第10話 二人の会話
神官長が部屋を後にし、アーニャ達が来るまでのしばしの時間を得たアイリス達。考えてみれば、中央広場で再会してからここまでほとんど話す機会がなかった二人にやっと訪れた時間であった。
「何だか一度に色々なことがありすぎちゃったね」
「んー、確かにそうだな」
ジークは緊張の糸が切れたようで、椅子の上であぐらをかきながら背筋を伸ばす。アイリスはその素振りを笑顔で見つめていた。
「なんだよ」
「ジークって狼族の族長さんの息子さんだったのね」
「ああ」
「お父さんとお母さんだけ?」
興味を示したようにアイリスが尋ねてくる。
自然とジークも答える。
「あと弟が一人いる」
「そうなんだ!」
「そういうお前は……いや、悪い」
アイリスにも同じ質問をしようとしたジークだったが、アイリスの出自が孤児院というのを思い出してバツが悪そうに謝った。だが、アイリスの表情は変わらない。
「ジークが謝ることないでしょ」
「そりゃ、そうだけどさ」
「私の両親は10年前に起きた流行り病でね。それから私は孤児院で育てられたの。でもね、院長先生もすごく優しくて本当に良かったって思ってるの」
それからアイリスは孤児院での暮らしや、年少の子供達のことをジークに説明する。
一通りアイリスの話が終わったころ、今度はジークから尋ねる。
「そういえば、お前」
「お前じゃなくてアイリス」
訂正を求めるアイリス。気圧されるようにジークが言い直す。
「あ、アイリス」
「なあに?」
頬を軽く右手でかきながらジークが続ける。
アイリスは相変わらず明るい表情を浮かべる。
「本当にオレでよかったのか?」
「何が?」
「何って……オレを聖騎士に選んだことだよ」
「ああ、そのことね」
ジークにとってはかなり重要なことだったようで、じっとアイリスの答えを待つ仕草を見せる。アイリスは悩むこともなく口を開く。
「あのままだと、ジークが連れていかれちゃうと思ったから。これしか方法ないかなって」
きょとん、とした顔をジークは見せる。
「そんな理由かよっ?!」
身を乗り出し気味でジークが言葉を返す。
「だってジーク、密入国してきたんでしょ?」
「ま、まあ……そうだな」
ジークは痛い所を突かれたようで、元の姿勢に戻る。
「それにね」
「それに……なんだよ?」
「ジークが優しいヒトだと思ったから」
「……っ!」
ジークは面と向かってアイリスの顔を見ることが出来なくなったようで、目を逸らした。もちろんアイリスは正直に思ったことを話しているだけだ。
「どうかした?」
「いや、別に……」
アイリスは右手の人差し指をかざしながら続ける。
「ジークは私と迷子の女の子のお母さんを探してくれたでしょ?」
「ああ」
「あの時、私思ったの。このヒトは悪いヒトじゃないって」
「……やっぱり、変わってるなお前」
「そうかな?」
溜め息を吐きながらジークが背もたれに寄りかかる。
それをアイリスは不思議そうな表情で見ていた。
その時、ジークのお腹の虫が鳴った。
笑いながらアイリスが尋ねた。
「ジークの好きな食べ物は?」
「……肉」
「ふふ。私はりんご」
またもやバツが悪そうにジークが答えた。
照れているようにも見えた。
すると客間の扉がゆっくりと開きアーニャ達が入室してきたのだった。
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