたほうがいいかもしれないねぇ」


「兄さん、いいの?」


「キッドはアイリスちゃん達のお供をしてるんだし、元々彼を助けたのもアイリスちゃん達だからね。知る権利はあるさ」


 確かに、とカルは納得したように乗り出した身体を元に戻す。シャルが言葉を続ける。


「厳密には『雷を纏う者が竜の心眼を発現させる』っていうのが正しいんだよね。そして雷を纏う竜人族の者には『逆立つ鱗』が身体の何処かに現れるんだ」


「シャルさん、それって……」

「ぴぃぴぃ」


 シャルが口にした内容は以前のマルムとの秘密であったキッドが『心眼』を使った際に背中の鱗の一枚が逆立つという事実だった。


「ボクに、その逆立つ鱗があるんですか?」

「オレ、初耳だな」

「あたしだって初耳よ」


 キッド、ジーク、ディーナがそれぞれシャルの言葉に反応してみせる。


「まあ、ジーク達が知らないのも仕方ないんだよねぇ。これは初めて気づいたアイリスちゃんとオレとの秘密だったわけだし。内緒にしておいてってお願いしてたからね」


「ごめんね、みんな黙っていて」


「それにオレがキッドに作った鎧で背中の逆立つ鱗が周りから見れないようにしてたのもあるからさぁ」


 キッドが昼間の戦闘中に仕掛けで外れた鎧の背中部分に手をまわして確かる仕草をしてみる。ジークとディーナもその部分に目を向けていた。


「まあ、シャルさんと二人だけの秘密っていう所は気になるけど……ごほん。内緒だったなら仕方ないよな」


 最初の言葉の所は声を小さくして呟くように発していた。途中で咳払いをしてなかったことにしようとしていたジークだったが隣にいたキッドとディーナには丸聞こえだ。


「兄貴……心の声が漏れ出してます」

「本当、馬鹿なんだから」


「ジーク、何か言った? ごめんね、最初の所聞きとれなくって」

「あ、いや何でもないって。はははっ」


 ならいいけど、とアイリスが自然に話を終わらせた。ジークは聖騎士の紋章が刻まれている左手でそっと胸を撫でおろしていた。


「少し脱線しちゃったけれど、キッドには『竜の心眼』を発現する可能性があった。だから今までは秘密にしてきたわけだよ。だけど、同時にキッドが『竜の心眼』を発現する所を見たかったっていうのもあるんだよね」


「シャルさん、それってどういう意味?」

「ぴぃ?」


 ジークが頭を軽く傾げる。難しい話は苦手なのもあるが、頭の回転がいいディーナも同じような仕草をしていた。


「『厄災の使徒』との戦いを想定して皆の特訓を促した結果、土壇場でキッドが『竜の心眼』を発現させたっていうのはオレ達にとっては更に意味があることなんだよ」


「そして、兄さんがマルムという鍛冶師に扮していたことや今のこの神殿内でヒト払いをしている理由もそこにあるんだ。もちろん、ボクが兄さんの影を演じていたのにもね」


 シャルに続いてカルも口を開く。双子で刹那目を合わせていた。


「どういうことですか?」


 二人の仕草を見ながらアイリスが尋ねる。


「実はね、オレ達は探していたんだよ。そこにいる『キッド』を」

「……へ?」


 キッドが思わず可笑しな声を上げたのも無理はなかった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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