第128話 狼族のしきたり
シャルとの戦いで傷ついたジークを看病していたアイリス。意識が戻ったジークにシャルからの伝言を告げると彼から一つの事実を聞かされることになる。
「二つしか技を使えないってどういうこと?」
頭の毛をくしゃくしゃと片手で触りながらジークが言いづらそうな表情を浮かべて口を開いた。
「今まで言ってなかったけど、狼族っていうのは15歳を迎えた時一人前として認められるんだ。そうするとカセドケプルで冒険者登録が出来るようになる。ウルフォードの親元からも独り立ちする時期はその頃なんだ」
「そうだったんだ。よく知らなかった」
「他の氏族と比べて昔からのしきたりを守ってるってやつさ。その時、親や親族から『狼咬斬』と『狼牙連脚』よりも強い技を教えてもらえるんだ」
天井を見上げながらジークが言葉を続ける。
「オレと同じくらいの奴らは15歳を迎えてすぐに親達から技を教えてもらって旅立っていったけど、オレはそうじゃなかった」
「族長の息子って立場なら技は誰よりも先に教えてもらえなかったの?」
溜め息を一度吐いてジークがアイリスの質問に答える。
「『例え族長の息子であっても例外はない。基本の二つの技を誰よりも昇華させることが大切だ』っていうのが父さんの言い分だったんだ。それに……」
「それに?」
「オレが小さい頃にウルフォードを抜け出した話、しただろ?」
「うん。ビナールで話をしてもらったの覚えてるよ」
「族長の息子が一族の掟を破ってウルフォードを抜け出したこと、父さんはすごく怒ってさ。オレが15歳を迎えて、次期族長の自覚を持った時に技の伝授をするっていう話になってたんだ」
アイリスが何かに気付いたような顔をして口を開く。
「その時期ってもしかして……」
ジークはバツの悪そうな表情を浮かべながら静かに首を縦に振る。
「聖女を讃えるお祭りの時期と重なった。勝手にウルフォードを抜け出したオレは聖女を見たい一心で技の伝授をすっぽかしちゃったってわけさ」
「だからウルフォードに帰るのをあんなに嫌がってたのね」
以前の次の目的地を決める際のジークの反応にアイリスは初めて合点がいったのだった。
「まだ父さんに会った時にちゃんと話せる気がしなくてさ……ごめん。大事なこと黙ってていて」
「ううん。話してくれてありがとう。言いにくいことって……誰にでもある……よね」
「アイリス?」
一瞬アイリスの顔に影が落ちたようにジークには見えた。
「あ、ううん。大丈夫よ。じゃあ、シャルさんが言ってた出し惜しみっていうのはどういう意味?」
「正式に父さんから技の伝授はされてない。でも他の同世代の奴とか冒険者になっていった先輩たちが色々な技を使っていたのは見て自分なりに練習してはいたんだ。我流っていう形であれば使えなくもない……ってことさ。実際アイツとの決闘の場では出そうか悩んだくらいだった」
「でも使わなかったってこと?」
再びジークは静かに首を縦に振る。右手を何度か握りしめながら口を開いた。
「『技』っていうのは心と身体、どちらも完全じゃなきゃ扱ってはいけないってよく父さんが言ってた。だから我流で身に着けた物を『技』として振るうことには気が引けたんだ……掟を破ってここまで来たオレが言うのも何だけど、そこだけは破れなくてさ。」
いつもピンと立っているジークの両耳は元気がなさそうにうな垂れている。恐らくはベッドで隠れている尻尾も同じような状態なのだろう。
「ジークがそう思ったのなら、それが正しかったんだと思うな」
「アイリス、ありがとな。でも、これからどうするかは考えないとな……」
「後日、試練の内容と日程は知らせてくれるって言っていたから今はゆっくり身体を休めてね。難しい話はそれからみんなで一緒に考えましょ? ね?」
「ああ、ありがとうアイリス」
「どういたしまして。ジークも色々言いにくいことを話してくれてありがとうね」
「まあ、結構長い間一緒にいるしな」
「うん、そうだね」
お互いの顔を見つめ合う時間が流れる。
「アイリス、温かい飲み物貰って来たから起きてたら飲んでね……ってあら、お邪魔だったかしらぁ?」
ディーナが気を使いつつ、様子を見に部屋に入ってくると見つめ合っているアイリスとジークを見てからかって見せる。表情はジークが目覚めて安堵しているようだ。二人は顔を赤らめながらそれぞれ下を向く。
「べ、別に大丈夫だぜ。な?」
「う、うん。そうだね」
「おはよう、ジークぅ」
「ああ、おはようディーナ……はは」
「キッドにも伝えておくから、二人でゆっくりね。あ、あとジークはちゃんと身体を休めること。いいわね?」
じゃ、と言ってディーナが笑いながら部屋を後にするのだった。その後少し気まずい空気が流れたが、アイリスとジークはしばらく話をした。それからアイリスはジークが休んだのを確認して自分の部屋に戻って眠りにつくのだった。
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