第112話 詩姫と聖女の詩
妖精の国ティフィクスで行われる巡礼の旅の試練、『妖精の試練』は詩姫と聖女が共に心を合わせ詩を唄うというものだった。広間の階段の上にある石碑に刻まれた詩をディーナとアイリスが唄うために準備を始めた。
「この石碑の通りに二人で唄えばいいって言ってたけど、音程とか雰囲気は大事にしたいわよね」
「ディーナってそういうところは譲らない性格よね」
「そうよ。こういう儀式みたいなものは特に形式上のことは大事なんだから。何て言ってもあたしが聖女の試練をアイリスと受けれるんですもの。張り切らないわけにはいかないわよ」
「ふふ、ありがとうディーナ」
「べ、別にそんなお礼なんて言われても嬉しくないんだからね」
階段上の石碑の前でアイリス達が笑い合っていた。下ではジーク達がそれを見守っていた。
「すっかり、ディーナとお嬢仲良くなりましたね」
「ああ。でも結構強気な性格だし、おてんばな所が目立つけどちゃんと最年長っぽい所もあったりで忙しい奴だよ」
「悪いヒトじゃないですよね」
「ああ、そうだな」
男性陣の横ではディーナ達を心配そうに見守るソレイユとフォルトナの姿があった。
「フォルトナ様、二人ともちゃんと出来ますかね?」
「ふふ、見守っている貴方が緊張していたら二人とも安心して出来ませんよ」
「あ、確かにそうですよね」
「心配いりません。あの二人ならきっと大丈夫です。出会いとはヒトを変えるモノ。そうでしょう?」
「そう、ですね。わかります、その言葉の意味が」
フォルトナの言葉に自分も心当たりがあるソレイユが笑い返した。皆が階段下で話をしている間も儀式の準備は進んでいく。ディーナの周りには精霊達が飛んでおり、準備を見守っているようだ。
「いい? ここはこういう音程でいくわよ。多分その方がいいと思うの」
「ここはどう唄えばいい?」
「ここはね、少し気持ちを落ち着かせて唄うの。その後に一気に気持ちを高めてね」
「ディーナ、流石詩姫ね。何も音程のないこの詩に旋律を与えちゃうんだもの」
「周りにいてくれる精霊達からの声っていうのかしら。それが聞こえてくるのよね。そこはこういう音だよ、とか此処はこんな詩だよって」
石碑に書かれた詩の歌詞に二人で旋律をつけて、ゆっくりと練習を重ねる。二人の息の調子、間隔、少しずつ確実に合わせていく。そして、本番の時を迎えたのだった。
「それじゃあ、始めますね!」
「ええ、お二人の良いところで始めてください。私達は此処で聞かせて頂きます」
「頑張ってね、ソレイユ」
「ありがとね、ディーナ。任せておいて!」
「お嬢頑張ってくださいねー」
「ぴぃぴぃ!」
「ありがとう、キッド、ピィちゃん」
階段下にいる者達から激励の言葉が飛んでくる。そしてジークからアイリスに向けての言葉の番がきた。
「アイリス、お前なら出来るよ。オレはいつもお前のこと信じてるからな」
「ジーク、とっても心強い言葉をくれてありがとう。私も自分のことを信じて頑張るね!」
二人は目を合わせてしばしの間、見つめ合う。それは無意識だったかもしれないが、自然と笑みがこぼれていた。
「それじゃ、行くわよアイリス!」
「ええ、お願いねディーナ!」
祭壇の石碑の前に並び、ディーナとアイリスは共に瞳を閉じて手を握り合う。そして試練の詩を唄うために口を開くのだった。
―『静かなる森の調べよ、導きたまへ』―
―『清浄なる心の安寧と、身体への労いを』―
―『心に響く、その詩を共に唄わん』―
―『純真なる心を通わせた二人の詩声は遥か彼方まで響く』―
―『永久の平和を築く礎とならん』―
祭壇から広間全体に二人の詩声が響く。まるで聞く者の心を洗うように、そして心地よい旋律が胸に届く。
「素敵な詩ですね。二人の声がとっても胸に響いてきます」
「ああ。すごく……心に響くな。いい詩だぜ、アイリス」
「フォルトナ様、私こんな素敵な詩聞いたことないです」
「私も石碑に刻まれていた歌詞は読んだことがありますが、あの二人が唄うとこんなにも壮大で、かつ繊細な心に響く詩になるのですね」
聞いているジーク達がそれぞれ言葉を漏らす。やがて二人は詩を唄い終える。
その時、祭壇の石碑が光を放ち始めた。ゆっくりと祭壇が開き、碧色の宝石が姿を現したのだった。宝石はアイリスの元へと近づいていく。ちょうど胸のあたりで動きを止めた。そっと両手で受け止める。
「これが『妖精の雫』……とっても綺麗」
「やったわね、アイリス」
「ううん、ディーナのおかげよ。本当にありがとう」
階段下からもその様子が見れたようで、歓声があがる。それに手を振って応えながら『導きの証』の同じ形の穴が開いた場所に『妖精の雫』をはめるのだった。
こうして巡礼の旅、最初の試練をアイリス達は無事乗り越えたのだった。
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