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第105話 精霊に愛された者

 エレメンタル・キマイラの『属性障壁』と四種類の精霊を元に繰り出される魔法攻撃に苦しめられるアイリス達。更に体内に取り込んだソレイユを盾にされることで決定打を封印されてしまう。そんな中、心からの願いを口にしたディーナにある変化が訪れるのだった。


 寄り添うようにディーナの周りに精霊達が集まっている。


「……これって……まさか」


 昔、同じ感覚を受けたことを彼女は思い出していた。


◇◆◇


 妖精街の片隅。誰も訪れることはない路地裏に幼き日のディーナの姿があった。両親はおらず、物心ついた時にはずっと一人で残飯などを口にしながら生きる日々を送っていた。


「寒い……お腹も空いた……」


 今よりも華奢な身体付きで、目の下にはクマも出来ていた。ぼろぼろの布切れを羽織って寒さを凌いでいた。


「……あれ? 何か聞こえる……」


 そんな時、ある変化が起こる。誰かが囁くような、綺麗な音色が聞こえてきたのだ。


「綺麗な音……何だか落ち着くような気がする」


 幼い子が聞こえてくる音色に耳を澄ませていると、どこからか赤、青、緑、黄色の光を帯びた球体が近寄ってきたのだ。


「あなた達、何処から来たの? ああ、何だかとっても温かい」


 それからと言うもの、四種類の色をした球体はずっとディーナの傍に寄りそうようになっていた。家族のいなかったディーナにはその光達がまるで家族のように思えた。


「あなた達、いつも傍にいてくれてありがとう。ずっと一人で寂しかったけど、もう大丈夫。寂しくなんてないわ……そうだ、いつも傍にいてくれるあなた達にあたしの『うた』を聞かせてあげるね」


 独りだった時、彼女はずっと『うた』を唄っていた。お腹が空いた時、寂しい時、口ずさんでいたのだ。それを寄り添う光達に聞かせると、喜んでいるように反応を返してくれた。


「ふふ、気にいってくれた? なら、新しいうたを考えなきゃね」


 そんな生活を送っていたある日、路地裏で独りうたを唄う少女の噂を聞きつけた妖精族の族長フォルトナがディーナを迎えにきた際に自分の傍にいる光の球体のことを説明してくれた。


「あなたは精霊に愛された子なのです」


「あたしが、精霊に?」


「そうです。今もあなたに寄り添っている光の球体こそ、まぎれもない四つの属性の精霊達なのです。あなたは妖精族の詩姫になる素質を持って生まれてきたのですよ。名前を聞かせてくれますか?」


「えっと……あたしの……な、名前は……」


―『  』―


「!」


 当時、彼女は自分の名前を持っていなかった。だが、その時精霊達の声が聞こえたのだ。それが自分の名前なのだと本能的に感じられ、その名を名乗ったのだ。


「ディーナ、あたしの名前はディーナっていうの。この仔たちが教えてくれた」


「そうですか。精霊達から名前を贈られたのですね。ではディーナ、私と一緒に来てください。あなたがいるべき場所につれていってあげます」


 少しフォルトナのことを怪しんだディーナだったが、妖精達の声がまた聞こえた。


―『  』―


 大丈夫だよ、と優しい言葉がディーナの耳に届いていた。


「はい。宜しくお願いします」


 こうしてディーナはフォルトナの元に引き取られたのだった。その幼き日の記憶が懐かしき音色と共に蘇ったのだ。


◇◆◇


―『  』―


「……なんだ、ずっと傍にいてくれたのね……みんな」


 あの日からずっとあなたを待っていた、そう聞こえた気がしてディーナの瞳から涙が溢れてくる。半年前のコンサートの日にいなくなったと思っていた精霊達はずっと彼女の傍にいてくれたのだ。


「あたしが我がままで、自分のことばかり考えていたから……心の瞳が曇っていたから見えなくなっていたのね……ごめんね。寂しかったよね……ありがとう、ずっと傍にいてくれて」


 精霊達が嬉しそうに周りをまわってみせる。


「また愛してくれる?」


―『  』―


 もちろん、と聞こえた気がした。頃合いを見てアイリスが声をかける。


「ディーナ、大丈夫?」


「ええ、大丈夫よアイリス」


 明るい笑顔でディーナが言葉を返す。瞳に溢れる涙を拭い、迫りくるエレメンタル・キマイラを見つめる。


―『  』―


「うん。わかってるわ。あなた達の気持ち、伝わってくるのを感じる。ねえ、アイリス」

「何、ディーナ」

「あたし達、絶対にソレイユを助けられる。そう精霊達が言っているわ」

「うん、私もそんな気がする」

「ぴぃぴぃ!」


「ありがとう。ここには精霊達も、そしてアイリス達もいてくれる。『仲間』が支えてくれているんだから、出来ないことなんて何もないわ!」


 ディーナの瞳に光が灯る。それは希望の光に見えた。精霊に愛された彼女の力が再び目覚める時が訪れたのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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