第147話 戦士のさが
鍛冶師マルムの正体は獅子族の族長シャルだったことに驚くアイリス達。そして今までシャルとして振舞っていたのは双子の弟でありスカ―と名乗っていた青年カルだった。
獅子族の一部にしか知られていない事実を前にしたアイリス達は動揺するが、『力の試練』は後半戦へと移ろうとしていた。
「お前達、格好つけて飛び出してきたのはいいが審判はあくまでも私だ。勝手に始められては困るな」
「あはは、ごめんねガラシャ。ついつい気持ちが昂っちゃってさぁ」
「ボクも……なんか声重なっちゃって恥ずかしい……」
「カルはもっと自分に自信を持ちなっていつも言ってるだろ?」
「兄さんは本当に気楽でいいよね……」
ガラシャは二人が話に夢中になっているのを放っておく形で試練の場を一度整えるために、アイリス達に声を掛ける。
「聖女様、驚かれたでしょうがこれが事実です。隠していたことは獅子族の六使として謝罪いたします」
「あ、いえ。えっと……はい、驚いちゃいました」
「その様子だと六使のあなたも以前から知っていたってことよね」
戸惑うアイリスの肩に手を置きながら、ディーナが言葉を掛ける。
「ええ。その通りです。そして族長シャルに影武者である双子の弟がいることを知っているのはこの場に集まっている者達だけです」
「なるほどね。それで試練の後半戦はどうなるのかしら? 族長さん達二人はやる気満々みたいだけど。後半戦のルールはアイリスもいれたあたし達、四人と族長との戦いってことだったわよね?」
こういう所はやはり年上のお姉さん的なディーナが舵をとる。
「そうだよ、兄さん。ボクもつい勢いで名乗って降りてきちゃったけど……後半戦のルールは事前に伝えた通りなんだからさ」
「はは、確かにそうだねぇ。でも、もしかしたら降りてきて正解だったかもしれないじゃないか」
「? どういうことさ?」
カルがシャルの言っている意味がわからず頭を傾ける。
「……!」
「ジーク、どうかした?」
「ぴぃぴぃ?」
その様子を黙ってみていたジークがぎゅっと両手の拳を握りしめていた。更に表情は面白い物を見ているような笑みを浮かべていた。
「ディーナ、ちょっと待った!」
「何よ、ジーク」
「せっかく正体を明かして、あっちの二人が舞台に降りてきてくれたんだ。こっちもそれに応えなきゃいけないだろ?」
「はぁ? 状況をちゃんと理解してる? 今まで族長だと思っていたのは双子の弟だったのよ? そして本来の族長はあなた達の知っているマルムだった。つまりね……っ」
「わかってるさ。つまり、『本来の族長が影より弱いわけがない』ってことだろ?」
牙を剥きだしにしつつ、ジークが笑いながら彼女が言いたいことを口にする。おおよそ、それで合っていた。
「そうよ! その族長とあたし達四人が戦うのが後半戦の本来のルールなのよ? そこに影だったカルまで相手にするなんて馬鹿げてるでしょ?!」
先程まで冷静に話をまとめようとしていたディーナの頭から煙が出そうになっていた。ここでジークが可笑しなことを言い出したのだから無理はない。だが、そんな彼女の肩にアイリスが軽く手を置いた。
「まって、ディーナ」
「何よ、アイリスまで」
「ディーナが私達のことを考えてくれてるのはすごく伝わってるから。ありがとう」
「そうよ。なのに、ジークったら話を変な方向に持っていこうとしてるのよ?」
わかってる、とアイリスがゆっくりと頷く。
「……ジークはどうしたいの?」
落ち着いた、静かな声でアイリスがジークに尋ねる。にやっと笑いながらジークが口を開く。
「マルムさん、いや今は族長さんか。あのさ、この試練ってどういうものなんだっけ?」
「『力の試練』、今代の聖女の持つ『力』を計るためのものだよぉ。それがどうしたのかな?」
更に目を輝かせながらジークが言葉を続ける。
「つまり聖女の持つ『力』っていうのは聖騎士であるオレやキッドやディーナのことを指すっていう受け取り方も出来るよな?」
「ふふ、確かにジーク達もアイリスちゃんの力になってるからそういう考え方も出来るかもねぇ」
「兄さん?」
「ちょっとジーク何言ってるのよ?」
再びジークが口を開く。
「なら、後半戦は聖騎士であるオレと従者であり戦士でもあるキッド対族長シャルと族長の影カルっていうのはどうかなって話さ。元々オレはカルにも負けた借りがあるしさ」
「面白いことを思いつくねぇ、ジーク。でも、そのルールに変更するには審判であるガラシャの意見もあるけど一番大事なのは聖女であるアイリスちゃんの同意がないと難しいよぉ?」
もうこの先の流れはわかっている、という笑みを浮かべながらシャルはしなやかな尻尾を左右に揺らしていた。
「だめよ、アイリス! わざわざこっちが不利になるような条件に変えちゃ!」
ディーナが必死になってアイリスに訴えかける。それにもちゃんと耳を傾けながら、アイリスは黙っているキッドに声を掛ける。
「キッドはどうしたいの?」
「……ボクは師匠達に自分の力がどこまで通用するのか試してみたい……です! だから兄貴の提案で戦わせてください!!」
「キッドまで何言い出すのよ!? わけがわからないわよっ」
「ディーナ、私はジーク達の気持ちを尊重してあげたい。目標にしていたヒト、尊敬していたヒトが自分達の前に立っている。それに立ち向かいたいっていう背中を私は推してあげたいな」
微笑みながらアイリスがディーナに語りかける。アイリスが一度言ったことを曲げない性格なのはディーナも理解していた。
「はぁ……本当馬鹿ばっかりなんだから……いいわ、ジーク、キッド! 負けたら只じゃおかないんだからね!」
「悪いなディーナ!」
「ありがとうございます、お嬢!」
二人が族長シャルとその影カルの前に立つ。その顔つきは戦う者という表情を浮かべていた。聖女であるアイリスの同意が得られたことを承認したガラシャが口を開く。
「では、双方の合意に伴い力の試練後半戦のルールの変更を行う!」
「ほらね、面白いことになっただろ?」
「兄さんはつくづく……でも、ボクも何だか気持ちがたかぶってきたよ」
うな垂れていたカルの尻尾がピンと真上に伸びる。ジーク達の気合に感化されたのだろう。
こうして、試練の後半戦は聖女側のジーク、キッド対族長シャルとその影シャルの二対二の戦いへと変更されるのだった。
ついに力の試練後半戦の幕が上がる。
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