第143話 試練の始まり
四人の朝は早かった。早めに食堂で朝食を取り、一旦各自の部屋に戻って支度をすると宿屋の入り口前で再び集まった。そのまま宿屋を出ると試練が行われる闘技場へと移動した。場所は獅子族の神殿の隣だ。
普段は戦士達の戦いに大勢の観客達が声援を送っているこの場所だが、今回は試練の為に貸し切りとなっていて一般のヒト達は入場の規制が行われていた。獅子族の偉いヒトや特別に招待された者だけが試練の行く末を見ることが出来るのだ。
「やっぱり観客のヒト達は少ないね」
「まあ、聖女の試練を見世物にするっていうのはしないんだろうな」
「しっかりしてますねぇ」
「そうね。そこはちゃんとしてくれないとこっちが困っちゃうものね」
案内役の者に先導されたアイリス達が闘技場内に入りながら周りを見渡していた。こちらを見ながら手を振っているヴァルムの姿を見つけたジークの顔は微妙だった。
「ジーク様、ちゃんと特訓の成果見せてくださいよ。しっかり族長にお伝えしますからね」
「いちいち圧をかけてくるなよ、まったく」
「んー、師匠もいると思ったんですけどいないみたいですね。ボクの関係者だから入れるって言っておいたんですけどね」
「まだ開始まで時間があるから、もうすぐ来るんじゃないかな?」
「ぴぃぴぃ」
「そうですよねっ。ボク、張り切っちゃいますよぉ!」
キッドが観客席を見渡すがマルムの姿はない。少ししゅんとして尻尾が垂れたキッドにアイリスが優しく声をかける。
「ほらみんな、試練の相手が来たわよ」
アイリス達が入場してきた方とは反対の入り口から戦士風の獅子族の男性三人が姿を現した。剣、槍、弓とそれぞれ異なる武器を持っているのが見えた。
「みんな持ってる武器が違うね」
「ぴぃぴぃ」
「近距離、中距離、遠距離の武器を持ってくるってことはあっちも本気で来るってことなんだろうな」
「ボク達なら絶対大丈夫ですよ!」
「もちろんよ。相手が手練れだろうとこっちは越えていかなきゃいけないんだから何を持ってこようが関係ないわ」
四人それぞれが試練の相手を見ながら口を開く。さらに、闘技場を眺める位置にある族長の椅子付近に族長シャルが姿を現した。同じく、審判を務める獅子族の六使ガラシャも闘技場内に入ってきた。
先に口を開いたのは族長シャルだ。
「よくぞ逃げずに来たな、見習い聖女アイリス。そして見習い聖騎士ジーク。そして供の者達よ。二週間前とは顔つきも違って見えるな。それでこそ、オレがここに足を運んだ甲斐があるというものよ」
相変わらずしなやかな尻尾を左右に振りながら、上からモノを言う態度は変わっていない。
「相変わらずの上から目線ね。でも二週間前のあたしも馬鹿だったわね。あんな奴の言葉で気を乱しちゃうなんて笑っちゃうわ」
「その意気だぜディーナ。あいつにオレ達の本気ってやつを見せてやらなきゃな」
「そうですね! 成長して強くなったボク達の力をちゃんとみてもらわないとですね!」
「みんな、まずは前半戦の戦いに勝たなきゃ族長さんとは戦えないんだからしっかりね」
「ぴぃぴぃ!」
シャルの上から目線の物言いにも動じずにそれぞれが意気込みを口にする。
「良い気合だ。やはり心地いいものだな。戦う者の気概という奴はなっ」
次いでガラシャがアイリス側と対戦相手側の両者に中央に集まるように言葉が掛けられる。
「審判は獅子族の六使、このガラシャが務めさせてもらう! 聖女側と試練の戦士側との変則型3対3の決闘を行う。それぞれの勝利条件は事前に説明した通りだ」
「オレ達はアイリスに一度でも触られたら終わり、か」
「こっちは向こうの三人の戦士を戦闘不能にしたら勝ちよね」
「ですね」
ジーク、ディーナ、キッドがそれぞれ配置につく。前衛がジーク、その後ろにディーナ、後方のアイリスの傍にキッドという配置だ。
「みんな、頑張ってね!」
「ぴぃぴぃ」
アイリスは地面に白い色で書いてある円の中に陣取る。そこから外には動けない決まりだ。あちらの試練の戦士側の三人もそれぞれが配置につく。正面に剣、その隣に槍、後方に弓という位置取りだ。
「ではこれより『力の試練』前半戦を始める!」
アイリスがそっと両手を胸のあたりに充てる。心音が大きくなってくるのがわかる。だが、目の前で戦うジーク達を見ると自然に心音が安定してくる。それほど皆のことを信じているのだ。
「キッド、ディーナ、練習の成果見せてやろうぜ!」
「行きましょ、兄貴、ディーナ!」
「ふふん、誰に言ってるのよ。任せてよ」
「それでは開始!!」
ガラシャが掛け声と共に右手を高々と振り上げる。それが戦いの始まりの合図だ。今、獅子族の試練の幕が切って落とされたのだった。
数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。
評価やブックマークなどをして頂けると、嬉しいです。




