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師匠を越えたい弟子(コント漫才台本)

ボ→ボケ

ツ→ツッコミ

ボ:師匠!


ツ:どうしたんですかね急に。僕、きみの相方のはずなんですけど。


ボ:あんたとはもう、師匠でも弟子でもない!


ツ:うん、そもそも相方ですからね。

まあそういう設定で()りたいのは分かるけど、まず『はいどうもー!』的なご挨拶から入らないと、お客さんも面食らうじゃないですか。


ボ:はいどうもー!


ツ:そこはやってくれるんです。意外と人の話は聞くタイプの子です。


ボ:なぜなら! 俺はすでに! あんたを越えたからだっ!


ツ:……まあやっていただいたからには、こちらもお応えしないと……


(下を向いて不気味に笑いはじめる)


ツ:ククク……この私を越えたと言うのか、不肖の弟子よ!


ボ:おっ(怯む)……おう! 越えたとも!


ツ:で? 何メートル越えたの?


ボ:ふっ。


ツ:なんか勝ち誇ってますね。


ボ:ロジハラ野郎のあんたがそんな返しをしてくることは予測済み!


ツ:……さらっとディスられたような。


ボ:どのくらい越えたかと言えば! あんたの頭上をびよーんと飛び越え雲を突きぬけ、そこで出会った天女と恋に落ちるぐらいさ!


ツ:ふむ。それはどんな天女?


ボ:(にやり)


ツ:……くっ、まさかこの返しも?(怯む)


ボ:ほどよいタレ目に甘い声、しかし話してみると意外にサブカルにも明るく知的な一面さえ見え隠れする天女さ!


ツ:例えるなら?


ボ:長濱ねる!


ツ:ほう……やるようになったな。


ボ:当然だ。あんたはどうせガッキーだろう? いい加減に現実を見てくれ。だから俺は、目をさましてほしくて。


ツ:クッ……(下を向き)……クククッ、甘いな


ボ:なっなに? まさかっ(怯む)


ツ:そのまさかだ弟子よ。私はガッキーロスの深淵を脱し、次なるステージへ羽ばたいている! そう不死鳥のごとく!


ボ:ならば誰なんだ、師匠の天女は!


ツ:その前に弟子よ、きみの恋の顛末を聞こうじゃないか。


ボ:……聞かせてやる。俺と天女は、雲の上で甘く幸せな日々を送る。けれど俺はしょせん人間、永遠を生きる彼女とは違い、やがて老いて死ぬ運命だ。


ツ:(黙ってうなずいてる)


ボ:老いて死にゆく姿を見せて、ねるを悲しませたくない。

俺は自ら地上に降り、ひとりで生きる選択をした。

ねるが、すこしでも早く次の幸せを見つけられるように。

(天を仰ぎつつ情感たっぷりに語る)


ツ:……つらい、決断だったな。


(ツッコミが差し出したハンカチを、ボケは受け取らず両手で乱暴に目じりをぬぐう)


ボ:さあ次はあんただ。聞かせてくれ、ほんとうに呪縛から逃れたのか。


ツ:私の天女か。────橋本愛だ。


ボ:…………な……に…………


ツ:すべてを悟ったかのように超然とした、それでいて物憂げなあの眼差しで、橋本天女は『木綿のハンカチーフ』を口ずさむ……


ボ:FIRST TAKEのやつ……!


ツ:それは一瞬だ。雲を突きやぶって彼女と出会い、しかし重力の鎖から逃れ得ぬ私は、そのまま自由落下で雲の中に消える。


ボ:……え……会話も、なしに?

 

ツ:そう。一瞬だけで二人は恋に落ち、しかし差し伸べた手は、指先をかすめることさえ(かな)わず、そのまま運命は永遠に分かたれるのだ。


ボ:そんな、そんな馬鹿な! それじゃあまるで。


ツ:そう。プラトニックだ。


ボ:……プラト……ニック……(絶句しながらへたりこむ)


(ツッコミ、無言で大きくうなずく)


ボ:あ、ありえない……なんでも許される妄想の世界に、あんたはプラトニックの概念を持ち込んだというのか……


(ツッコミ、無言で大きくうなずく)


ボ:俺が…………俺が愚かでした! やっぱり師匠は師匠だ! どうかこれまで通り俺を、不肖の弟子として導いてください!


(ボケ、足元にすがりつく)


ツ:いいや、駄目だ。


ボ:……え、そんな……


ツ:お前を、これまで通りに扱うことはできない。


ボ:それは、どういう?


ツ:さきほどの涙を流すほどの没入ぶり、実に見事だった。

それと長濱ねる。このキャスティングはまさに天晴(あっぱれ)と言えよう。

とても、よく勉強しているね。


(ツッコミ、手を差しのべてボケを立たせる)


ボ:し、師匠……?


ツ:ゆえに今日このときより、きみに『〇〇(←ツッコミの苗字)流妄想術』の師範代を任せる!


ボ:お……俺が、師範代……!


ツ:今日はお祝いだ! サイゼで豪遊と行こう!


ボ:はっはい! ありがとうございます、師匠! ちなみにドリンクバーは付けても……?


ツ:いいけどワリカンな。


ボ:あんたとはもう、師匠でも弟子でもないっ!!


ツ:いいかげんにしろっ!

(客席に)どうもありがとうございました~


ボ:なぜなら! 俺はすでにっ!


ツ:ほら、きみも最後はちゃんとお客様に挨拶しないと。


ボ:どうもありがとうございましたっ!(深々と礼)


ツ:意外と人の話は聞くタイプの子なんです。


ボ:俺はすでに! あんたを越えたからだっ!


ツ:(舞台をはけながら)はいはい破門破門。


ボ:えー! 待ってよ師匠ー!(後を追ってはける)

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