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第153話 夕食までの時間

 力の試練後半戦、その終盤で見事ジークが族長シャルに勝利したことで試練を達成したアイリス達。傷ついたシャルやカル、キッド、ジーク達はそれぞれ獅子族の神殿内の医務室に運ばれアイリスの聖女の力で治療を受けるのだった。


「アイリスちゃん、ありがとうね」

「兄さん、聖女様でしょ」

「細かいことはいいんだよ、カル」

「兄さんはそういう所が図太いよね」


 隣り合ったベッドの上で双子の兄弟が言葉を交わしていた。シャルは腰布の中からあるモノを取り出すとアイリスに手渡す。


「はい、アイリスちゃん。試練達成の証『獅子の牙』だよ」


橙色に光る宝石を受け取ったアイリスは『導きの証』に宝石をはめ込んだ。


「ありがとうございます、シャルさん」

「どういたしまして」


「ジークもキッドも怪我はもう平気なの?」


 ディーナが更に隣に寝ている二人に声をかける。


「ああ、アイリスのおかげですっかり傷は塞がったぜ」

「お嬢の力はすごいですよね。痛みも疲れもなくなっちゃうんですから」


「だからってみんな、無理はしないでね」


『はぁい』


 戦いが終われば和やかなもので、アイリスの注意に対して男性陣が声をそろえて返事をする。


「それにしても何だか前回来たときよりも神殿の中が静かですね」

「ぴぃぴぃ」


 ここまで一緒について来たアイリスが気づいたことを口にする。


「ああ、試練の間はほとんどヒト払いをしてるんだよねぇ」


「今いる兵士達は観戦席にいた獅子族の皆と同じように、ボク達の秘密を知っている一部だからね」


「そもそも、どうして双子で影武者なんてしてるんだよシャルさん」


 ベッドから起き上がったジークが尋ねる。


「とりあえず、今はその話は置いておこうか。まずはアイリスちゃん達用の部屋を支度したからそっちに移動してもらって夕食までゆっくり休んでもらおうと思うんだ。難しい話はそれからでもいいでしょぉ」


 少しはぐらかされた印象だったが、シャルの好意に従いジーク達も医務室から各自用意された部屋に移動することになった。


 所変わって此処はジーク用の部屋。まだ動きが鈍いジークの代わりにアイリスが部屋の片づけをしていた。


「悪いな、アイリス。全部やってもらっちゃって」


「ううん。私は結局戦いに参加したのは前半戦だけだし。みんなのおかげで立っていただけだったから。これくらいはさせて」


「お、おう」


 ベッドに入っていたジークの尻尾が大きく左右に揺れていたのはバレていないようだ。


「それにしてもすごかったね。後半の戦い」


「ああ、キッドすごかったよな。後で話聞かないと……」


「それもだけど……ジーク格好良かった」


 少し俯きながらアイリスが呟く。言葉にしている自分もその時のことを思い出すと何故か胸のあたりが微かに熱を帯びていた。


「え……まじ?」


 アイリスが静かに首を縦に振る。隠れているジークの尻尾の揺れが更に大きくなる。


「あのさ、アイリス……オレ」

「え?」


「兄貴、大丈夫ですかー!?」

「ちょっと、キッド。今はやめときなさいってっ」


 いい空気が流れていた所に元気よくキッドが扉を力強く開けてきた。元気になったことで機嫌も良い。ただ空気を読めないだけで。


「あれ……? ボク何かしちゃいました?」


「……」

「……」


 アイリスとジークが顔を逸らしながら首を横に振る。


「せっかく盗み聞いてたっていうのに……」

「ディーナ、何か言いました?」

「何でもないわよ」


 ディーナが軽くため息を漏らしながら呟く。切り替えるようにアイリスが尋ねる。


「キッド、身体はもう大丈夫なの?」


「ええ、お嬢のおかげでもう元気いっぱいですよぉ」


 よく見ると剥がれた背中の鎧の部分も元に戻してあった。結局その後、キッド自身に起こった異変を皆で尋ねたが本人もほとんど自覚はないということだった。


 四人はジークの部屋で乗り越えた試練の話で盛り上がっていた。夕食の時間になると、給仕服を着た使いのヒトが部屋まで呼びにきてくれた。


 夕食は獅子族の神殿お抱えの料理長が作った豪華な料理が卓に並んでいた。


「さあ、お腹も空いただろうから好きに食べるといいよ。オレはお酒も飲むけどね」


 カルに注意されながらも、笑顔でシャルがアイリス達を歓迎してくれた。ディーナだけはお酒を楽しく飲んでいた。ジークとキッドはお腹がとても空いていたらしく沢山食べていた。アイリスはピィと共にその様子を嬉しそうに眺めていたのだった。


 夕食も終わりに近づいた時、シャルが口を開く。


「さて、そろそろ落ち着いて話せる頃合いかなぁ」

「そうだね、兄さん」


 シャルとカルが軽く見つめ合うとシャルの言葉が続く。


「まずは今代の聖女であるアイリスちゃん、聖騎士であるジーク、そしてキッドとディーナ。『力の試練』突破おめでとう」


 シャルの言葉に合わせて隣に座っていたカルも拍手を送る。


「ありがとうございます、シャルさん。カルさん」


「色々驚いたけど、まあ何とかなって良かった」


「ボクも何だか色々ありすぎて戸惑ってますけど、兄貴と同じです」


「見ていてひやひやしたわよ、あたしは」


 アイリス達がそれぞれシャルから贈られた言葉に反応する。


「でも実は『力の試練』そのものは、ヴィクトリオンに来た時点で既に終わってたんだけどねぇ」


 さらっと笑顔でシャルが言葉をアイリス達に掛ける。その後、驚きの声を全員があげたのは想像にたやすかった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。評価やブックマークなどをして頂けると、嬉しいです。

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