げーむすたーと!
自ら小説を書くことで自給自足をするのだ
「結! 来週から新しいVRゲームが出るんだけど、一緒にやらない? カセットとか周辺機器は買ってあげるからさ!」
今話しかけてきたのは、幼稚園のころからの付き合いの親友、鐘守茜ちゃんだ。日の光が当たればプラチナブロンドに輝く髪をサイドテールにまとめて肩から流している。
昔っからゲームばっかりやっていて、新作のゲームが出た次の日なんかは目の下にクマをつくって登校してくるほどの生粋のゲーマさんだ。そのせいで授業中に寝てしまって、いつも赤点ぎりぎりを攻めているのはやめたほうがいいと思うけど。
「茜がそこまで言うなんて珍しいね。そこまで言うなら一緒にやってみようかな? 流石に自分で買うけど」
「やった! それでね! 今回出るVRゲームはすごいんだよ! 触感とか匂いとか、とにかく再現度が高くて、出来ることもかなり多いし結も絶対はまるよ! 結のことを一番知っている私が保証しよう!」
茜ちゃんはいつもの5割増しの声量で話している。ここが教室の中ということを忘れて居るのだろうか。忘れてるんだろうなー 茜ちゃんだし。
茜は楽しそうにゲームのことを熱弁している。まるで実際にプレイしてからお勧めしてきているような具体的な話まで出てきた。
「AWOの世界にはたくさんのボスモンスターが徘徊しててね! ゲームのシステムに縛られないリアリティが売りだね。NPCもかなり充実してるし、実際に人と会話していると錯覚するほどだよ! 今発見されてるボスだけでもエルダートレントとかフェンリルとかフェニクスとか漆黒のドラゴンとか!」
「すごい詳しいけど、茜はプレイしたことあるの?」
「そうそう、実はβテストに当たってね! 三か月前から正式リリース楽しみにしてたんだ!」
「そのせいでここ最近の茜ちゃんは何にも身が入ってなかったんだね……」
「いやぁ~ 面目ない……」
結にちょくちょく勉強を教えてもらっている茜は何も答えることが出来なかった。
「茜は本当にゲームが好きだよねー」
「う、うん! 今回は結と一緒にできるしね! あははー…」
茜ちゃんと話してると知らないこと、いっぱい話してくれるから面白いんだよねー 楽しそうに話してくる茜ちゃんを見てるとこっちまで楽しくなってくるし、日ごろの癒し要素だよ。
○
発売まであと1週間かー 茜ちゃんと一緒にやっていくんだから足を引っ張らないようにしなきゃね。そういえば、私ビデオゲームのこと全然知らないなー 茜ちゃんがよく話してくれるけど、それだけじゃ知識不足だもんね。少しぐらい調べとかないとダメだよね。
「よし。そうと決まれば、早速いろんな動画みて勉強しよー!」
そういうと、結はパソコンを起動してゲーム実況動画を探しはじめた。
「『【鬼畜ゲー】なんでも有りなRPGの裏ボスがヤバみ!【実況】最終回』って、何がヤバいんだろう」
この動画内では、実況者が裏ボス相手に「火力おかしすぎるだろ!」とか「即死技があるとか、強すぎるでしょ!」「防御力限界まで上げても耐えれないじゃないか……」など、攻撃力の高さに苦戦しているようだ。
「なるほど、攻撃力が高いと強いのか。ほかの動画も見たほうがいいよね」
その後も結は、初めに見た動画の関連動画を見ていった。それが似たようなことを言っている動画しか出ないとも知らずに。
○
1週間後、学校が終わって家に帰ってきた結は届いたVR機器の組み立てと設定を行っている。
「これは本体で、本体カバーはここか。じゃあ、このコードはどこにつなげばいいんだろ? コード刺すとこがもうないよ?」
電子機器の類はほとんど触ったことが無い結はうまく組み立てられなくて苦戦をしていた。説明書通りに組み立てているはずなのに上手くパーツがかみ合わなかったりする。ケーブルを繋ぐ穴がたくさんあってどこに挿していいかも分からなくなっていた。
