第146話 マルムの正体
連携の練習の成果を見事発揮したジーク達は獅子族の戦士達を戦闘不能にして試練の前半戦を勝利する。
しかし、突如ジークの聖剣の製作者であり、キッドの師匠でもある鍛冶師マルムが族長シャルの隣に現れたことで事態は急変するのだった。
「どうしてマルムさんが族長さんの隣に?」
「ぴぃ」
「なに? さんざんこっちを手伝っておいて、やっぱり獅子族つながりでそっち側の協力者だったとか?」
アイリスが驚きの声をあげる中、ディーナは嫌味な態度を見せる。
「そんなわけないですよね、師匠!?」
「落ち着けよ、キッド。どういうことなんだよ、マルムさんっ」
ジークの問いにマルムが口を開く。
「んー、妖精の詩姫さんの言ってることが当たらずとも遠からずって感じかなぁ」
「ほら、やっぱり裏切り者ってことじゃないの」
「本当なんですか? マルムさん」
覆面の上から出た耳を軽くかきながらマルムが言葉を返す。やはり、とディーナが続く。アイリスはあまり信じたくないようだ。そんな動揺が走るこちら側に気を使った声が聞こえてきた。
「はぁ……もう弄ぶのはそれくらいにしたらどうなのさ。みんな困ってるじゃないか」
その声にはアイリス達は聞き覚えがあった。しかもその声は族長シャルの口から出ていたのだ。
「え?」
「ん?」
「んん?」
「え?」
四人が驚くのも無理はない、その声はヴィクトリオンまで案内してくれた青年スカーのものだったからだ。
「え? どうしてシャルさんからスカーさんの声が?」
「ごめんね、アイリスちゃん。ボクは族長シャルじゃないんだ。ついでに言うと、スカーって名前でもない。ほら、『兄さん』も早く説明してよ」
「そうだね、そろそろいい頃だね」
そう言うとマルムが覆面をその場でとってみせる。すると更に驚きの光景がアイリス達の目に入ってきた。
「つまりこういうわけ、なんだなぁ」
「え……?」
「嘘だろ」
「し、師匠が二人?!」
驚くアイリス、ジーク、キッド。ディーナは合点がいったようで言葉にする。
「なるほどね……つまり、あなた達は『双子』だったってわけね」
そこには『完全に同じ顔』をした二人の獅子族の青年が立っていたのだ。マルムも、スカーと名乗る青年もどちらも分身かと思うほど似ていたのだ。
「ついでに言うと、オレが本当の『族長シャル』なんだよねぇ」
「ボクは双子の弟の『カル』っていうのが本当の名前なんだよ」
「マルムさんが族長シャルさんだったってことですか?」
「マジかよ!?」
「師匠が族長さんで族長さんがスカーさんで、しかも弟さん……ボク頭から煙が出そうですぅ」
「本当に煙が出てるわよキッド!」
突然の告白にアイリス達がそれぞれ反応する。だが、アイリスは気づく。この異常な事態と光景を前にして観戦していた獅子族の偉いヒトたちは何一つ驚いている様子がなかったのだ。
「もしかしてみんな知ってたのかも……」
「ぴぃぴぃ」
「その通り! 流石アイリスちゃんだねぇ。この事実はオレの信頼する一部の者だけが知っていることなのさ」
「師匠、鍛冶屋さんじゃなかったんですか?」
「鍛冶屋は趣味と実益をかねてのものだから、嘘じゃないよキッド」
マルム、いや今は族長シャルがにこやかに言葉をかける。そして今まで族長の座に座っていたカルが横に動き、その座に『本物』のシャルがゆっくりと腰かけた。
「オレは待っていたのさ。今代の聖女と聖騎士が本当に信頼たる者なのか、そして『力』を持つ者なのかを、ね」
「はぁ……兄さんは本当に悪いヒトだよ。ボクにもアイリスちゃん達と交流があることを黙ってたんだからさ」
横でスカー、もとい『カル』が頭を手で撫でるような仕草をしながら呟く。
「まあ、そう言うなよカル。オレの目に狂いはなかったんだからさ」
「結果論だよね、兄さん」
「んー、そうとも言うかな」
双子の兄弟が仲良く言葉を交わしている。それを見てジークが声を上げる。
「カセドケプルでオレ達と会ったのも偶然じゃなかったってことかよ」
「いや、あれは本当に偶然だったんだよね。本来ならオレからマルムとして会いに行く予定だったけど……キミ達はオレの所にやってきた。これは『運命』だと思ったよ」
「どうして族長さんだって教えてくれなかったんですか、師匠?」
「ごめんね、キッド。あの時点でオレが族長だって知ったらキミ達の士気が下がっちゃうと思ったんだよ。自分達の武器を作ってくれたヒトなら試練もいい方向に計ってくれる、なんて思って欲しくはなかったんだ」
「あたしは付き合いが短いからいいけど。アイリス達からしたら、恩人と戦うっていうのは確かに酷よね。現にあたし達は族長の鼻をあかしたい気持ちで特訓をしてきたんだから」
「うん、詩姫さんの言う通りだ」
シャルがディーナの言葉を聞いて、こくこくと首を縦に振る。
「さて……聖女と聖騎士、そして竜の戦士、妖精の詩姫達よ。よくぞ試練の前半戦を制した。待っていたよ、キミ達と本気で戦うこの時をさ」
シャルがアイリス達に語りかけると、横にいたお付きの者から自分の愛剣を手にする。そしてその場から跳躍すると闘技場内、アイリス達の前に着地する。
「ほら、カルも早くおいでよ」
「はあ……わかったよ兄さん」
カルもお付きの者から愛剣である曲剣を手にするとシャルの隣に跳躍して着地し並んで見せる。
「我が名は族長シャル!」
「我が名は族長の陰カル!」
『我らを倒し、見事試練を越えてみせよ!!』
息のあった動きと掛け声がアイリス達に向けて発せられる。怒涛の展開を迎え、試練は後半戦へと突入するのだった。
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