第119話 スカ―という人物
泉で水浴びをしていたアイリスに近づく謎の人物は、スカ―と名乗るお面を被った獅子族の青年だった。いかにも怪しいとジークが警戒していた。
「どうしたらボクが無実だって信じてもらえるかなぁ……」
その場で両手をあげたまま、スカーと名乗る青年が呟いていた。さすがにそのまま、というわけにはいかないジークが声を掛ける。
「……とりあえず、狩りの帰りって言ってたんだから得物は持ってるだろ? それをこっちに投げてもらうぜ」
「ああ、確かにそうだね。えっと、ちょっと待ってね」
一旦両手を下げて自分の身体に触れて、得物を探す素振りをする。すると腰に巻いた布の下から短剣が一本出てきた。
「これこれ。そっちに投げるね」
軽めの金属音がジークの足元に響く。ジークは起用に足で掴んで持ち上げた。その間にアイリスはジークが休んでいた木の裏で着替えを早々としていた。
「こんな軽い短剣で狩りしてたのか、あんた」
「ボクにはそれくらいがちょうどいいんだよ」
もう一度確認でジークが目を光らせるが、相手の言い分通り得物は短剣一本だけのようだ。するとアイリスが着替えを終えて木の陰から出てきた。
「ジーク、そのヒトは悪いヒトじゃないと……思うな」
まだ照れた表情を浮かべながら、アイリスが口を開く。
「ああ、着替えたらもっと可愛いねキミ。裸もとっても綺麗だったけどさ」
「ぁあ?!」
尻尾を逆立てながらジークが太い声を出して威嚇するような表情を浮かべる。思わずアイリスもジークの後ろに身を隠す。
「あ、えっと……ごめんね。本当、ボクって思ったことを口に出しちゃうんだ」
「アイリス、絶対怪しいってアイツ」
「でも、そんな感じはしないの」
聖女であるアイリスのヒトの目を見る目は確かだ。だが、明らかに言動が許せない、もとい怪しいのは変わらないとジークは顔に出ていた。
「キミは疑り深いねぇ。まあ、それくらいじゃないと狼族はやっていけないか」
「そりゃどうも。それじゃ、そのお面も取ってもらおうか」
ジークの言葉を聞いてスカ―がびくっと細い尻尾を逆立てる。
「こ、これだけは勘弁してくれないかなっ?!」
「そっちに選択権はないと思うぜ?」
「……それは、そうなんだけど……これだけは……」
明らかに落ち込んでいる声の感じと、縮こまった姿勢を見てアイリスが思わずジークの腕を握って口を開いた。
「ジーク、本当に嫌がってるみたいだから止めてあげようよ」
「でもなぁ……」
「ね? お願い」
至近距離で自分の腕を握りしめてお願いしてくるアイリスにジークが勝てるわけもなかった。
「~~~! し、仕方ないな。アイリスに感謝しろよあんた」
「ありがとう。本当に助かったよ」
スカ―と名乗る青年が胸を撫でおろして深く息を吐く。
「あとアイリス、そろそろ腕放してくれよな」
「あっ、ごめんね」
「いや、別にいいんだけどさ」
少し気まずい雰囲気が流れる。すかさずスカ―が声を掛けてきた。
「二人は仲が良いんだねぇ」
アイリスとジークは目を合わせると、そっと視線を逸らした。その様子を見てスカ―がお面越しに笑っていた。そして更に言葉を続ける。
「そういえば、アイリスとジークって言ってたよね? 確か今代の聖女と聖騎士がそんな名前だって聞いたんだけどさ。キミ達どう見ても人間族と狼族だし。噂話とぴったりだよね?」
その問いかけにジークがピンと両耳を立てる。確かにこの場で見ず知らずの者の前でお互いの名前を言ったのは失敗だと思ったからだ。
更にアイリスが水浴びをしていた所を見られたのもまずかった。認識阻害はローブ越しで効果を発揮するからだ。
「それは……」
ジークが言葉を濁していると、隣にいたアイリスが大丈夫という表情で頷く。
「貴方の言う通り、私達が今代の聖女と聖騎士です」
「アイリス、いいのかよ」
「大丈夫。このヒトは悪いヒトじゃないってわかるから」
「はぁ……お前がそう言うならオレも信じるしかないよな」
軽く息を吐きながらジークが握りしめていた腰の剣から手を放す。
「ありがとう、信じてくれて。いやぁ、まさか聖女様と聖騎士様に会えるなんて光栄だな」
こちらはこちらで気楽そうな声で笑ってみせる。
「ここにいるってことはヴィクトリオンに向かってる途中なんだよね?」
「はい、その途中で休憩をしていた所だったんです私達」
「そっかそっか。だったらお詫びと言ってはなんだけどヴィクトリオンまでボクに案内させてもらえないかな? 渡した短剣はそのまま預かっていて構わないし、何だったら両手を後ろで縛ってくれてもいいよ」
「それじゃ、短剣だけは預かっておくか」
アイリスが頷き、スカ―に言葉を掛ける。
「縛ったりはしないですよ。それより、案内してもらってもいいんですか?」
「ああ、いいよ。聖女様の綺麗な裸も見れたし……あ、ごめん」
ジークが再び牙を見せながら威嚇したのは言うまでもない。二人はスカ―を連れてディーナ達が待つ場所まで戻ることにした。その間も気さくにスカ―が話しかけてくる。悪いヒトではないが、どうにも掴みどころがない印象を二人は受けるのだった。
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