Double man.
病院名を聞いて通話を切った俺はそのまま次の相手に通話をかけた。
ワンコールもせずに彼女は出てくれた。
「チカちゃん、チカちゃん。こんな時間になあに?」
甘ったるい声になんとなく俺は安堵の気持ちを覚えた。
だが一刻を争う。
「遅くにごめんね。緊急事態」
「なあに? もしかして弟君?」
「うん。ユウの方の……、同居人。その子の命が危ない」
端末の向こうで彼女が何かを飲み込む音が聞こえた気がした。
「どこ?」
その声には先ほどまでの甘い気配が一切載っていなかった。
「――病院」
「分かった。すぐ向かう」
「俺も行く。合流はロビーで」
病院名を伝えた所で彼女の声は途切れていた
最後の俺の声が届いていたのかは判らない。
法定速度内で車を飛ばし道路交通法内で車を蛇行させ俺はその場所に辿り着いた。
駐車場に車を止め足早にロビーへと向かう。
ロビーではひとりの女性が受付で口論していた。
「――ですから面会時間は過ぎておりまして」
「――面会じゃない。患者を診に来たの」
「――ですから……」
「こんばんは。俺の弟、の同居人が入院しているはずだけど、何か聞いてないですか?」
ふたりの間に割って入り俺が言うとふたりは俺を見て「えっ……」と声を上げた。
「チカちゃん。もう来たんだ」
「うん。法の範囲内で飛ばしてきた」
受付の人は俺の顔を見てお化けでも見たかの様な顔をした。
「あ、コンノさん……? コンノ、ユウさん?」
「そう、それです。俺は兄のチカ」
「きっ……、聞いてます。俺と同じ顔が来たら通してくれって。何かの冗談かと思ってました……」
「この人は俺の彼女。ユウの居る病室、教えていただけますか?」
にっこりと笑みを作った俺の目は多分笑っていなかったと思う。
少し怯えを含んだ受付さんは戸惑いながらも病室番号を教えてくれた。
院内は駆けない様に速足でなるべく静かにその病室へ向かった。
その道中に彼女は「脅しちゃ、だめ」と俺の額をこつんと叩いた。
「そんなに怖い顔していた?」
「それだけ大切なんだからしょうがないけど。チカちゃんって女の子顔だけど怒ったら顔が怖くなるから」
そう、なのかな? そういや怒った自分を見た事無いな……。




