第141話 自分という存在
アイリスは偶然会ったスカ―からデートの誘いを受ける。いつもと少し様子が違うスカ―のことが気になったアイリスは買い物を終えてからの時間を共に過ごすことになった。
「ここの料理、とっても美味しいですね」
「ぴぃぴぃ」
「でしょ? ここはヴィクトリオンでも五本の指に入るくらい美味しいんだよ。値段も安価なのが売りなんだ」
午前の買い物を済ませた二人はスカ―のおすすめの料理店に来ていた。店内はとても賑わっており活気も感じられる。
「美味しいものが、安くて誰の口にも入るってすごく大事なことだと思うんだ」
「そうですね。その気持ちわかります」
「そういえば、アイリスちゃんは孤児院の出身なんだったね。色々大変だったんじゃない?」
「院長先生たちはとっても優しくて、お手伝いとかすごく頑張ってました」
「そっかぁ……それはとっても素敵なことだね」
目線を軽くテーブルに並べられた料理に移しながらスカ―が呟いた。
「スカ―さん?」
「ああ、なんでもないよ。さ、温かいうちに食べちゃおうか」
「はい。そうしましょう」
「ぴぃぴぃ」
二人とピィはテーブルに並んだ料理を食べ始める。スカーは身に着けている仮面を少し上にあげて器用に食べている。こんな時でも仮面は外さないくらい顔は見られたくないらしい。
「スカーさんって結構しっかり食べるんですね」
「ああ、よく言われるよ。でもボク、食べるのが一番好きなんだ。生きてるって感じがするからさ」
「院長先生も言ってました。食べることは生きることだって」
「ボクもそう思うよ。アイリスちゃんから話を聞くだけでも、院長先生はとても良いヒトなんだろうね」
しばらく会話が弾みながら、テーブルに並べられた料理全てを食べ終わる。先に口を開いたのはスカ―の方だった。
「それじゃ、お会計しようか。もちろんボクの奢りだよ」
「いいんですか?」
「もちろん。デートに誘ったのはボクだからね。これくらいは当然さ」
「ありがとうございます」
「ぴぃぴぃ」
「喜んでもらえたなら、ボクも嬉しいよ」
スカ―は機嫌よく会計を済ませ、アイリスを連れて店の外に出て行く。
「アイリスちゃん、ちょっと静かな場所で話をしてもいいかな?」
「はい、いいですよ」
「ありがとう」
そう言うとスカ―は街中を進んでいき、静かな広場にアイリスを案内した。近くにある長めのベンチに腰掛ける。アイリスも並んで座る。
「ここ、ボクのお気に入りなんだ。静かだし、ヒトもあまり来ないんだ」
「よく来るんですか?」
「うん、考え事とかする時はいつも来るよ」
ふと青空を見上げながらスカ―が呟く。微妙な口調の弱さにアイリスが尋ねる。
「……何か悩み事ですか?」
「あれ……? よくわかったね。聖女の勘って奴かな?」
「ふふ、そんなのじゃないですよ。ただ、仮面越しでもスカ―さんが哀しげに見えたので」
スカ―がふっとアイリスの方に目線を向ける。
「アイリスちゃんはさ、今代の聖女にいきなり選ばれたけど……つらいこととかはないの?」
その質問に対してアイリスは少し俯いた後、スカ―を見ながら口を開く。
「ないって言いたい所ですけど、少しはありますよ」
「どんなこと?」
「さっきも話に出てましたけど、私は孤児院出身の聖女で聖騎士には魔族であるジークを選びました。それがやっぱり人間族のヒト達から見たら変だって思われてるみたいなんです」
「確かに今までの聖女は必ず人間族の聖騎士だったからね。でもそれだけで?」
「巡礼の旅に出て、スペルビア王国を歩いている時に同じ人間族のヒト達は話しかけてはくれましたけど、どこか距離を置いてる感じがしました」
「ふぅん……やっぱり人間族と魔族の間にはまだ壁があるってことかな」
「そうかもしれません。でもきっと皆が分かり合える時がくるって私は思ってます」
「立派だね」
「そんなことないですよっ」
スカ―が俯いて何かを考える素振りをする。その後、アイリスに再び問い掛ける。
「聖女には『代わり』はいない。今代の聖女はキミだけ。やるせないことや危険なことも沢山ある……信じれるモノは僅かだ。それでもキミがこの旅を続けられるのは何故?」
真に迫る口調のスカ―の言葉をしっかりと受け止め、アイリスが言葉を返す。
「確かに今代の聖女は私だけ。『代わり』はいません。でもだからこそ、私が聖女に選ばれた『意味』はこの旅の先にあると思うんです。だから聖女である自分の存在を沢山のヒトに『示す』ため……いえ、『信じてもらう』ために私は今代の聖女としてこの旅を続けたいんです」
「自分の存在を信じてもらうため……か。そうだね……その通りかもしれない」
「ごめんなさい、私つい偉そうなことを言っちゃって……っ」
焦った表情を浮かべるアイリスを見て、スカ―が仮面越しに微笑んだのがわかった。
「ボク『達』もキミみたいなヒトに早く出会いたかったな……」
「? 何か今言いました?」
「ううん。何でもないよ。……ただ本当に独り占めしたくなるね、キミは」
「?」
アイリスがスカ―の言葉があまりよく理解できずに首を横に傾げていると背後から声が聞こえてくる。
「何さらっと口説いてるんだよ、まったく」
「え? ジーク? どうして?」
「どうしてもこうしてもないだろ? 買い物に行くっていうから早めに切り上げてきたら仮面をつけた奴と一緒に出て行ったって宿屋の受付で聞いたんだよ」
「よく私がここにいるってわかったね」
「ぴぃぴぃ」
「そ、そりゃぁ……いつも傍にいるからその匂いを追って来たんだよ。お前のお気に入りの石鹸の匂いをさ」
「あ……そうだったんだ。匂いきつかった?」
「いや、そういう意味じゃなくてさ」
「でも、心配して探してくれてありがとジーク」
反応に困る素振りをしているジークに優しくアイリスが微笑む。それを見てスカ―が口を開く。
「いやぁ……まいったね。これはボクが入る隙間はなさそうだ」
「スカ―さん?」
「むぅ」
アイリスはよくわかっていないが、ジークは威嚇するような表情を浮かべていた。
「さて、それじゃボクはここら辺で失礼させてもらうね」
「スカ―さん、今日は色々ありがとうございました」
「いや、ボクの方こそ良い気分転換をさせてもらっちゃったよ。それじゃ、二人とも『また』会おうね」
そう言ってスカ―は広場を後にした。残されたアイリスは二人で何をしていたのかというジークの質問攻めにあうのだった。
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