話題の有名人
文章量増やして書き方少し変えました。
「茜ちゃん~ 早く朝ご飯行こうよ~」
「ちょっと待ってよー、まだ髪もとかせてないの!」
「茜ちゃんが全然起きてこないのが悪いんだからね~」
ここは茜が所属している吹奏楽部の合宿先。昨日は朝6時から夜9時までの間、合奏や個人練習をしていた。今日も朝6時から起きて9時には合奏が控えている。茜は友達の酒井芹花と一緒に朝ご飯へ向かっていた。
芹花ちゃんは天然の茶髪をショートボブにまとめた小柄な女の子だ。吹奏楽部でのパートはトランペットを扱っている。小柄な体形からは想像できないぐらい大きなハッキリとした音を安定して出すことができる、エース的な存在だ。ちなみに私はクラリネットを担当している。友達からはよく似合わないと言われるが、私もそう感じることがある。クラリネットで繊細な音を奏でるよりもサックスで目立ちたいと感じることもある。
「芹花ちゃん、他の人たちは先に行っちゃったの?」
「うん、茜ちゃんが起きるのが遅いからだよ~」
「ごめんてー 合宿が大変で疲れるのが悪い!」
そんな会話をしつつ、2人は食堂へと向かっていた。
「茜ちゃんは今日の合奏大丈夫そう~?」
「大丈夫! 昨日はみっちりパート練習したからねー 今日は先生に指摘もらわないようにしなきゃね。先生の言葉遣いきついんだよねー」
「確かにね~ でも、そのおかげで県大会も金賞で通過できたし、いい先生だよ~?」
「分かってるんだけど、名前呼ばれると心臓に悪くてさー」
私がそう答えると、芹花ちゃんに苦笑いをされた。先生がいい人なのは分かるが、慣れることはないだろうな。
食堂へとつくと、茜はカレー、芹花はクロワッサンを食べ始めた。
「そういえば、芹花ちゃんもAWO(Any World Online)やってるじゃん。職業とかって何にしたの?」
「うちは魔法使いにしたよ。やっぱり魔法陣とかかっこいいじゃん~ ド派手にボカーン!ドカーン!ってやっりたいの! 茜ちゃんはどんな職業にしたの~?」
「私は剣士を選んだんだ。剣士の派生職業の踊り子になりたくてね。あぁー 早く帰ってAWOやりたいなー」
「20分後に音楽室集合だから、ご飯食べてる人は遅れないようにねー!」
茜たちがご飯を食べ終わると、部長が食堂に入ってきて言った。20分後には音楽室に集合して、今日の予定を確認したり出欠をとることになっている。合宿中の健康確認は大切だ。
「早めに音楽室に行って楽器組み立てちゃおっか」
「そうだね~ チューニングとか調律しなきゃいけないし、ミーティング前にも少し音出ししとこうか~」
○
結局今日も合奏でこってりと絞られた茜は寝室へと戻ってきていた。
「もー! 音の出だしを丁寧に。とか言われてもわからないってー イメージが大事とかいうけど、イメージしても変わった気がしないのに、先生はそれでいいとか言われるし。私は何が変わったかわからないのに、よくわからない!」
「茜ちゃん~ 茜ちゃんの言ってることもよく分からなくなってきてるよ」
「また明日も指摘されちゃうのかなー たまには褒めてくれてもいいのに」
「確かにね~ でも的確な部分をしてくれるからね~」
「まぁねー こんな会話を朝もした気がするよ」
「こんな時は楽しいことでも考えてリラックスでもしよ?」
芹花はスマホを取り出すと、AWOについて調べ出した。AWOの攻略サイトを開いてみるが、β版からの新しい情報があまり増えていない。細かな修正や職業の情報が増えているぐらいだ。それよりも、正式リリースされてから多くのバグが見つかったとか、そんな情報ばかりが攻略サイトでははびこっていた。
結も芹花に続いてスマホを取り出してSNSで掲示板などのサイトで綺麗な景色のスクショや、話題の人物についての記事を調べることにした。
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~とあるSNSにて~
発売されてまだ一週間程度なのに、頭のおかしいプレイヤー多くね
それな、絶対みんな有給とってるだろ。プレイ時間おかしいって…
学生は夏休みなんじゃない?
そか、確かにそうか
それよりもヤバいプレイヤーの話でもしようぜ
いうて、変態元帥とかぐらいしか思いつかないけどな
元帥はあんな見た目だけどPSはくそ高いからなぁ
アンジュとかも頭おかしいんじゃない?あの人のカバー能力とか、周り見すぎててヤバい
あの人がパーティにいるだけで負けることないからな
確か固定パーティ組んでないんだっけ?
