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第130話 兄弟子ヴァルム、再び

 ディーナとキッドの計らいでシャルに負けたことに対しての気分転換としてアイリスとジークは二人きりでヴィクトリオンの街を散策した。宿に戻ってきた時のジークはいつも通り元気に見えた。


 自分なりの答えを出したジークは翌日、カセドケプルにある狼族の使館宛の手紙を出すのだった。


 現在はジークが目を覚まして二日後、手紙を出して一日が経っていた。宿屋の食堂には朝食を済ませたアイリス達の姿があった。


「もうジークが目を覚まして二日よ? 試練の内容を伝えに使いを寄越すって言っていたけど本当に来るのかしらっ。アイツの性格上、あたし達忘れられちゃってるんじゃない?!」


 四人が腰かけているテーブルを軽く叩きながら、ディーナが立ち上がる。それを隣に座るキッドがなだめる。


「ディーナ、落ち着いて。まだ兄貴が回復してから二日しか経ってないんですから。きっと準備とかで忙しいんですよ」


「私もキッドの意見に賛成かな」

「ぴぃぴぃ」


 二人とピィにそう言われたディーナはゆっくりと腰を下ろす。


「まあ、確かにそうかもね。……で? そっちの彼は何でそんなに暗い感じなの? 怪我治ったんでしょ?」


「……ん? ああ、身体の調子はすこぶるいいぜ」


 テーブルを挟んだ向こう、アイリスの隣ではジークがテーブルに両手を出してうな垂れている。今の会話にも口を出さずに静かに唸っていたのだ。


「その割には元気ない感じするけど?」

「ボクもそう思います。兄貴、何かあったんですか?」

「んー……なんていうか憂鬱っていうか……はぁ」


 ディーナとキッドは不思議そうに顔を合わせる。見かねたアイリスが説明するために口を開いた。


「実はジーク、カセドケプルにいる兄弟子のヒトに手紙を書いたの。その返事が来ないから気が気じゃないみたい」


「……そういうわけだ」


 テーブルにつけていた頭を上げながらジークが頷く。


「兄貴の兄弟子っていうと、確か六使のヴァルムさんですよね? カセドケプルで会った」

「あら、あたし初耳ね。ジークってば兄弟子がいたのね」

「うん、私達がカセドケプルにいた時に会ったヒトなの」


 興味深々な顔をしてディーナが言葉を続ける。


「六使もしていて、兄弟子ってことはジークのお父さん……つまり族長の片腕が務まるほど優秀なヒトなのね」


「優秀なのは認めるけど……オレは苦手なんだよな」


「どうしてよ?」

「私もディーナと同じで聞きたいと思ってたの。何か理由があるの?」


 アイリスも以前から気になっていたことだったので、ディーナと同じようにジークの顔を覗き込む。


「ボクも聞きたいです!」

「ぴぃぴぃ」


 キッドも自分の兄貴の兄貴の話ということでわくわくした様子でこちらを見てくる。


「はぁ……それはな」

「それはオレが小さい頃からジーク様の秘密を何でも知ってるからですよねぇ?」

「そうそう……こういう性格が悪い奴なんだよ……ってうぉ!?」


 アイリスとジークの間に顔を覗かせながら口を開いたのは他でもない今、話題になっていたジークの兄弟子であり狼族の六使ヴァルムだった。


「ヴァルム……さん? どうして此処に?」


「お久しぶりです聖女様。どうしてと聞かれると、可愛い弟弟子からの求愛の手紙を貰ったからとお答えしましょうかね」


「求愛の手紙だったんですか、兄貴」


「真に受けるなよ、キッド。はぁ、手紙の返事を待ってたオレが空しくなるな」


 カラカラと微笑みながらヴァルムが言葉を続ける。


「あらあら、そんなに返事を待ち焦がれてくれてたなんて光栄ですね」


「それにしても来るのが早すぎないか?」


 ジークが尋ねると、いい質問ですと言わんばかりに彼が口を開く。


「実は一人で来たんじゃないんですよ。ほら、あちらの彼女と一緒に来たんです」


 軽く手で食堂の入り口の方を示すとアイリス、ジーク、キッドには見覚えのある人物が立っていたのだ。その人物は近づいてくると礼儀正しく挨拶をしてきた。


「お久しぶりです、聖女様、聖騎士様。覚えておられるでしょうか?」


「はい、ガラシャさんでしたよね。獅子族の六使の」


「覚えて頂いていて光栄です。ヴァルムが慣れ慣れしい振舞いをしてしまって申し訳ありません」


 ディーナは次々と見知らぬ人物たちが訪ねてくるのを興味深く眺めている。時折、キッドに誰なのか確認していた。


「お二人で来たって言っていましたけど……」


 アイリスが言いかけると、その続きはガラシャから話をしてくれた。


「実は今回、族長シャルの命で聖女様達が受ける獅子族の試練の審判役をすることになったのです。それで急ぎカセドケプルから来たのですが、同じタイミングでヴァルムもヴィクトリオンに来たいということで同じ馬車で参じたのです」


「オレはヴィクトリオンまでの足を手配する手間が減ったので助かりましたよ」


 隣に立ちながらヘラヘラとしているヴァルムを見てガラシャは溜め息を吐きながら眉をしかめる。六使同士、相手がどんな人物かよくわかっているのだろう。


「試練の前の余興の決闘の話も聞いています」

「ジーク様、負けちゃったんですってね」


 二人の言葉を聞いてジークがバツの悪そうな顔を浮かべるのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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