第114話 二人の詩姫
試練達成の宴会の席でソレイユが精霊に愛されたという報せはそこにいた全てのモノを驚かせた。通常なら本来精霊に愛され詩姫になれる者が同じ世代に二人出るということはティフィクス史上でも初めてのことだった。
報告を聞いたフォルトナ達は驚きながらも、ソレイユが精霊に愛されたことをとても喜んでくれていた。妖精族のお偉方は驚きを隠せない様子だったが、実際に起こったのだから認めざるを得ない様子だったという話だ。
「何か朝食後から中の様子が慌ただしいですね、兄貴」
「そりゃ、そうだろうな。なんせ詩姫になれる者が二人出て来たんだから驚くのも無理ないぜ。しかも、それがディーナとソレイユだっていうんだからな」
「私も昨日嬉しそうにディーナがソレイユを連れて知らせに来てくれた時は嬉しかったなぁ。色々あったけど、精霊達はちゃんと見ていてくれたってことかな」
自分達に用意された部屋に集まり、アイリス達が昨日の宴会の場での嬉しい報せについて話をしていた。
―ドンドン!―
その時アイリス達のいる部屋の扉が強くノックされた。慌ててキッドが扉をあけて確認する。
「はいはい、今出ますね。あれ、ディーナじゃないですか」
「大変よ大変!!」
「なんだよ、いきなり大きな声で部屋に入ってきて」
扉を開けた瞬間に勢いよくディーナが部屋に乗り込んできて叫ぶ。ジークは両耳を手で塞ぎながら目を細めて口を開く。
「どうしたの、ディーナ。そんなに慌てて」
「聞いてよ、アイリス! ソレイユが『詩姫』に認められたのよ! すごいでしょ?! あたしも驚いちゃったけど、嬉しくって知らせに飛んできちゃった」
「え、すごい! 昨日の宴会の席でソレイユが精霊に愛されたって聞いた時、私も嬉しかったけど、正式な『詩姫』になれて本当によかったね!」
アイリスとディーナが両手を握り合いながら笑みを浮かべていた。
「『詩姫』が二人ってすごいな。今まで聞いたことないぜ」
「そりゃそうよ、このティフィクスの歴史上でも初めてのことなんだから」
「すごいですね、二人とも。これで仲の良い二人で『詩姫』をやっていけるのすごいです」
「ええ、嬉しいことよ。でも、私……」
キッドの言葉に少し何か感じるものがあるのかディーナがアイリスの顔を見つめていた。
「ディーナ?」
「ううん。何でもないわ。それで『詩姫』が二人になったことを記念して二人で急遽コンサートを開催することになったの。これから準備が忙しいんだけど、皆も見にきてよね」
「ええ、もちろん。二人の素敵な詩、聞かせてもらうね」
「頑張れよな。応援してるぜ」
「ボクも応援してますよっ」
「ぴぃぴぴぃ」
ありがとう、と言いながら部屋を後にするディーナ。廊下に出ると寂しそうに閉じた扉に背中を付けて天井を見上げながら一言呟く。
「あたし、本当はみんなと……なんて言えないわよね」
「ディーナ、此処にいたのね! みんな探してたわよ」
「ソレイユ」
ディーナが準備の途中でいなくなったと聞いて、ソレイユが探しに来てくれたのだ。コンサート用のドレスに身を包んで準備は既に済んでいるようだ。
「わかったわ。急に抜け出してごめんなさいね。みんなにあなたのこと、早く知らせたくて」
「それはとっても嬉しいわ。ありがとう、ディーナ。それより、何か言ってなかった?」
「え?! ううん、何も言ってないわよ。さ、準備に戻りましょっ」
そう言ってディーナは速足で準備をしている会場に向かっていく。その後ろ姿をソレイユは少しの間見つめていた。
「……やっぱりなかなか素直になれないのね、ディーナ」
それからしばらくして、コンサートが開かれることがティフィクス中に広まっていく。会場には二人の詩姫の詩を聞くために沢山のヒト達が集まっていた。アイリス達も以前、ソレイユのコンサートを観覧した特別席に招待され、席についたところだった。
舞台裏では詩姫の二人が打ち合わせをしていた所だった。
「いつもよりヒトが多いわね。半年ぶりだからちょっと緊張しちゃうわね」
「大丈夫よ。さっきの練習でも上手くいったんだから。それに緊張なんて、ディーナには似合わないわよ」
それもそうね、とディーナが笑って見せる。
「ねえ、ディーナ」
「なに、ソレイユ」
「私、詩姫としてディーナと並んで唄えるの、とっても嬉しい。夢に見てたことが叶ったことがすごく嬉しい」
後ろに手を組みながら数歩前に出て、ソレイユが笑顔で言葉を紡ぐ。
「そうね。私達、子供の頃からずっと夢見てきたものね」
「でもね、私はそれよりも親友の貴方には自由に生きて欲しいって思ってる。あんまり我がままは駄目だけど、純粋な願いがあるなら自分に嘘はついて欲しくないの」
ドキッとしたような素振りをディーナが見せる。ソレイユの考えていることは正解のようだ。
「アイリス達と一緒に行きたいんでしょ?」
「!」
「私、ディーナの背中を押すよ。でもまずはコンサートを成功させてからだけどね」
目くばせしながらソレイユが微笑んで見せる。
「ありがとう、ソレイユ。……あたしってわかりやすい?」
「うん、昔からね」
お互い笑い合っていると、コンサートの開始の時間が訪れた。二人は『詩姫』の顔になって舞台裏からコンサートの舞台へと歩いていく。
「みんな、今日は来てくれてありがとう!」
「久しぶりに帰ってきたわよ! 今日は盛り上げていくから、ついて来てね!!」
会場が熱気に包まれる。二人の詩姫が唄声を重ね合わせて、観客を魅了していく。それはとても美しい光景だった。
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