そそ、野良パーティしか組んでないのに、あんなに安定してるの凄い
あとは桜餅とかがヤバいやつ筆頭になるのかな
餅は嫌い
餅の被害者おるやん
餅のせいで対人嫌いになる人多いんだろうな~
あまりの強さに理不尽に感じちゃうよな
可愛いから許せちゃう!
餅ファンもようみとる。実際餅はPKとか悪いことしてるわけじゃないし、純粋に闘技場にこもってるだけだからな
今日不死の少女見たわ
詳しく。まだ名前上がってない人?
多分初。名前は分からんけど、敵の攻撃を受けても全く死ぬ様子が無かった。そのくせ敵を一撃で倒してた。
因みに、運営に報告したら不正行為ではないって。
運営が言うなら大丈夫か。見た目は?
普通の女の子って感じ。服装も初期装備だし、特徴と言えば見た目に似合わぬハルバードを担いでるぐらいかな
初期装備ってことは特殊なスキルにでもお金使ってるのかもね
ほかにも…
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「いいなー 私もインターネットで話題に上がってちやほやされたかったー」
「どうしたの~ いきなりそんなこと言って」
「AWO始まってすぐに合宿始まったじゃんー スタートダッシュ失敗したのが悔しくてさ…」
「まぁまぁ~ 合宿終わったらいくらでもできるでしょ? そしたら私も一緒にやろうか~ 」
「よし! 夜通しレベ上げだー!」
「あは~」
○
吹奏楽部担当の先生や講師の先生に、こってり、ねっとりと絞られた生徒たちはバスで高速道路を進んでいた。
「やっと合宿が終わるよー ほんっとーーに! 疲れたー!」
「でも、たまにはこういうのも良いかもね~ 非日常感?ていうのかな~」
「確かに凄い楽しかった! しかーし! 今はAWOが出来ることのほうが嬉しいね!」
「茜ちゃんは本当にゲームが好きだよね~ AWOは明日からやるの?」
「いや、今日帰ったらすぐやる。芹花ちゃんも一緒にやる?」
「ん~ 今日はパスかな~ 疲れたし、ぐっすりと眠ることにするよ。明日の昼からなら出来るよ~」
「じゃあ明日の昼頃に連絡するね」
「・・・・・」
「・・・あれ、芹花ちゃん?」
茜がふと隣の席を覗くと、可愛い顔で寝ている芹花がいた。
芹花ちゃんは眠気に弱い所があるのだ。いつもより少し夜更かしするだけで次の日、学校に眠そうに登校してくる。しかもその眠気に勝てずに寝てしまうのだ。もちろん、先生に注意は受けるけど、成績がいいからあまり怒られたことないという。同じクラスじゃないから友達から聞いた話だけど。
私は逆にあんまり睡眠はとらなくても大丈夫。一日の睡眠時間は4~6時間ぐらい。眠くなることはないし、眠くなったとしても、大事な場面では絶対寝ない自信がある。
芹花ちゃんよりも授業ちゃんと受けてる気がするのに、なんで芹花ちゃんのほうが成績いいんだろう?家でたくさん勉強してるとかでもないらしいし。やっぱりちゃんと睡眠とったほうがいいのかな?夜更かしは美容にも健康にも悪いってい言うもんなー どうしよう。急に年取ってからも心配になってきたよ。
そんなことを永遠と考えていた茜も、気づけば眠りについていた。吹奏楽部内でも可愛いと言われている部長と副部長の2人が、そのかわいい寝顔を晒して寝ているとあらば、当然他のみんなに見られるわけで、写真も撮られて保存されることになった。2人はこのことを次の部活の日まで知ることはない。
○
20時頃、学校へと帰ってきてトラックに積まれた楽器の積み下ろしが行われた。梱包などの荷解きは後日やるとして、21時前にはミーティングも終わり、自宅へと帰ることが出来た。
待ちに待ったゲームの時間だ。お母さんに用意してもらったご飯を搔き込み、軽く怒られつつもお風呂をシャワーで済ます。下着だけ履くと、二階の自室へと駆け上がっていく。パジャマはゲーム機の電源を付けてから着ればいい。お母さんに何か言われた気がするが関係ない。弟に裸を見られた気がするが、今はそれよりも大事なことがあるのだ。
自分の部屋へとつくと、急いで電源を付けた。それからパジャマを着てVR機器を装着した。
「ログイン!っと・・・」
いつ閉じたかもわからない目を開けると、前回ログアウトした広場の風景が広がっていた。ここを見るのは2度目になるが、何度見ても飽きる気がしないほど美しい街並みだ。前回と違って、装備品が整っている人が多いように見える。そのことがより一層、アカネのやる気を奮い立たせる。
「いいなー! 私もひらひらした装備とか、独自のものを持ちたいなー」
