第99話 堕ちた精霊
ティフィクスに現れた謎の魔物の正体はソレイユに施された刻印の力によって変貌した精霊達だった。コンサート会場に出現した魔物達を撃退したアイリス達だったが、ソレイユは姿を消してしまう。
「ソレイユ、どこにいっちゃったの……?」
「ディーナ、とりあえず会場を出ましょう?」
「ぴぃぴ」
「ええ、そうね」
残されたディーナが誰もいない舞台を見て呟く。アイリスが後ろからそっと彼女の肩に手を添えながら口を開いた。
「アイリス、ディーナ、行くぞ」
「出入口の安全は確保しましたよ!」
「ありがとう、二人とも」
ジークとキッドが念のため会場からの退路の確保をしてくれた。二人に先導されてアイリスとディーナはコンサート会場の外に出た。そこには驚くべき景色が広がっていた。
「何よ、これ……」
その光景を見てディーナが呟いた。そこには暴れまわる元精霊の魔物達が溢れかえっていたのだ。既に冒険者がいくつかのグループを作って対処にあたっているのが見てとれた。
「聖女様、聖騎士様!」
その様子を見ていたアイリス達を呼ぶ声がした。それはフォルトナの邸宅の門番をしている衛兵だった。
「既に対処は冒険者ギルドの方々がされています。今は一旦、私と一緒に邸宅にお戻りください。フォルトナ様がお待ちです!」
「わかりました。みんな、一旦戻りましょうっ」
「ぴぃぴぃ!」
ジーク、キッド、ディーナがそれぞれ頷く。一行は衛兵に連れられてフォルトナの邸宅へ戻ることになった。
「ご無事にお戻りなられたようですね」
邸宅につくとフォルトナが出迎えてくれた。既に建物の中はこの異常事態に対処するべく本部というに相応しいヒトの出入りが繰り返されていた。
「フォルトナ様、ソレイユが!」
ディーナが慌てた素振りでフォルトナに近づく。
「会場にいた者からの聞き取りで私も事態を把握しています。ソレイユに起こったことも全て」
「あたしのせいで……こんなことに」
「そんなことはありません。ソレイユは心の隙をつかれたのです……まさか『厄災の使徒』と呼ばれる存在がカセドケプルの件より前から動いていたなんて」
事態の深刻さを理解しているフォルトナの表情が強張る。状況は悪くなる一方ということもわかっているのだろう。そこにアイリスが一歩前に出て口を開いた。
「フォルトナ様、私達はソレイユを探そうと思います」
「アイリス……?」
ディーナがアイリスの言葉に反応する。
「『厄災の使徒』のことも気になります。でも今はソレイユを早く見つけないといけないって思うんです」
「ぴぃぴぃ!」
「そうだな。身体にあの『刻印』があるんだ。このまま放っておくなんて出来ないよな!」
「そうですよ! ソレイユさんを助けなくちゃ」
「あなた達……」
三人は気合が入った言葉をディーナ達に投げかける。それを聞いて涙腺が刺激されたのかディーナの目に涙が浮かんでいた。するとフォルトナが真剣な顔をしてアイリスの元に近づいて口を開いた。
「こんな事態の際に尋ねることではないかもしれません。ですが、敢えて聞かせて頂きたいのです。……それは聖女様としてのお考えですか?」
アイリスはにこやかに微笑み、言葉を紡ぐ。
「聖女だからっていうのもあります。でも私はディーナと一緒でソレイユの友達なんです。友達を助けるのは当たり前ですよね?」
その言葉を聞いたフォルトナの瞳も揺れているようにディーナには見えた。真剣な表情が笑顔に変わる。
「大変失礼な質問をしましたね。ご無礼をお許しください。 ……ソレイユのこと、お願い致します」
フォルトナが深く一礼をアイリス達に対して行う。まかせてください、と笑顔が帰ってきた。
「アイリス! あたしも一緒に連れて行って!」
「ディーナ?」
「あたしにはもう詩姫の力はないけど、魔法は使えるわ。あなた達の力に少しでもなりたいの! ね、いいでしょ?」
「うん、一緒にソレイユを助けましょう!」
アイリスがディーナに花の紋章が刻まれた右手を差し出す。彼女はその右手を強く握りしめた。その様子を見ていたフォルトナが口を開く。
「今回の精霊が魔物化する現象は古くから存在するティフィクスの伝承の一つに類似したものがありました。精霊という存在は悪しき意思に取り込まれた時、『精霊』から『邪精霊』へと堕ちる、というものです」
「邪精霊……それがあの魔物化した精霊達の呼び名なんですね」
「直接攻撃が効かないっていうのが厄介だよな」
「どの精霊が元なのかによっても効く魔法と効かない魔法があるのも厄介ですよね」
「精霊をそんなモノに変えるようなことをするなんて許せないわ!」
アイリス達に続くように、ジーク達も意気込む。
「黒いモヤが現在一番多く目撃されているのは精霊の森です。そこに恐らくソレイユがいるのでしょう……あの子のこと宜しくお願いします」
「はい! 必ずソレイユを連れて帰ってきます!」
目撃情報を元に、アイリス達は精霊の森に向かうのだった。
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