第126話 決闘の後で
ジークとシャルとの決闘は突然の決着を迎えた。大技を繰り出したジークは地に伏し、それを足蹴にするシャルの姿がアイリス達の目に映っていた。
「ジーク!!」
数メートルはある高さから一気に叩き落とされて血を吐き倒れるジークの元にアイリスが駆け寄る。足蹴にしていたシャルはそっと後ろに下がる。
「何が起きたのよ一体?!」
「兄貴……」
見ていた場所でディーナが驚きの声を出す。アイリスと同じく、刹那何が起こったか全く理解が追い付いていないようだった。キッドは苦しい表情で横たわるジークを見ていた。
「ジーク、大丈夫? 今、回復させるからねっ!」
「がはっ……あ、アイリス……」
意識の確認も兼ねてアイリスがジークの名前を呼ぶ。それに応えたジークはすぐ意識を失ってしまった。身体への損傷の大きさが伺える。すぐにジークの右手を両手で握りながら癒しの力を全身に送るように注ぎ込む。
ゆっくりと全身の傷が塞がっていく。そこにシャルが背後から声を掛ける。
「見習いとはいえ、聖女の癒しの力があれば大事に至ることはないだろうよ」
「……はい」
決闘という時点で互いに傷つくことはアイリスにも分かっていた。その結果としてジークが負けたという現実が目の前に広がっている。だが、見届けた者として勝者であるシャルに心無い言葉を掛けることは決してなかった。
「よくぞ、我らの決闘を見届けたな。見習いとはいえ、聖女としての覚悟はあるようだ」
持っていた剣を元の衛兵に手渡しながらシャルが語る。だが、アイリスはただひたすらジークの手を握って目を閉じて集中していた。
「聞いておらぬ、か。まあ、それも良い心持ちということにしておこう」
長い尻尾をと腰の装飾を翻しながら、シャルが族長の座に向かって階段を上っていく。一番上までくるとゆっくりと座に腰を掛けて眼下の者達を見下ろす。
その間にジークの身体はアイリスの癒しの光に包まれていた。今までの旅の中でここまでの傷を負ったのは初めてだったが、何とか命には別状は無さそうにアイリスには感じられた。
「良かった……顔色もよくなってきてる」
「回復は一応済んだようだな」
族長の座から声を張りながらシャルの声がする。
「はい」
「ではアイリス、我から見習いの聖騎士に伝言を頼むとしよう」
「伝言、ですか?」
「なに、簡単な一言よ。『出し惜しみ』して勝てる程、我は甘くはないぞ、とな」
「出し惜しみ……?」
「ふん、伝えれば答えはおのずと出るだろうよ」
そう言って、シャルは言葉を続ける。
「では、これで余興である決闘は終了である! 見習い聖女であるアイリス達には正式な『力の試練』の形式に沿って受けてもらおう。執り行う内容や期日については追って、使いの者を逗留している宿に遣わすこととするっ。それまではゆっくりと身体を休めるがいい」
ディーナはシャルのことを睨みながら言葉を呟く。
「負けたジークは好きにしろっていうことなのね。さぞ、いい気分でしょうねっ!」
「ディーナ、今はジークを安静にさせてあげましょう? ね?」
「わ、わかってるわよ……でもなんか悔しくてあたし」
「気持ちはわかりますよ、ディーナ。でも今は兄貴の方が大事ですから」
「はあ……わかったわ」
「お嬢、兄貴はボクが宿屋まで運びますね」
「ありがとう、キッド。助かるわ」
倒れて意識のないジークはキッドが担いで宿屋まで運んでくれた。神殿から出るまで、決闘を行ったジークに対して兵士達は皆、賞賛の意味を込めた敬礼を行っていた。
時間はもうすぐ夕方に差し掛かっていた。淡い日の光が山の陰に落ち始めていた。宿屋のジークの部屋にあるベッドに彼をキッドが優しく寝かせてくれた。
「ありがとう、キッド。ここまでジークを運んでくれて」
「いいんですよ、お嬢。これくらいボクにさせてください」
「どうする? みんなで交代して看病する?」
ディーナがそう声を掛けるとアイリスは静かに首を左右に振る。
「大丈夫。ジークには私がついてるから皆は先に食事とかを済ませてきて」
「でも、お嬢だけじゃ大変じゃないですか?」
「キッド、今は二人きりにさせてあげましょ」
「え、あ、はい。わかりました」
そう言ってディーナはキッドを連れて部屋から出ていく。残ったアイリスは正常な顔色に戻って静かに眠っているジークの手を握りしめる。
「ジーク……見守るだけって……結構つらいんだね……」
持ち上げたジークの手の甲に額をつけながらアイリスが呟く。
「早く、目を覚ましてね。そうじゃないと、私……不安になっちゃうよ」
「ぴぃぴ」
静かな部屋にアイリスの声が響く。肩に乗っているピィも小さく鳴いていた。窓から差し込む夕日の光がゆっくりと沈んでいき、部屋は次第に暗闇に包まれるのだった。
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