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第134話 兄弟弟子

 アイリスとヴァルムの話を盗み聞きしたジークはその後、注意されて尻尾に元気がなくなっていた。ヴァルムよりアイリスに駄目だよ、と言われたのがこたえたらしい。


 次の日から皆の特訓が始まった。キッドは手紙を送った師匠のマルムからの返事待ちで待機。ディーナはやることがあると言って外出した。残るはアイリスとピィ、そしてジークとヴァルムだけだ。


「さて、朝食もとったことですしオレ達も行きましょうか」

「ああ、そうだな」


 ヴァルムがジークに声を掛け、出かける準備をしていた。


「私も付いて行ってもいい?」

「ぴぃ」


 アイリスが尋ねると、ジークが焦った表情で口を開く。


「あ、いやアイリス。今日はキッドと一緒に待機しててくれよ。マルムさんが来た時に対応とかも必要だしさ」


「え、でも……」


「な、頼むよ。今度稽古してる所、見せてやるからさ!」

「うん、わかった。約束ね」

「ああ、約束するよ」


 そう言葉を交わすと、ジークはヴァルムと一緒に宿屋から出て行った。冒険者ギルドの施設の一部をヴァルムが借りる手続きをしたとのことで稽古はそこで行われるという。


「ジークの頑張ってる所、見たかったよねピィちゃん」

「ぴぃぴぴぃ」


 自分の部屋に備え付けられている机に向かいながら、少しご機嫌が悪そうなアイリスがピィに話しかけていた。


◇◇◇


 所変わって、こちらは冒険者ギルドの施設内。剣士などが手合わせなどで使う部屋だ。壁や部屋の角には色々な武器が置いてある。


「アイリス様はジーク様が頑張っている所、見たかったんじゃないですか?」

「はぁ……オレ達二人しかいないんだから『いつも通り』の話し方でいいだろ、『義兄さん』」


 ヴァルムの模様の入った耳がピクッと反応する。顔を指で数回かきながら一度瞳を閉じて、再び開ける。先ほどとは雰囲気が変わる。


「ふう、いつぶりだろうなぁ。こうやって二人だけで話すなんてさ。な、ジーク?」

「普段の話し方がよそよそし過ぎるんだよ、義兄さんは」

「仕方ないだろ? オレはシグ様の右腕で、六使としては外交を任せられてるんだから」

「なんか馬鹿にされてる気分だよ。久しぶりにカセドケプルで会った時もさ」


 ははは、と軽く笑いながらヴァルムが大きく背伸びをする。それを顔を膨らませた不満たっぷりなジークが見つめていた。


「言い方はあれだったけど、おかしなことは言ってなかったけどな。だって、お前がまたウルフォードを抜け出すなんて誰も思わないだろ? それも先代の聖女様への贈り物の積荷に忍び込んで密入国だなんて。結構六使としても苦労したんだぜ?」


「そ、それについては確かに迷惑かけたなって思ってるさ」


 ヴァルムは溜め息を一度吐き、言葉を続ける。


「それが判明して行方を追わせたら、ロークテルにまで潜入していておまけに捕まったと思ったら聖騎士に選ばれるなんて……まあ、ちょっと安心したよ」


「え?」


「とりあえず義兄としては聖女に憧れてたお前が聖騎士になれて、今はアイリス様と一緒に巡礼の旅をしてるのは嬉しかった」


 瞳の中に淡い光が揺れているようにジークには見えた。だが、すぐに六使としての立場からのお小言が口から出てきた。


「だけどお前、アイリス様に選ばれてなかったら本当に大変だったんだからな!? ちゃんと自覚しておけよ?」


「う……」


「まずは二度も掟を破ってウルフォードを出たこと、そしてスペルビア王国に旅券なしでの密入国。普通なら人間族側に拘束されて裁判。狼族は氏族として罰せられて、シグ様が責任を取らされる所だったんだからな」


 両耳がへにゃっとなり、尻尾がだらんと垂れたジークが上目遣い気味に呟く。アイリスにも見せたことのない歳相応、家族に対する態度だ。


「……父さん、怒ってた?」


 目を細めながらヴァルムが言葉を返す。


「自分でウルフォードに戻った時に確認するんだな。他の一族の奴に聞いても話さないように口止めしてるからこそこそしても無駄だからな」


「うぐ……はぁ……わかった」


「それにしても……お前の聖女への憧れは小さい頃からすごかったのはわかってたけど……これから色々大変だぞ? わかってるのかジーク」


「聖騎士としてってこと?」

「そうじゃない」


 首を軽く左右に振りながらヴァルムが口を開く。


「お前の『恋』は敷居が高すぎるっていう意味だよ」

「こ、恋ってオレは別に……!?」

「ばればれだぞ。まあ、アイリス様は気づいてないだろうけど」

「……!」


「単に怒られるかもしれないから、じゃなくて『ソレ』が原因で帰れないんだろ?」


「……」


 ジークは静かに頷いた。ジークの言葉のない答えにヴァルムは溜め息と共に何か言いかけたがその話題には以降、彼が触れることはなかった。


「さて、それじゃ兄弟子から弟弟子への技の稽古始めるぞ」

「宜しくお願いしますっ!!」


 お互い腰に帯びた鞘から剣を抜く。新たな技を使うための特訓が始まるのだった。

数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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