第129話 二人の一日
族長シャルからの伝言をジークに話したアイリスは狼族のしきたりについて聞かされるのだった。
次の日の昼頃。ヴィクトリオンの街中を歩くアイリスとジークの姿があった。
「ジーク、ごめんね。まだ疲れてるかもしれないのに、連れ出しちゃって」
認識阻害のローブを纏ったアイリスが振り返り、ジークに声を掛ける。ジークは少し緊張しているような表情を浮かべていた。恐らくはアイリスと二人きりだからだろう。
「あ、いや……疲れとかはもう心配しなくていいよ。一晩寝たらすっかり調子よくなったし。それにしても急に街中を散策したいって言われたほうが驚いたぜ」
「私も元気になってすぐに連れ出すのはどうかなって思ったんだけどね……はは」
「?」
苦笑いを浮かべながらアイリスが呟く。同時に今朝、早くにディーナに話を持ち掛けられた時のことを思い出していた。
◇◇◇
朝早く、ディーナがアイリスの部屋を訪ねてきた。こんな早い時間に起こしてしまったことを先に彼女が謝った後で部屋の中に通された。
「おはよう、ディーナ。昨日は色々ありがとうね。ピィちゃんは元気?」
「ええ、まだぐっすり寝てるわ。それより、昨日は遅くまで付き添ってたんでしょ?」
「うん、あの後ジークが目を覚ましたから話をしてたの」
「ジークは元気そうだった?」
「うん。ちょっと疲れは残ってるみたいだけど、元気そうだったよ」
「それは良かったわ」
一息吐き、安堵した表情をディーナが見せる。
「それより、こんな早くに何か用だった?」
「ええ……アイリスも看病で疲れてるとは思うんだけど、今日ジークを連れて街を散策しに行ったらどうかなって話をしにきたの」
ディーナの急な提案にアイリスが反応する。
「ジークと私だけで? ディーナ達はどうするの?」
「あたしとキッドはピィの面倒を見ながら、獅子族からの使いが来た時の為に宿で留守番をしてるわ」
「そんな悪いよ」
「キッドとも話したんだけど、シャルに負けたことは結構ジーク気にしてると思うのよ」
「うん、昨日もごめんって」
「でしょ? だからアイリスがジークを街に連れ出して気分転換させて欲しいってことなのよ」
「えっと、それなら余計にみんなで行ったほうが良いんじゃないかな?」
ディーナが大きなため息を吐く。まあ、アイリスに提案した時にそんな反応をされるかもしれないということはキッドとこの話をした時点から予測していたことだ。
「やっぱりそういう所は鈍いのよね……」
「? 何か言った?」
「いえ、独り言よ。気にしないで。とにかく! ジークの体調が良いようなら二人で街を散策してくること。いい? わかった?」
「う、うん。わかった」
ディーナがずいっとアイリスに近づき、鼻先に人差し指を軽く突きつけながら強引に迫る。その押しに負けた彼女が同意の言葉を口にする。
「じゃあ、お願いねっ!」
満足した様子でディーナが手を振りながら部屋を出ていく。
アイリスは朝食をジークの部屋まで持っていった時に、一緒に街中を散策しないかと彼を誘ったのだった。断られるかと思ったが、簡単に了承が貰えた。まあ、ジークにしてみれば嬉しい言葉だったのだろう。
◇◇◇
「で、何処に行くんだ?」
「ジークは見てみたい所とかないの?」
「んー……武器屋とかは行きたいかな」
「じゃあ、武器屋の通りに行きましょ。宿屋のヒトに色んな場所を聞いてきたから案内できるよ」
二人は並んで歩きながら武器屋が並ぶ通りをゆっくりと見て周る。男の子ということもあるが、色々並ぶ武器を見ているジークはやはり楽しそうな表情を浮かべている。それを見るとアイリスも同じように自然と笑顔になっていた。
美味しい肉料理のお店も事前に調べていたので、お昼ご飯はそこで二人で食べた。ジークも満足しているように見えた。
ヴィクトリオンは流石獅子族の街だけあって、武器屋や鍛冶屋が多く点在しており気が付くともうすぐ夕方を迎える時間帯になっていた。
「獅子族の街は武器屋さんとか鍛冶屋さんが本当に多いね」
「ああ、マルムさんが鍛冶師なのも納得がいったなぁ」
街の真ん中にある広場の長椅子に腰かけながらアイリスとジークは言葉を交わしていた。
「……あのさ、アイリス」
「どうしたの、ジーク?」
目線を逸らしながらジークが呟く。
「今日は……その……誘ってくれてありがとうな。オレのこと元気づけてくれたんだろ?」
その言葉を聞いたアイリスはふっと微笑みを返す。
「ジークが気分転換出来たなら私は嬉しいな」
ジークは夕方の色に染まった空を眺めながら何かを決めたような表情を見せる。
「オレさ、ずっと悩んでたんだけど決めたよ。手紙、出してみるよ」
「誰に出すの?」
「……あんまり頼るのは嫌だけど……オレの『兄弟子』に、さ」
大きなため息交じりでジークが呟く。その日、宿に戻ったジークは早速手紙を書いた。宛先はカセドケプルにある狼族の使館だった。
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