露出がやや多めで透け感の強い装備を身にまとい、ひらひらとしたリボンが舞うような動きに合わせて美しくきらめく。そこから繰り出される剣戟は敵すら見惚れる艶やかだ。人は彼女を舞姫アカネと呼ぶ。
「み・た・い・な? 想像しただけでニヤけてきちゃうよー!」
アカネが一人トリップしていると、広場から少し離れた場所で人だかりができてきていた。どうやら誰か有名人がいるようだ。野次馬も多くいて、大分混沌としてきている。
自分の世界にトリップしていたアカネもそれに気づくと、中心人物の言葉に耳を澄ます。耳を澄ましつつ、妄想を思い出してニヤニヤしている姿はかなり怪しい。それせいか、アカネの周りから人がはけていき、話題の中心人物と対面することになった。
「おや、君は?」
モーゼのように人込みを割ってしまったアカネは物凄い注目を浴びていた。
「あなたは変態さん?! 私はアカネと言います!」
「できれば変態の方ではなく、元帥の方で呼んでくれるとありがたいんだけどね・・・」
中心人物は変態元帥だったようだ。今日も美しい肌を晒している。腰に一本だけさしてある刀と、全裸に靴だけ履いている姿が余計に変態度を強めている。ルビーの様な瞳に、銀髪をポニーテールにまとめ
ている。鼻筋もすらっとしており、かなりのイケメンキャラなのに、なぜ裸の変態プレイヤーなのか。服さえ着ていれば女子受けするだろうに。
こんな見た目なのに受け答えは真面目で肩透かしをくらった気分になったアカネは落ち着きを取り戻した。
「どうして最初の街に来たんですか?元帥さん」
「人を探していてね。最近話題の不死のプレイヤーがいると聞いて、チームに誘うなりフレンドの誘いをするなりしようと思ってね。出来ればスキル構成とか聞き出せたらなんて考えてはいるんだが。まぁ、様子を見に来たって感じかな」
「なるほどですね。でも、不死の人は初期装備って情報ぐらいしかないですし、見つけるのも難しそうですねー」
「一様、お使いクエストのついでに見つけられればという感覚なのでね。見つからなけれべそれでいいさ」
変態はメニューバーを操作すると、アカネにフレンド申請を飛ばした。
「フレンド申請? 私みたいな始めたばかりの人に? 嬉しいですけど」
アカネはフレンド申請を受理しつつも、なぜなのかが気になった。変態は見た目があれなだけに、少し警戒してしまう。少なからず出会いを求めでゲームをしている人もいるからだ。
「一期一会、面白そうな人との出会いは楽しくなりそうだからな。始めたばかりの初心者が大勢のプレイヤーたちを割るなんてなかなか愉快な話じゃないか」
「アハハー・・・」
意図せずそんなことになったアカネは苦笑いするしかなかった。
ふと、背後から女の子の声が聞こえてきた。
「へんたーい! そろそろ行くぞー! 今日はあたし遅くまでできないんだから。はい、こっち来た」
「分かったよ」
変態は赤色のポニーテールの女の子に引きずられるように去っていった。
「またねー アカネさん!」
去り際に声を掛けられ、アカネも慌てて手を振る。心なしかさっきよりも強く引っ張られている気がするが、気のせいだろう。
「なんか濃い時間だったな・・・」
空を見上げてぼーっとしていると、今日何をしたかったのを思い出した。
「そうじゃん! 全然レベ上げ行けてないじゃん!」
アカネは小走りで草原へと向かった。今日の狩でどこまでレベルが挙げられるか。少し上がってきたら次はどこで狩りしようかなど考えていたら、小走りからスキップに走り方が変わっていた。
草原と町を繋ぐ門へと近づくと、どうやら門の外に人だかりができているようだ。街中でもこんなことがあったなーっと思いつつもスルーすることにした。ただでさえ街中で時間を使ってしまったんだ。早く狩りがしたい!のんびりとスローライフを送るのもいいと思うが、まずはガチで狩りが楽しみたいお年頃なのだよ。
人の集団を通り過ぎるとき、視線を感じた。嫌な予感がする。絶対足止めされると直感が言っている。
「そこのかわいい女の子! サイドテールの片手剣の初期装備のかわいい女の子や!」
ここまで具体的な外見を指定されてしまっては無視することもできない。またしても足止めを食らったことにため息がでそうになるが、鋼の意思でこらえた。
「何でしょうか?」
「そんなに面倒くさそうな顔しないでよ~ かわいい顔が台無しだぞっ☆彡」
ため息は出なかったが、顔には出ていたようだ。
「初期装備の女の子に聞いて回ってるんだけどさ、ハルバード背負った初期装備の女の子知らない? 不死のあだ名がついてる子なんだけど~ 何か知ってたら教えて! 何か情報があればハグしてあげちゃう!」
そういえば、ユイもハルバード使ってたっけな。でも、流石にゲーム初心者のユイがこんなに有名になるとは思えないし、別人だろうなー
