第140話 スカ―からの誘い
試練開始まで約一週間の節目の日に、久しぶりにゆっくりと話す機会を設けたアイリス達。そこでそれぞれの進捗を聞いた。そして来る試練の前半戦である『アイリスを護りながら戦う』ための連携について話し合いが行われた。
現在、それぞれの特訓は継続し空いた時間ではジーク、キッド、ディーナの連携の練習が日夜行われていた。
そんな試練を数日後に控えたある日、アイリスは他の3人の為に食材や雑貨などの買い出しのために街に出ていた。もちろんピィも一緒だ。
「みんなも頑張ってるから、こういう役割はしっかりしとかなきゃね」
「ぴぃぴぃ」
認識阻害のローブも被っているので一人でも動きやすくなったのはとても助かる。街中を歩きながらよく周りを見渡すと冒険者である他の氏族や獅子族の往来が多い。
ヴィクトリオンには闘技場があり、自分の力を試すのにもってこいの場なのだという。
「それでも人間族はあまり見ないよね、やっぱり」
「ぴぃ」
冒険者ギルドに行けばおそらく人間族にも会えるのだろうが、特に知り合いもいないために行く予定はない。
「それじゃ、買い出し始めよっかピィちゃん」
「ぴぃっ」
宿屋には食堂はあるが、帰ってきた後の間食のための食糧や日々使用する雑貨類などを補充するのも旅の中では自分達で今までしてきたことだ。慣れた様子でアイリスはお店を巡っていく。
「あとは……あ、このリンゴとっても赤くて綺麗。おやつ用に買っていこうか」
「ぴぃぴぃ」
果物屋の前に来た時、とても美味しそうなリンゴを見つけた。アイリス自身の好物でもあるリンゴだが、後でジーク達にも剥いてあげようという気持ちで手を伸ばす。
すると同じリンゴを掴もうとする手とぶつかりそうになって、スッと手を引く。
「あっ、ごめんなさい」
「ごめんね。どうぞ」
同じリンゴを取ろうとした両者が顔を合わせながら言葉を交わす。アイリスの目の前には仮面の獅子族の青年、スカ―が立っていた。偶然会うのはこれで3度目になる。
「あれ、アイリスちゃん?」
「また偶然会いましたね、私達」
「ぴぃぴぃ」
ふふ、っと微笑みながらアイリスが口を開く。ここまで偶然が続くと、何か縁があるように思えたからだ。
「跡をつけたりしてないよボク」
「わかってますよ。スカ―さんもリンゴ、好きなんですか?」
「うん、大好物なんだ」
綺麗に日の光を浴びたリンゴを見ながらスカ―が呟く。
「私と一緒ですねっ」
「え、そうなの? でも本当に奇遇だなぁ……あ、もしかして一人?」
「はい。今日は私が買い物の当番なので」
「聖女様なのにそんな雑用みたいなこともするの?」
少し驚いた表情をスカ―は浮かべながら口を開いた。
「他のみんなは色々忙しいし、こういうことは出来るヒトがやろうってみんなにも言ってるんです。それに私は自分が聖女だからって特別扱いはされたくないんです」
「そうなんだね。……ねえ、アイリスちゃん」
「何ですか?」
「今日、予定ある?」
持ってきたメモを取り出し、買ったモノを確認する。今日買うものはこれで全部だ。
「あとは宿屋に帰るだけですけど……どうかしました?」
「うん。ちょっとボクと……デートしてくれないかな?」
「えっ? あ、はい。いいですよ」
「え、本当? やったぁ」
突然の誘いに驚くアイリス。以前の案内の時も誘われたことはあったが、今日のスカ―の声には真剣さがこもっていて、断りきれなかったのだ。
「それじゃ、宿屋まで荷物持つよ」
「ありがとうございます」
「ぴぃぴぃ」
並んで歩くスカーの尻尾はしなやかに左右に揺れていた。相当嬉しいのだろう。いつの間にか彼の肩にピィが飛び移っていた。ピィがそういう行動をとったのならやはりこのヒトは悪いヒトではないのだろうとアイリスは揺れる尻尾を見ながら、ふっと笑みがこぼれる。
「それじゃ、そろそろお昼だしご飯一緒に食べようか」
仮面をしているが、とても優しく柔らかい声がアイリスに向かって発せられる。いつものスカ―とはちょっと違う感じがした。
「美味しい所とか知ってますか?」
「うん、もちろん。この街で知らないことはないよボク」
普段はおとなしい感じだが、とてもはしゃぐ子供のようにアイリスの前を歩いていく。歳はきっと自分よりも上。おそらくヴァルムやマルム達と同じくらいだろう。
「今日は楽しいデートにするからねっ」
しなやかに揺れる尻尾を見ながらアイリスはピィと共に仮面の青年スカ―の後を歩いていくのだった。
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