第100話 精霊の森へ
『厄災の使徒』がソレイユに施した『刻印』の力によって堕ちた精霊である『邪精霊』がティフィクス中に出現。冒険者ギルドがこれに対処していた。一方、アイリス達はフォルトナから情報を得て、黒いモヤが噴き出している中心である精霊の森へ向かうのだった。
「精霊の森って噂では聞いていたけど、どんな所なの?」
一路精霊の森を目指しているアイリス達。歩を進めながらアイリスがディーナに尋ねる。
「精霊の森は誰でも精霊と交流できる神聖な場所よ。あたしも詩姫だった頃、そこで精霊達とお話をしながら詩を唄ってた。あたしとソレイユの思い出の場所でもあるの」
「二人はどんな関係だったの? こんな時に昔の話を聞くのもあれかもだけど」
「いいのよ。精霊の森までは時間もかかるし……あたしもこんな時じゃないと話さないかもだし。ジークやキッドが暇しなきゃいいけど」
置かれている状況は切迫しているが、ディーナとソレイユの関係を知りたかったアイリスが尋ねる。少し気恥しい表情をディーナは浮かべていた。
「ディーナがそんな顔する話なら、オレも聞いてみたいかな」
「もう、兄貴は性格わるいですね。素直に聞きたいって言えばいいのに」
「ま、まあいいわ。話してあげる」
◇◆◇
話は今から少し遡りディーナが詩姫に選ばれてフォルトナの子として育てられ、ソレイユと出会った時まで戻る。
「おめでとう、ディーナ。これで晴れて詩姫ね!」
「あ、ありがとう。ソレイユにそう言って貰えると嬉しいな」
いつも二人で遊んでいる精霊の森で花を摘みながら二人が話をしている。ディーナの周りには精霊達が集まっている。
「はぁ、私も詩姫になりたいなー。ねえ、ディーナ。どうやったら精霊達に愛されるの?」
「急にそんなこと言われても……あたしは生まれた時からだったから、方法とかわからないわ」
「そうよね。でも私、ディーナに会えるのとても楽しみにしてたのよ。フォルトナ様が精霊に愛された女の子を連れてくるって言ってたのを聞いてどんな子なのかなってわくわくしてたの! 今はお友達になれてとっても嬉しい」
太陽のような満面な笑顔でソレイユがディーナに笑いかける。照れ臭そうだったが、ディーナはソレイユのその笑顔がとても好きだったのだ。
「あたしもソレイユと友達になれて嬉しい。イシュカ達もとっても仲良くしてくれるし、義姉妹ってことになるけれど……ソレイユは特別なんだからね」
「ありがとう。ディーナ」
ふふふ、と二人揃って笑い合う。それを喜んでいるかのように精霊達も活発に二人の周りを漂っていた。
「きっとソレイユも精霊達に愛されるわよ」
「え、じゃあ、私も詩姫になれる?」
「そ、それはわからないけど……まあ、なれるんじゃない?」
「ディーナと二人で詩姫なんて夢みたい。いいな、そんな未来が来たら」
二人は子供の頃から将来の夢を語り合っていた。だが、その関係はディーナが本格的に詩姫として活躍しだした頃から変わり始めたのだ。
「ちょっとディーナ、今日はコンサートの日でしょ? こんな所にいちゃ駄目じゃない!」
精霊の森でディーナは鼻歌まじりで精霊達と遊んでいたのだ。コンサート会場から抜け出した彼女を親友のソレイユが探しに来たのだった。
「あ~あ、見つかっちゃった。ソレイユにはいつも見つかるのよね」
「ディーナとは長い付き合いだもの。行くところくらいわかるわ」
大きなため息を吐きながらディーナが憂鬱そうな表情を見せる。
「ほら、みんなディーナを待ってるよ?!」
「はぁ……最近仕事が多いのよね。少しは休みたいわ、あたし」
「そんなこと言ってないで準備してっ」
「はぁ、そんなにやる気があるならソレイユが詩姫だったらよかったのにね」
「! ……も、もう! またそんなこと言って! ほら、行くわよ!」
「はいはい……わかったわよ」
最近はディーナはよく我がままを言って、詩姫の仕事を怠けるようになっていた。その度に親友のソレイユがディーナを連れ戻すのが習慣のようになっていたのだ。
それからしばらくして、二人の関係は完全に崩れることになるのだった。
だが、一旦話はここで終わる。目的地に着いたのだ。
◇◆◇
一行は精霊の森の入り口に立っていた。歩きながら話を聞いていたジークが最初に口を開いた。
「ディーナ、お前本当に我がままだったんだな……何かオレ、ソレイユに同情しちゃうぜ」
「うーん、ボクも今の話を聞くとディーナさんが完全に悪いような気がしちゃいますね」
男性陣が若干引くような表情を浮かべていた。
「わ、わかってるわよ! あたしもアイリスと話して反省したって言ったでしょ?! だからソレイユにはちゃんとあたしの言葉で謝らなきゃいけないのよ……」
「私も応援してるわ、ディーナ」
「ぴぃ」
「ありがとう、アイリス」
―ビュウウウウ!―
そんな会話をしていると、森の奥から黒いモヤが吹き荒む。空を見ると、森の奥から黒いモヤが柱のように伸びているのも見える。同時に『邪精霊』と思われる声も響き渡っていたのだった。
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