第98話 謎の魔物の正体
異変が起きたソレイユの身体には『厄災の使徒』の刻印が施されていた。そして、アイリス達の目の前で精霊達が透き通った身体を持つ謎の魔物へと姿を変えたのだった。緑と黄色のゴーレム達だ。
驚いた観客達は一斉に出口に走り始める。
「精霊が魔物になりましたよっ!」
「あれって前戦った剣とかが効かない奴だよな!」
キッドとジークがそれぞれ武器を構える。舞台の近くにいるディーナの傍でアイリスが以前キッドが聞いてきた噂話を思い出す。
―『ちょっとしたヤジが飛んだのをきっかけにソレイユさんが怒ってしまったらしくて、コンサートが一時中断したんですって』―
考えてみれば昨日、つまりアイリス達が遭遇した水色のゴーレムとティフィクス周辺に出現した赤色のハウンドウルフもたった今起こったようにソレイユの感情の高ぶりに『刻印』が反応した結果だったのだろう。
「つまり、謎の魔物は姿を変えてしまった火、水、風、土それぞれの精霊だったっていうことなのね。それにはソレイユの感情と『刻印』の力が関係してた……だから聖獣のピィちゃんは悲しい顔をしていたのね」
「ぴぃ」
アイリスが肩に乗っているピィの方を見ると、静かに頷いた。聖獣と精霊は近しい存在にあるのだろう。戦っているうちに謎の魔物の正体にピィは気づいていたのだ。
更に言うとピィがあまりソレイユに近づこうとしなかったことや、アイリスが感じた違和感も今考えてみれば彼女の持つ『刻印』に知らず知らずのうちに反応していたからなのだろう。
「なるほどな。元が精霊だから直接攻撃が効かなかったわけか」
「魔法も効くものと、そうでないものがあったのは元の精霊の属性が影響してたんですね!」
ジーク達もからくりに気付いたようで、アイリスとディーナの前に立つ。舞台にいた二種類のゴーレム達が降りてくる。
『ゴオオオ!』
「土属性が効かない黄色のほうは兄貴に任せます!」
「わかったぜ、キッド! じゃあ、緑の方は任せるぜ!」
「私もいくね!」
対処方法がわかったアイリス達はそれぞれ、より戦闘時に攻撃が通りやすい方の相手をすることにし行動に移る。
「会場ちょっと壊しちゃいますけど、いいですかね!?」
キッドが一応ディーナの方を見て、尋ねる。
「今はそんなこと気にしてる場合じゃないでしょ!」
「確かにそうでした! 行きます! アースクエイク!!」
緑色のゴーレムに向かってキッドが土魔法アースクエイクを詠唱する。足場が割れたことで足を取られその場に跪いた。その隙を見逃さずに一気にキッドが近づき、次の魔法の詠唱を始めていた。
「アングリーロック!!」
攻撃系土魔法アングリーロック。大きな巨石を召喚し、対象にぶつける魔法である。
巨石の攻撃が直撃した緑色のゴーレムが消滅する。消滅した時に魔石が落ちなかったのも今考えてみれば精霊が元になっていたのだから納得である。
「ならオレも飛ばしていくか!」
氷の『祝福』の力を発現させて、聖剣マーナガルムに冷気を纏わせるジーク。自分に向かって両腕を振り下ろしてくる黄色のゴーレムの攻撃をひらりとかわし、跳躍する。
「『氷狼咬斬』!!」
冷気を纏った聖剣の一撃が空中から斜め下に向けて命中し、黄色のゴーレムも消滅した。それを見ていたディーナが口を開く。
「あなた達なかなかやるのね」
戦闘中ではあるが、褒められてそれぞれが反応する。
「ボクにかかればこんなもんです。ね、兄貴!」
「まあ、オレらにかかればこんなもんよ!」
「こんな時にドヤ顔しないでよ」
「そうね。あとはソレイユ……!」
舞台を見ると未だに黒いモヤに包まれるソレイユの姿があった。
「どうして……どうして邪魔をするの?」
「わからないの!? アイリスもあたしも、あなたのことを助けたいからよ!」
「……私はまだ詩姫でいたい……いかなくちゃ……」
ディーナの言葉も届いていないらしく、ソレイユの周りの黒いモヤが渦を巻き、風圧が会場中を包み込む。目を開けてられず、たまらずアイリス達が手を目の前に構える。次の瞬間、黒いモヤが消え失せる。同時に舞台にいたはずのソレイユの姿もなくなっていた。
「ソレイユがいない……っ」
「どこに行ったんだ!?」
「わ、わかりません!」
「ソレイユ……!」
アイリス、ジーク、キッド、ディーナがそれぞれの反応をする。ソレイユは一体何処に行ってしまったのだろうか。
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