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第13話 ピィ

 アイリスの聖獣召喚の儀は成功した。

 しかし、現れたのは見るからに地味な小鳥のような聖獣だった。


 鳴く際には頭に被った殻が軽く揺れる。


「ぴぃ」


「可愛いっ」


 アイリスが両手で持つ自らの聖獣の愛らしさに思わず声をあげる。

 聖獣は両手から右肩に飛び移り、頬ずりをする。

 そこにジークも近づいてきた。


「コイツが聖獣? どう見てもただの小鳥にしかみえないけどな」


「ぴぃ!」


「いってぇ!」


 ジークが目を細めながら呟くと、悪口を言われたのがわかったのか小鳥の聖獣が軽く跳躍しジークの右の頬に蹴りをおみまいした


「もう、ジークが悪口言うからでしょ。自業自得よ」

「ちぇ」


「それじゃ、名前をつけてあげましょうか」


 人語を話せる聖獣なら自らの名を教えてくれる。アーニャの聖獣ファフニールも召喚した際に名前を告げたそうだ。


 だが、アイリスの聖獣は人語を理解しているが話すことは出来ないために、召喚したアイリスが名前をつけたほうがいいというアーニャの進言だった。


「名前……じゃあ、『ピィ』ちゃんにします!」


 アイリスは悩むこともなく、ほぼ即答で名前を決めた。

 ジークは肩透かしを食らったような仕草をする。


「お前、それ鳴き声だろ」

「うん、ぴぃぴぃ鳴いて可愛いじゃない?」


 アイリスの嬉しそうな笑顔を見て、一瞬ジークが顔を赤くする。

 目を逸らして、返事をした。


「まあ、お前がいいならそれでいいけど」


「ぴぃぴぃ!」


「あら、この子はその名前がとっても気にいったみたいね」


 アーニャは喜びで跳ねているピィを見て優しく微笑む。

 珍しくガーライルが近づいて来ていた。するとピィはアイリスの肩からひょい、とガーライルの右手に飛び移る。右手を自分の顔の高さまであげると、しばしの間二人は見つめあっていた。


「ぴぃぴぃ」

「……」


「ガーライルさんってこういう小さい仔が好きなんですか?」

「ふふ、意外と気があうのかもしれないわね」


 アーニャは口に手を当てながら笑っていた。


「なんか意外だな」

「私もそう思っちゃった」


「……」


 アイリスとジークが同じ反応をしているとガーライルは黙ったまま右手をアイリスの前に差し出す。ピィは再び右手を経由してアイリスの手の中に戻ってきた。


 アイリス達はピィのことで楽しく話をしていたが、周りでその様子を見ていた者達からは様々な声が聞こえて来ていた。


「光の竜の再来かと思ったが、やはり今代の聖女には荷が重かったのではないのか」


「あれでは聖女の力を民に示す材料にはなり得ませんな……ファフニールの伝説がある今となっては」


 階段の上部で見ていたビルゴとエアリーズ、両大臣が口にしていた。

 騎士団から見学に来ていた騎士や魔導士たちも肩透かしをくらったような会話が出ていた。


「伝説の聖獣があれか……なんか期待してたのと違ったな」

「聖女様の力の差とかなのかな?」


 そう言って各自、背後にある扉から儀式の間を出ていくのだった。

 ジークは面白くないような表情をしながら呟く。


「なんだよ、みんなして好き勝手いいやがって……勝手に期待したのはお前達のほうだろ」


「ジーク……」


「気にすんなよ、アイリス。アーニャ様が言った通り、ピィはお前の聖獣なんだから胸を張っていればいいさ」


「ピィピィ!」


 そのとおりだ、と言いたそうにピィがジークの肩に乗ってきた。先ほどは蹴りが飛んできたが、基本的にジークのことは嫌いではないようだ。むしろ気に入っているような仕草を見せていた。


 最後に王が下りてきて、アイリス達の所までやってきた。


「ジークの言う通りだ、アイリス」


「陛下」


「私もそんな都合のいい期待を勝手にしてしまっていた愚か者だ。許してくれ」


「そんな、頭をあげてください陛下っ」


 アイリスは慌てた素振りを見せる。


「陛下、頭をお上げください。厳しいようですが、これもアイリスが今代の聖女として背負わなければいけないモノの一端なのですから」


 アーニャに諭され、王は頭をゆっくりと上げた。

 後のことはアーニャ達に任せて宰相と共に王の間へと戻っていった。


「ジーク、ありがとう。気遣ってくれて嬉しかったな」


「べ、別に普通だろあれくらい」


 アイリスに面と向かって感謝の言葉を言われて、ジークはなんだか照れ臭そうにしていた。その様子を見て、珍しくガーライルが口を開いた。


「聖女に寄り添うことも聖騎士にとっては大切なことだ。今の気持ち、忘れるなよ」

「はいっ」


 身が引き締まる思いをジークはガーライルの言葉から感じるのだった。




数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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