第113話 ささやく声が聞こえる時
妖精の試練を見事乗り越え、巡礼の旅の目的である『妖精の雫』を手に入れたアイリス達。その日の夜はフォルトナの邸宅で聖女と聖騎士の試練達成を祝う宴が開かれていた。
「聖女と聖騎士を祝う宴っていっても今回の試練、オレはアイリスが頑張ってるところを見てただけだったけどな」
両耳を垂らし、少し顔を膨らませたジークが肉料理を頬張りながら隣にいるアイリスに声をかけていた。尻尾は小さく揺れていた。
「そんなことないわよ。ジークが私のことを応援してくれたり、気遣ったりしてくれてるのもすごく助かってるんだからね」
その言葉を聞いて途端、ピンと垂れていた両耳が元気に立ち上がる。更に尻尾の振り幅も大きくなる。
「マジ? アイリスにそう言われちゃうと何か気分いいなぁ、ははは」
明るく笑うジークの隣のキッドと、テーブルを挟んだ対面に座っていたディーナが話を交えていた。
「あなたの兄貴分は随分と……何て言うの。うん……わかりやすいわね」
「そうなんですよねぇ……わかりやすいんですよ。あ、でもとってもいい兄貴なんです!」
「ま、良い所はあるわよね。まあ、あたしのタイプじゃないんだけど」
キッドと話をしていたディーナの元に綺麗なドレスを纏ったソレイユが声を掛けてきた。
「ディーナ」
「あら、ソレイユ。素敵なドレスね」
「宴会だっていうからこれくらいの身なりはちゃんとしてこようって思ってたの。でもディーナは普通の服装なんだもの。びっくりしちゃった」
それならそうと言ってよ、というような小さく身体を左右に振る仕草を彼女は見せる。それをみたディーナが笑みを浮かべながら口を開いた。
「ふふ、今回は普通のあたしでいたいっていうのかしら。フォルトナ様達にもドレスは用意してもらっていたんだけど鏡の前の自分をみたらそう思っちゃったのよね」
「ディーナらしいね」
「ありがと」
そこまで話すとソレイユは俯き加減で何かを考えている素振りを見せる。
「どうかした、ソレイユ? 浮かない顔なんてしちゃって」
「ディーナ、少し場所を変えてもらってもいい?」
今まで話していたキッドの方を見ると、どうぞどうぞという身振り手振りの気遣いをもらったのでディーナはソレイユと宴会が開かれている広間の外のテラスに移動する。
「それで? 何かみんなには言えないことだった?」
「うん、私ちゃんと謝りたくて」
首を傾げながらディーナが口を開く。
「謝るって……もう十分なくらいあなたは謝ったでしょ? それに何度も言うけど、あなたをそうさせたのはあたしのひどい言動とか行動なんだし。お互い様でしょ?」
「うん……それはフォルトナ様やイシュカ達にも優しい言葉をかけてもらってるし、今も気遣いをしてもらってるのもわかるの。でも、どうしても胸に何か引っかかってる感じがして落ち着かないの」
テラスの手すりに近づきながらディーナがソレイユに声を掛ける。
「その気持ち、あたしもわかるわ。あたしも色んなヒト達に迷惑をかけてきた。それがまた此処にいる……正直な所、みんなの気遣いとかが無意識に背中に重なってきてる感じがするのよね」
「ディーナもそうなのね」
「あたし達、昔から似た者同士だったじゃない」
ソレイユも言葉を掛けながら、ディーナの隣に歩いてきてお互い夜空を見上げる。
「あたし達、もしかしたら仲直りがずっと出来ないんじゃないかって思ってたの」
「ディーナ……」
「半年前、此処を出て行って広い世界を見たわ。それでもあたしは変われずにいた。でも何とか足掻いて、もう一度胸を張って戻ってきてやるんだって気合だけは意味もなくあったけど……やっぱりソレイユ、あなたともう一度友達に戻りたい気持ちが一番だったの」
二人はテラスの手すりに両手を置きながら少しの間見つめ合う。
「私も何のわだかまりもなく、昔みたいに話せている今が好き。アイリス達には感謝してもしきれないな、私」
「正直にお礼を言えばいいのよ。もういいよって言われても自分が納得するまで謝るのも手かもよ?」
「ふふ、ディーナらしいわね本当」
「でしょぉ?」
静かな夜に二人の笑い声が良く響いた。
「あ、あと私、精霊達に酷いことをしちゃったのを謝りたいの。出来るかな?」
「うーん、精霊達は特に怒ってはいないんじゃないかしら。そういうのも感じなかったけど」
顔を傾けながらディーナが口を開く。すると二人の話を聞いていたかのようにいくつかの精霊達がディーナの傍に寄ってきたのだった。
「あらあら、盗み聞きなんて性格が悪い子達ね」
「みんな、ごめんなさい。私の心の弱さで怖い思いをさせてしまって……謝って済むとは思ってないけど……ずっと昔からディーナの傍で貴方たちを見てきたから失望させちゃったかしら」
―『 』―
「え? ディーナ今何か言った?」
訪ねてきたソレイユを驚いた顔をしてディーナが見つめていた。
「ソレイユ……貴方もしかして……今、『聞こえた』の?」
「え、うん。大丈夫って聞こえた気がしたんだけど」
その時ディーナの周りで回っていた精霊達がゆっくりとソレイユの周りを回りだした。ディーナが口を開く。
「ソレイユ、貴方が聞いたのは間違いなく『精霊の声』よ」
「え!? 今のが精霊の声? 刻印の力を使っても聞こえなかったのに……なんで」
精霊達は更に二人の傍に集まってきて活発に周り出す。
―『 』―
「私たちに」
「愛された二人」
二人が聞こえた言葉を繋げるように呟く。顔を合わせたディーナが喜びの表情でソレイユの両手を握る。
「ソレイユ! 貴方もあたしと一緒で精霊に愛されたのよ! すごいわ」
「え、私が……精霊に愛された?」
「そうよ、その証拠に貴方の傍に寄り添っているし言葉も聞こえる……フォルトナ様に教えてあげなくちゃ」
ディーナが言葉を続けていると目の前のソレイユの瞳から綺麗な雫が溢れて来ていた。
「私……ひどいことをしたのに……こんな嬉しいモノを貰っていいのかな」
「いいのよ。この子達がそう言ってるんだから。おめでとう、ソレイユ」
穏やかな笑みを浮かべながらディーナがソレイユを優しく抱きしめるのだった。
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