第127話 看病と伝言
アイリスによって傷ついた身体を癒されたジークはキッドに運ばれて逗留先の宿屋へと戻った。意識を失っていたジークにはアイリスが付き添うのだった。
「アイリス、食事持ってきたわよ」
「ありがとう、ディーナ」
「あなたも無理しないでね」
「うん、わかってる」
「ぴぃぴぃ」
「ピィはあたしが面倒見ておくわね」
「うん。お願いしてもいいかな?」
「もちろんよ」
腕伝いでピィがアイリスからディーナの肩に移る。その後、アイリスが食事が置かれたテーブルに歩いていく。それを見届けたディーナは安堵した様子でピィを連れて部屋の扉を閉めて出て行った。
「……」
そこまでを見送ったアイリスは食事には手を出さずに再びジークの眠っているベッドの横に近づけた丸椅子に腰かける。
「ジーク、早く目を覚ましてね」
これまで一緒に旅をしてきた中で怪我をしたりしたことは何度もあった。だが、今回のように大きな怪我を負い、聖女の力で癒しても意識が戻らないジークを見るのはアイリスも初めてだったために心配が募っていたのだ。
「……」
看病して数時間が経った頃、刹那アイリスが目を閉じる。
「っは! いけない、私ってば眠っちゃってた」
決闘を見ていただけとはいえ、ジークを心配していたことや看病で付き添っていた疲れが出たのだろう。少しの間だけ居眠りをしてしまっていたのだ。
「……そんな所で居眠りしてたら風邪引いちゃうぜ?」
ベッドの方から声がしてその方向に視線を向けるとベッドに入りながら上半身を起こしているジークの姿がアイリスの瞳に映る。
「ジーク、目を覚ましたのねっ」
「ああ、今起きたばかりだけどな」
一言、言葉を交わしたアイリスの瞳から自然と涙が溢れてきた。それを見て、ジークが焦ったのは言うまでもない。
「どうしたんだよ、急に」
「ジークがこのまま目を覚まさないんじゃないかって思ってたからかな……目を覚ましてくれて嬉しい」
「……悪いな。心配かけちゃって……それにオレ、負けちまったし」
「そんなの今はどうでもいい。ジークが無事なのが一番だもん」
「……えっと、涙で顔がすごいから拭いてくれると助かる」
両耳と頬を軽く赤くしながらジークがアイリスに呟く。
「あ、ごめんね。私ってば急に泣いちゃって……」
「いや……ありがとう、アイリス」
「ううん、お礼なんていいよジーク」
二人がじっとお互いの顔を見つめていると、ジークのお腹から音がする。それを聞いた二人が笑い合う。
「はは、悪い。起きたばっかりなのにオレ」
「ふふ、体力つけないとね。さっきディーナが食事を運んできてくれたの。冷めてるけど、一緒に食べよ。立てる?」
「ああ、ありがと」
アイリスが差し出した花の紋章が刻まれた右手をジークが聖騎士の証である盾と剣の紋章が刻まれた左手で掴む。二人はテーブルに移動し、ディーナが置いていってくれた食事に口をつけた。
時刻はもうすぐ、次の日に差し掛かる所まで来ていた。食べ終わった二人が言葉を交わす。
「ごめんな、こんな時間まで看病してくれて」
「そんなこと言っていないで、今はよく休んで。ね?」
「ああ、そうするよ」
再びジークがベッドに足を入れて、ベッドに入る。話しやすいように上半身は起こしたままだ。アイリスも丸椅子に腰かける。話題は決闘の後、ジークが意識を失っていた時の話になっていた。
「ジーク、シャルさんからの伝言があるの」
「伝言?」
「うん。『出し惜しみをして勝てるほど、自分は甘くないぞ』って伝えてほしいって言われたの」
「!」
ぴくっとジークの両耳が反応する。驚いたように目も見開いていた。
「何か心あたりがあるの……?」
「……」
ジークは一度、俯きながら何かを考える素振りをする。その後、もう一度アイリスの方に目を向ける。
「オレが使う技、覚えてるか?」
「うん。剣技は『狼咬斬』、体術は『狼牙連脚』だよね?」
アイリスはこれまでの戦いの中でジークが使っている技の名前を挙げる。
「ああ、その二つだ」
「それがどうかしたの?」
「……それしか、オレ使えないんだ」
「え?」
アイリスが聞きなおすとジークは一度深呼吸をした後に再び言葉を続ける。
「オレ、『その二つしか技を使えないんだ』」
「どういうこと……?」
バツが悪そうな表情をしながらジークがアイリスに言葉をかける。ちょうどその時、時刻は次の日を迎えていたのだった。
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