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第9話 謁見を終えて

 アーニャの提案した『巡礼の旅』を王が承認したことで、大臣達にも大きな動きが見えた。


 外務大臣のエアリーズには巡礼の旅について、スペルビア王国とフライハイト全域に通達をするように王からの指示があった。


 その通達によって混乱が生じることも考えられるために軍務大臣のビルゴは兵士達の士気を上げておくように言いつけられていた。


 それまでの話を静かに聞いていた財務大臣のジュミナスも、それ相応の準備をしておくと王に話していた。


「それではアーニャ、ガーライル。旅の準備が出来るまでアイリスとジークを任せても良いか?」


「はい、かしこまりました陛下」


 大臣達に一通りの指示を出した王が、アーニャ達にアイリス達の世話を頼む。

 アーニャは快くそれを承諾し、ガーライルも一礼して見せる。


「そうなると次は『聖獣召喚の儀』というわけか」


 王が期待を込めた仕草をして呟く。


「アイリスとジークには少々休んでもらい、その後『儀式の間』で召喚の儀を執り行いたいと思っております」


 王はアーニャの言葉に頷く。

 続いてアイリスとジークの前に立っていた神官長のプルートが口を開いた。


「それでは私がアイリスとジークを客間に案内しておきます。その後私は教会に戻ろうと思います」


「ありがとうプルート。私達はもう少し陛下と話をしてから向かいますので、宜しくお願いします」


「では、アイリス、ジーク行きましょうか」


 神官長に促されアイリス達は後ろについていく形で王の間を後にした。

 扉が閉まった途端緊張の糸が切れたのかアイリスが大きな息をついた


「はぁ……私、緊張しちゃいました」

「オレも……」


「聖女と聖騎士と言えど、貴方たちはまだ子供ですから仕方ありませんよ」


 脱力している二人を見て神官長は口に手を当てながら笑って見せる。

 そこに廊下の向こうからこちらに歩いてくる者が見えた。


 綺麗な赤い髪を縦に巻き、緑色の瞳を携えたアイリスと同じくらいの年の少女だった。

 神官長は相手がわかっているようで一礼する。

 それを流すように見つめ、少女がアイリスをキッと睨みつける。


(わたくし)は貴方が聖女だってこと、認めていませんから!」

「えっ、えっと……?」

「なんだよ、いきなり」


 突然の宣誓にアイリスが戸惑う。ジークは目を細めて、相手に不信感を向けていた。

 赤い髪の少女は一方的に会話を切ると王の間へと入っていった。

 

 置き去りにされたようにきょとんとするアイリス。

 神官長は苦笑いを浮かべながら声をかけた。


「あの方はアーニャ様の孫娘のミリアリア様です。少々気が強い所がありますが、どうか気にしないでください」


「こっちは一方的に喧嘩を売られたんだけどな」


 ジークは気にくわないような態度を見せた。


「急に言われてびっくりしたけど、私は悪いヒトには見えなかったな」

「お前……本当に変わってるな」


 相変わらずのアイリスの性格にジークは溜め息を吐く。


「それでは行きましょうか」


 話をまとめるように神官長がついてくるように促した。


 長い廊下を進んでいくと、既にアイリス達のことが知られているようで兵士達は聖女と聖騎士に向かって深く礼をしてみせる。アイリス達はまだ慣れないようで同じように礼を返していた。


 しばらく進むと目的地である客間に辿り着く。

 中に入ると清楚な雰囲気が感じられた。

 椅子に腰かけるように神官長に案内され、アイリス達は腰を下ろす。


「それではアーニャ様達が戻られるまで待っていてください。私は教会に戻ります」


「神官長様、色々とありがとうございました!」

「ありがとうございます」


 アイリスはその場に立ち上がり、深く礼をする。続くように立ち上がったジークも同じように礼をした。


「これから大変でしょうが、頑張ってください。貴方たちに大いなる意思のご加護がありますように」


 優しい笑みを浮かべて礼を返した神官長が部屋を後にする。

 それからアーニャ達が戻るまでのしばしの間、アイリス達は大きく深呼吸をして緊張をほぐすのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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