「おや? その間は何か情報があるのかい?」
「私の友達にその条件に当てはまる人がいるんです。その子は初心者なのでお目当ての人じゃないとは思いますが」
「そっか~ とりあえず情報ありがとうね! お礼にハグしてあげようー」
「なんでそんなにスキンシップをとりたがるんですか」
狩りに行くところを邪魔されたせいで若干、いや、結構むかむかしつつも距離をとる。
「つれないな~ そだ! フレンド交換しようよ! この桜餅さんのフレンドコードだぞーー大切に受け取るがいいー あと敬語は無しね。ぎこちないぞ!☆彡」
「え・・・桜餅さんだったんですか?! 是非フレンドになりましょう。敬語もやめる!」
「あからさまに態度変わるねー・・・」
「そりゃ、さっきまで完全にストーカーする不審者だったし・・・」
「うむむ。否定できないところが悔しい。あ、狩りに行くところ呼び止めちゃってごめんねー また今度友達紹介してよ~ じゃあね、かわいい子ちゃん!☆彡」
桜餅にウインクを飛ばされながらも歩き出したアカネ。しかし、その足取りはとても重かった。モンスターと戦ってもいないし、何かクエストをやっていたわけでもないのにとてつもない疲労感が溜まっていた。
「疲れた・・・ もう今日は狩りに行かなくていいかなー」
アカネは重い足取りを草原から街へと向けた。
門を抜け、広場へ戻ってきた。なにか屋台で食べ物でもかって、お洋服屋でも覗きに行こうかと考えていると、またしてもアカネを呼び止める声がかかった。
「そこのあなた。先ほど草原へと向かったようですけど、すぐに帰ってきたということは、戦闘が苦手だったりしますか? もし必要ならばお手伝いしますよ?」
声のした方向を見ると、広場のベンチに腰掛ける女性の姿かあった。もふもふのマフラーを羽織った軽装で、黒髪を腰まで流している。一切癖のないストレートで、髪は艶やかでエンジェルリングが美しい。ハープを持っているところから察するに職業は詩人なのだろう。
詩人で初期の街まで来て人を助けようとしているということは、この人がアンジュさんなのだろう。
「お気遣いありがとうございます。戦闘で疲れたわけではないので大丈夫です!」
「そうですか? では、ハープの演奏だけでも聞いていきますか? 疲れが癒されますよ?」
「では少しお願いします」
「承りました。お聞きください。エーデルワイス」
『~~♪ ~♪ ~~~♪ 』
・・・・・曲が終わり、アンジュがお辞儀をすると、いつの間にか集まっていた観客たちから多くの拍手歓声がかけられた。
「やはり人のために曲を弾くというのはとても楽しいですね。どうでしょう、疲れはとれましたか? えっと・・・ お名前を聞いていませんでしたね。私の名前はアンジュと申します」
アンジュが恥ずかしそうに頬を赤らめながら言う。
「アンジュさんですね。私はアカネと言います! とっても癒されました! ありがとうございました! お返しはどうしましょう?」
「お代はいりませんよ。代わりと言っては何ですが、敬語は無しで、フレンドになりませんか?」
「もちろん喜んで! アンジュさんも敬語じゃなくていいよー」
「私の敬語は癖のようなものなので、気にしないでくださいね」
「分かった。それじゃあね!」
「また今度ね」
アカネはアンジュと別れると宿屋へと泊まることにした。
アンジュさんの演奏は多くのひとの心をつかむほど素晴らしかった。そのおかげで今すぐにでもぐっすりと眠れそうだ。アンジュさんのハープ捌きには見惚れたが、それ以上にアンジュさん本人のゆるふわ感から繰り出される敬語と微笑みが心に刺さる。
結局今日はモンスターと戦うこともなくログアウトしようとしている。それでもここまで満足感があるのは、濃い人たちとの出会いによる刺激や癒しが大きいだろう。
まだゲームもほとんどやっていないというのに、ここまで楽しくなるとは、これからの生活が楽しみ過ぎてニヤニヤが止まらないよ! あ、ユイに連絡するのも忘れてた。せっかくゲーム出来るようになったし、誘うだけでもしときたかったなー それもこれも明日やればいいか!
○
アカネはAWOからログアウトすると、ベッドへと潜り込んだ。
「あ、歯磨いてないや・・・」
少し口がごわごわするが、アンジュの演奏が良すぎたのか、何もする気が起きないぐらいぐったりとしていた。
「一晩ぐらいっか・・・」
目をつぶると、すぐさま夢の彼方へと向かっていった。
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最初の方の話書き直したいでござる。