第108話 向き合う二人
詩と神聖魔法による合体攻撃によってエレメンタル・キメラは光の粒子へと変わっていく。ディーナは開放されたソレイユを膝の上に横たえながら地面に腰を下ろしていた。
「ディーナ……私、よく覚えていないけれど、多分みんなに迷惑をかけちゃったんだよね」
「そんなこと、ないわよ」
瞳に涙を溢れさせながらディーナが言葉をかける。だが、ソレイユは力を振り絞るようにして首を左右に振る素振りをする。
「私は偽りの詩姫だった……あの印の力にすがって……あなたから精霊達を引きはがしてコンサートの舞台の上にいるあなたの悪口を散々言い散らかした。そして詩姫の座を私は奪ったじゃない」
「それはあたしが、詩姫っていう立場をいいことに我がままを言ったり自分だけが特別だって舞い上がっていたから……バチが当たったのよ。その証拠にあの時以降、あたしの元に精霊達が近づいてくることはなかったんだから。あなただけのせいじゃないわ」
二人は見つめ合いながら、瞳の奥の光が揺らいでいた。互いに犯してしまったことの大きさと虚しさを噛みしめているようだった。
「それにあたしは、あたしを一番近くで理解してくれて支えてくれていたあなたの心を踏みにじるような言葉を平然と言葉にしてた。それがどれだけ酷いことだったかも理解してなかった。それが積り積もってあなたの心の隙を作ってしまったんだから。ごめんなさいね、ソレイユ」
ソレイユに優しく語りかけるディーナの頬に涙がつたう。アイリスがゆっくりと近づいて、ディーナの隣に座る。
「ディーナ、ソレイユに治癒をかけるね」
「ありがとう、アイリス」
うん、とアイリスが微笑んで見せる。ソレイユが見つめる先をアイリスに移す。
「アイリス……あなたにも迷惑をかけちゃって……ごめんなさい。酷いこと、言っちゃって……」
「いいのよ、ソレイユ。もう、いいの。今は傷の手当のほうが大事だから、ね」
「私……」
アイリスが衰弱気味なソレイユに治癒をかけると、ソレイユはゆっくりと瞳を閉じて深い眠りに落ちて行った。ディーナから魔法のローブを借りてソレイユの身体を包む。取り込まれていたことで、来ていた服も所々溶けていたからだ。
「きっとエレメンタル・キマイラを倒したことで、ティフィクスに現れた邪精霊達もいなくなっているはずよ。一先ずソレイユをフォルトナ様の所に運びましょ」
「ええ、そうね」
「ジーク、お願い」
アイリスがジークにローブに包んだソレイユを運んでくれるように頼む。
「え、オレが運ぶのかよ!?」
ジークは顔を赤くしながら目のやり場に困っている素振りをする。両耳がピンと立ち、尻尾の毛は逆立っていた。
「そうだけど……どうしたの、ジーク?」
「いや、だってさ。なんていうか、ほら、あれだあれ」
「嫌なの?」
か弱い女の子を運んでくれないジークにむっとしたような表情を浮かべるアイリス。ジークがどうしてそんな素振りをしているかなど、わかるはずもないのだろう。
「嫌じゃない。嫌じゃないんだって!」
「だったら、運んでくれてもいいじゃない。私じゃ、力が足りないから頼んでるのに」
「うぅ……」
さっきまで涙を流していたディーナだったが、アイリスとジークのやりとりを見ていたらすっと涙が引いてしまっていた。溜め息を吐きながら言葉をかける。
「はいはい。二人ともそこまでにしておきなさい。キッド、ちょっといい?」
「はい。なんですかディーナさん」
「ディーナでいいわよ」
「えっと、ディーナ何ですか?」
こっちは大丈夫そうね、というような表情を浮かべながらディーナが言葉を続ける。
「ソレイユをフォルトナ様の邸宅まで運んでくれる? あなた小さいけど、なかなか力持ちでしょ?」
「ああ、そうなんですよ。へへ。わかりました、ボクがソレイユさんを運びますね!」
「ありがとう」
これでいいでしょ、という目くばせを困っているジークに向けてする。無言で何度か首を縦に振って合図を返す。
「ごめんね、ディーナ。ジークがなかなか言うこと聞いてくれなくって」
「……はぁ。ちょっと同情しちゃいそうになるわね」
「え? 何か言った?」
「ううん、何でもないわ。それじゃ行きましょ」
一行はソレイユを連れて、精霊の森を後にした。各所でも邪精霊は消えていた。後から聞いた話では冒険者ギルドが中心に事態の鎮静化に向けて動いてくれていたようだ。
邸宅へ戻ると、フォルトナがアイリス達の帰りを心待ちにしていたようでソレイユの無事を確認すると何度もアイリスやジーク達にお礼の言葉を口にしていた。
こうしてティフィクスで起こった一連の事件は収束へと向かっていくことになるのだった。
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