第12話 聖獣召喚
アーニャ達に先導され、城の内部を進むアイリスとジーク。しばらくすると『儀式の間』に辿り着いた。まるで教会のような神聖な雰囲気が漂う空間がそこにあった。中央には儀式のための召喚陣が用意されている。
その周りは階段上になっており、どこにいても儀式を見られるような作りだ。
見渡すと最上階には王が腰かけ、こちらを見下ろしていた。大臣達も、噂を聞きつけた騎士団の騎士たちや魔導士たちも見学に来ていた。ガーライルは魔法陣のある中央の隅の柱に寄りかかって見守っている。
「それじゃあ、アイリス行きましょうか」
「はい!」
「ジークは私と見守っていようか」
「はい」
アイリスはアーニャに連れられて儀式の間の中央へ。
ジークはリチャードと一緒に後方の段差で見守ることになった。
アイリスはアーニャから聖獣召喚の儀に必要な詠唱の言葉を教えてもらう。
覚えられるか不安そうなアイリスだったが、ゆっくりと親切にアーニャが説明してくれたおかげで何とか出来そうな気持ちになっていた。
「じゃあ、はじめますっ」
「ええ、緊張せずにね」
そう言ってアーニャはアイリスから離れていく。
アイリスは一人、召喚陣の中央に立ち目をゆっくりと閉じる。
周りで見ている者達にも緊張が走る。
「天の星辰、地の脈動……幾つもの異界の扉を越え、我が喚び声に応えたまえ」
詠唱が始まる。儀式の間にアイリスの言葉が静かに響き渡る。
どこからか風が吹き始め、空間が張りつめてくる。
「……応えたまえ、我が半身」
空気の緊張が一層張りつめる。
アイリスが目を見開き、最後の詠唱に入る。
「我、聖女アイリスの名において来たれ! 聖なる獣!!」
天に向かってかざした右手の甲に刻まれた花の紋章が輝く。
召喚陣から光が天に向けて伸びていく。
次の瞬間、大きな音と衝撃、土煙が召喚陣から溢れ出す。
周りで見ていた者達もアイリスも目を開けてられずに両手で遮る。
一瞬、土煙に大きな影が見えた気がした。
次第に土煙が収まっていく。
アイリスは自分の目の前に何かの気配を感じる。
黒い影が動いているのが見えた。
「これが私の聖獣……」
土煙が完全に晴れていく。
王を含め、見守る全ての者がかたずをのんだ。
「ぴぃ!」
高い音域の声が響く。
召喚陣の中央に姿を現したのは猛き聖獣、ではなく灰色の体色、頭には卵の殻のようなものをかぶった鳥の雛のような生き物だった。
軽く羽ばたくとアイリスの両の手に乗ってきた。
「これが私の聖獣……?」
「ぴぃぴぃ!」
これでもかとその雛のような生き物が自分をアピールする。
ジークの方をアイリスが振り返ると、目を丸くしているのがわかった。
周りの大臣達を見ても皆、同じような表情で固まっていた。
騎士たちや魔導士たちから小さい声が聞こえる。
「まさかあれが聖獣?」
「いや、それはないだろ」
「どう見てもただの汚い小鳥じゃないか」
これには大臣達も不満があるようで、色々と騒ぎ始める。
だが、王が一喝すると騒めきは収まる。
「アーニャよ、これは一体どういうことか」
アーニャはアイリスと謎の生き物に近づいていく。
謎の生き物と目が合うと、しばしの間みつめあっていた。
「陛下、この生き物こそアイリスの聖獣に間違いありません」
先代聖女の言葉に周りの者達が再び騒めく。
「それは、まことなのだな」
「ええ、人語は話せないようですが理解はもとより魔力を感じます。まず間違いありません」
「むぅ……お前が言うのであれば本当なのだろうな。だが……」
再び王はアイリスに抱かれている小鳥のような生き物を見ると、首を傾げる。
「ぴぃ?」
同じようにその生き物も可愛らしい声をあげて顔を傾げて見せるのだった。
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