第138話 それぞれの特訓
獅子族の『力の試練』に挑むためにジークは兄弟子のヴァルムに、キッドは師匠であるマルムにそれぞれ指導を受ける。ディーナはまだ秘密と言いながらヴィクトリオンの周囲を散策しているようだ。残るアイリスも弓の練習を始め、パーティ全員の特訓は始まったのだった。
◆◇◇◇
ここはジークが特訓を行っている冒険者ギルド管理の修練場。激しい剣戟が響き渡っていた。
ギィィィィン!!!
「どうしたジーク、息が上がってるぞ?」
「くそっ……! 義兄さん、相変わらず強いんだよっ」
「ふふん、簡単に弟弟子に負けているようじゃ族長の右腕も六使も務まらないからな!」
ヴァルムの大振りを剣で受け止めたジークが後方に飛ばされる。壁にぶつかる寸前で体制を整えて着地してみせる。
「はは、そういうお前だって強くなってるじゃないか。聖騎士になって成長したんだなぁ。まあ、中身はそんなに変わってないみたいだけどさ」
「喜んでるのがけなしてるのか、どっちなんだよ!」
「じゃあ、一発見せてくれよジーク! 新しい技を覚えるためにも基本は大事だからな!」
「ああ、見せてやるぜ! オレの今の実力をさ!」
掛け合いの言葉と同時にお互いが前方に走り出し、同じタイミングで空中に跳躍する。剣を握りしめる手に強い力が込められて剣技がぶつかりあう。
「『狼咬斬』!!」
「『狼咬斬』!!」
ガキィィィン!!!
再び激しい剣戟が修練場に響き渡る。
◇◆◇◇
所変わってこちらはヴィクトリオンの街から離れた森の奥深くにあるマルムの秘密の特訓場。そこでは襲い来る丸太を避けるキッドの姿があった。
緑色の瞳に光が灯り、瞳孔が更に細くなっていた。『心眼』を使用中のキッドの集中力は前日より増しているようだ。本来は背中の鱗が一つ逆立っているが、それはマルムの作った鎧によって隠されている。
「右……左……前……後ろです!!」
勢いよく木々の陰から襲い掛かってくる無数の丸太を鋭い洞察力と集中力、感覚によって見切り続ける。
「いやぁ、カセドケプルでも思ってたけど……これが全く訓練をしてなかった子とはねぇ」
マルムが大きな切り株の上であぐらをかきながら言葉を漏らす。それほどまでにキッドの成長は目まぐるしいいのだろう。だが、次の瞬間悪いことを考えた笑みを浮かべながら口を開く。
「キッド、すごいね! もうそれくらい動けるようになったのをアイリスちゃんやジークが見たらすごい褒めてくれるし美味しいモノ沢山食べさせてくれるよぉっ」
口に両手を添えて大声でキッドに言葉を投げかける。するとキッドが反応する。
「え! 本当ですか師匠!? ボク、お嬢と兄貴に褒められるのとっても好きなんですよねぇ」
その場で普段のキッドらしさが出る。途端に瞳の光が消え、瞳孔も元の状態に戻ってしまった。
「あ……あー!!!」
ガゴォォォン!!
辺り一面の森に大きな衝撃と音が響き渡る。キッドは複数の丸太の突撃に吹き飛ばされて地面に顔から着地する。
「ふげ……し、師匠ぉ……ずるいですよぉ」
「あはは、駄目だねぇ。すぐ気を抜いちゃうんだから。そこはしっかりしないとね。悪い所は揺さぶりながら見つけていってあげるよぉ。それとももう終わりにするかぁい?」
傷だらけだが、マルムの言葉を聞いたキッドがバッと勢いよく起き上がる。
「いえ、ボクまだまだいけます!」
「うんうん、頑張れ頑張れぇ。それが終わったら次は剣の稽古だよ」
「はい! 頑張ります!!!」
まだ小さいが最初の泣き虫だった影はもう感じさせない程の表情を浮かべたキッドの声が森の奥深くから木霊するのだった。
◇◇◆◇
ヴィクトリオンの砦、そして街が見渡せる岩場の上に良い風が吹き抜けていく。風に乗って心地よく、透き通った声が聞こえてくる。
そこには岩場に腰かけながら『詩』を唄うディーナの姿があった。ピンク色の髪をなびかせ、灰色の瞳が美しい。近くには多くの彼女の詩に反応して集まってきていた。
「みんな、集まってきてくれてありがとね。ここら辺の精霊はあなた達で全部かしら?」
声なき精霊の声が彼女には聞こえるのだ。感じるといってもいいだろうか。普段は口うるさかったり尖った性格をしているディーナだが、精霊とこうして心を通わせている時はとても綺麗な妖精族の女性に見える。
「そう、これで全員なのね。それじゃ、今ヴィクトリオンの周りをゆっくり回っていてね。そこにいる精霊達に『お願い』をして周っているの。あたな達も聞いてくれる?」
彼女の言葉を聞いて、周りを飛んでいる精霊達が活発に動く。理解したという合図なのだろう。
「ありがとう。それじゃ、本題に入るわね……実はね」
岩場に再び心地良い風が吹き抜けていく。
◇◇◇◆
逗留先の宿屋『獅子のたてがみ』の裏手にある、今はあまり使われていない練習場の的に向かって一射、また一射と光の矢が放たれる。力は普通の弓ほどに抑えてはいるが、その調整事態もアイリスには大事なことなのだ。
「なかなか、思い通りにはいかないなぁ……いつもみんなが作ってくれた隙に打ち込んでることも多いからもっと私だけでも弓の精度をあげていかないとね」
「ぴぃぴぃ」
近くの木の台の上に座っているピィが元気にアイリスに向かって鳴き声を上げる。
「ありがとう、ピィちゃん。いつも私に力を貸してくれて本当に助かってるんだよ。私の所に来てくれた聖獣が貴方で良かった」
「ぴぃ、ぴぴぃ」
頭の殻が大きく揺れるほどピィがその場で飛び跳ねて見せる。それを見てアイリスは微笑む。気持ちを切り替えると再び遠くにある的を目掛けて光の弓矢を構える。放たれた矢は先ほどよりも的の真ん中に近づいていた。
「よし……!」
「ぴぃ!」
その他にも今使える神聖魔法の詠唱をすぐ始められるように気持ちを集中する練習も始めていた。アイリスにしてみれば『ただ守られるだけの聖女』でありたくはないのだろう。その強い気持ちが彼女を支えているのだった。
◆◆◆◆
今夜も夕食時には疲れ果てた顔をした四人が食堂で顔を合わせる。でも皆が揃うと自然に疲れも忘れて楽しく食卓が賑わう。
それぞれの特訓は続く。
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