「ん~…… よし、できた!」
かろうじて組み立てることが出来た。そして携帯電話を取り出した結は、茜へと通話をつないだ。
「もしもし茜ちゃんー? 準備終わったよー」
『おー! それじゃあ今からでも一緒にできるね! キャラクリ終わったら、最初の広場の銅像の前集合しようか』
「わかった。それじゃあまた後でね」
○
ゲームを起動すると、キャラクリエイト画面が表示された。そこには、癖のない黒髪を肩まで伸ばし、前髪を眉下で切りそろえた少女が映し出されていた。
「髪型とかは全部そのままでいいかな、変にかえても似合わなかったら嫌だしね。そのままで『OK』っと」
キャラクタークリエイト画面がなくなり、職業と武器選択画面が表示された。
「攻撃力が一番高いのは山賊だから、職業は山賊でいいかな。武器はどうしようかな~ 大剣はシンプルで攻撃力が高くてつ使いやすい。斧は一番攻撃力が高いがリーチが短い。斧槍は攻撃力が高くてリーチが長いが扱いずらいっか……」
それぞれの武器が目の前に浮かび上がってくる。それぞれ試しに手に持って少し振ってみる。
「斧槍にしようかな。リーチも長いし、振りまわすなら遠心力がかかって斧よりもダメージがでそう。それに、振り回して楽しく使えそう!」
斧槍を手に持ったまま『OK』を押すと、武器選択画面が閉じて最終確認画面が表示された。
『これでいいですか?』 『YES』『NO』
「もちろん『YES』!」
『それでは、個性あふれる世界へといってらっしゃいませ』
機械的なシステム音声が響く。辺りは真っ暗となり、目を閉じているような感覚になる。
○
目を開けると、そこには多くの人で賑わっていた。
いかつい鎧を着た幼女や上半身裸のマッチョ、猫耳の生えた女性まで、様々な見た目の人たちでごった返している。
自分の見た目は、白い布のワイシャツにガウチョパンツを着ている。ハルバードを背負ってなければ普通の女の子のようだ。
「えっと、銅像ってどこにあるのかな」
そういって振り向くと、そこには剣を掲げる4m程の男性の銅像がたたずんでいた。銅像はかなり綺麗に保たれており、大切に管理されているのが分かる。石畳の道に生えているコケや植物から本当に異世界へと来たかのような気持ちになってくる。
「ユイー!」
まだ始まて一歩も動いていないにもかかわらず、世界の作りこみの凄さにユイは感動していた。するとそこに曲剣を腰に差した女の子、アカネが手を振りながら走ってきた。
「おまたせー、まった?」
「ううん、今きたとこだよ」
「その姿は……ユイは初めの職業は山賊にしたんだね。意外だなぁ。ユイの性格なら魔術師とか聖職者とか選ぶのかと思ったよ。前衛で戦うことになると思うけど大丈夫?」
「ここまでリアルなゲームだとモンスターと会うのは少し不安だけど、多分大丈夫…かな?」
「今ならまだ職業選びなおせるけど、どうする?」
「んー このままでいいかな。魔術師は綺麗な魔法が使えるところが魅力的だったけど、山賊が一番攻撃力が高かったからね、どんどん敵を倒していけるよ!」
「ユイって、そんなバトルジャンキーみたいな性格してたっけ……? まぁ、好きな職業でやるのが一番だし、結が楽しいと思えるのが一番よ」
「アカネはどんな職業にしたの?」
「剣士だよ。この職業から派生できる踊り子になりたかったんだよね! 蜂のように舞い蝶のように刺す! って言ってみたいんだよね~!」
「………それを言うなら 蝶のように舞い蜂のように刺す。じゃないの…?」
「細かいことは気にしないのー! そんなことより、まずは冒険でしょ! さっそく最初の平原へゴーだヨー!」
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