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第152話 勝者と敗者

 キッドの強化によって戦況は大きく変化した。カルに大きなダメージを与えたジーク達は一気に勝負を決める為に動こうとしていた。


「カル、動けるかい?」

「はは……ごめん兄さん。無理そうだよ」

「後はオレがやるから休んでいなよ」

「ありがとう、兄さん」


 屈んでいるカルにシャルが柔らかい表情で声を掛ける。そして戦士の顔に戻ったシャルの手には自らの直剣とカルが使っていた曲がる剣が握られていた。


「さて、オレも気合を入れようかなぁ……!」


 しなやかな尻尾が力強く揺れていた。


「行くぞ、キッド!」

「はい、兄貴!」


 先陣を切って、ジークが闘技場を駆ける。それを追うようにキッドもシャル達に向けて駆け出す。二人の動きを予測したシャルもこれに対応する。


「『狼牙突(ろうがとつ)』!!」

「『獅突(しとつ)』!!」


ガキィィィン!!


「本当に強くなったね、ジーク!」

「そりゃ、あんたの弟にひどい負け方したからね!!」

「ふふ、それはそうだっ」


「師匠、覚悟してください!!」


 お互いの技がしのぎを削っている隙をついて、キッドの雷を纏った剣での一撃がシャルを捉える。


「キッド、確かにキミも強くなったねぇ……だけどオレも負けてはいられないんだよねぇ!!」


「何!?」

「え!?」


 シャルは身体を捻らせてジークの攻撃を受け流すと同時にカルから借りた曲剣を構え、キッドに向けて剣技を放つ。正に一瞬の出来事だった。


「『獅子一閃(ししいっせん)』!!」


「ぐあ!!!」


 キッドの太刀筋を見切ったシャルの一撃がキッドに直撃し、後方に吹き飛ばされる。


「キッド!」


 受け流されて体制を崩したジークが、片手で受け身を取って立て直しながらキッドに声を掛ける。


「ぐ……」


 吹き飛ばされた衝撃でキッドの『心眼』が解けると身体に纏っていた雷も消えていく。


「これで何とか五分まで戻したかなぁ」


 その場に立ちながらシャルが軽く笑みを浮かべる。やはり獅子族の長だけのことはある。ジークとキッドの二人を相手に対応してみせたことがその強さの証拠だろう。


「キッド、後はまかせろ!」

「兄貴、お願いします……っ!」


 聖剣マーナガルムを構えながらジークが声を上げる。


「最後はオレ達の一騎討ちって感じだね、ジーク」

「ああ、あんたを倒してオレはこの試練を成功させるよ」

「いい目だねぇ……強い意思を感じるよ。それじゃ、行くよ!」

「ああ!!」


 ジークとシャル、二人が素早く駆け出し何度も剣戟を響き渡らせる。どちらも一歩も引かない力強さを観戦している者達に感じさせる。


「ジーク、頑張って」

「ぴぃ」


 アイリスとピィも戦いを見ながら声援を送る。


「最初に会った時から絶対このヒトは強いって思ってたんだよな!」


「やっぱりバレてたよねぇ……オレもキミがここまで強くなってくれて嬉しいよ!」


 剣戟を響かせながら、両者が声を掛け合う。次は技の打ち合いが始まる。二人とも握った剣を構える。


 まずは突進技で一気に距離を詰める。


「『獅突(しとつ)』!」

「『狼牙突(ろうがとつ)』!」


ガキィィィン!!


 どちらの力も拮抗し、剣が弾ける。ジークはその反動を生かして跳躍する。シャルは再び前方に駆け出し両者が近距離剣技を放つ。


「『獅子一閃(ししいっせん)』!!」

「『狼咬斬(ウルフバイト)』!!」


ギィィィィン!!


 闘技場の中央で再び剣戟が響く。両者一歩も引いていない。


「はぁ……はぁ……流石、族長ってやつか」


「そっちこそ……やっぱり成長し続ける聖騎士っていうのは強いねぇ」


「へへ、まだ『見習い』なもんでね!」


「よく言うよ!」


 言葉の掛け合いが終わった瞬間、再び両者が接近戦を仕掛ける。動いたのはシャルの方だった。『心眼』の超反応によってジークの一振りのわずかな隙を突き、懐に潜り込むと地面に両手をつけて強烈な足技を直撃させる。


「しまっ……」

「もらったよ! 『獅子連脚(ししれんきゃく)』!!!」

「ぐあっ!」


 真上に蹴り飛ばされて無防備になるジーク。それに合わせてシャルが空中に飛び上がる。


「残念だけど、これで決めさせてもらうよ! 『獅子奮刃(ししふんじん)』!!」


 その技は以前にシャルに扮したカルがジークにトドメをさした技だった。


「ジーク、負けたら許さないんだからね!!」

「兄貴……!」


 その光景を見ながら観戦席のディーナ、闘技場の隅で傷つきながら見上げるキッドがそれぞれジークの名前を呼ぶ。


「ジーク!! 頑張って!!!」

「!」


 ディーナ、キッド、そして最後にアイリスの声がジークの耳に届く。ピンと立った両耳、そして力強く尻尾が揺れる。力強く光る瞳が開けられる。


「待ってたぜ……その技を!」

「何だって?!」


 刹那の時間の中でお互いが言葉を交わす。


「『獅子奮刃』……前は見切れなかったけど今ならわかる。この技はオレの身体に尻尾を巻きつけて固定してからの上空からの強烈な蹴撃……!」


 その間にシャルのしなやかな尻尾がジークに巻き付いていた。更に、身体を捻らせた勢いを利用して繰り出した刃のような彼の足技が上空から襲いくる。


「ここだ! 『狼牙嵐脚(ろうがらんきゃく)』!!!」


ジークが至近距離からの足技の乱撃によってシャルの足技を防ぐ。


「この技を見切られたのは初めてだ! だけど、まだだよ! 『獅子一閃(ししいっせん)』!!」


足技が防がれたシャルはさらに至近距離からの剣技で追撃してきた。直剣がジークに迫るその一瞬だった。


「オレは負けられない……! 男として! そしてアイリスの聖騎士として!!」

「!!」


「『旋牙刃狼(せんがじんろう)』……!!」


 身体を勢いよく捻りながら、聖剣マーナガルムがシャルの剣技を受け流す。ジークの放った技は相手の技をいなしてからの反撃の技であった。


 闘技場の上空で行われる応酬に観戦席の者達がかたずを飲んで注目していた。


「はあああああ!!!」


キィィィィィィン!!!


 闘技場の上空に聖剣の一閃が輝く。


 先に着地したのはジークだった。


「はぁ……はぁ……!」


 聖剣を杖のように地面に刺して体制を保とうとしていた。その後シャルが着地する。


「はぁ……はぁ……まさかこっちの攻撃を利用しての技を最後まで残しておいていたなんてね……ずるいなぁ」


「はは……影武者と変装を用意してたあんた程じゃないさ……っ」


「あはは……それも……そうだねぇ」


 笑みを浮かべながらシャルが地に伏せる。審判のガラシャが近づいて様子を見る。そしてシャルの意識がないことを確認し右手を大きく掲げながら声を上げる。


「勝者、ジーク!!」


 観戦席から大きな歓声が上がる。こうして力の試練をアイリス達は制したのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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