移動中
当たり前なんだけど、車を運転しながら子犬の世話はできない。
そして追手の問題があるから今は休めない。
「クリネルに入り、サイカ商会に保護を求めましょう」
「同意」
「わたしもそれがいいと思う」
「……お、オーケーわかった」
それにしてもだ。
今さら言うまでもないけど、俺はただの一般人だ。
そりゃあ体は宇宙人に作ってもらった全身サイボーグだけど。
人間だった頃のパーツなんて脳細胞いっこだって残っちゃいないけどさ。
でも俺は一般人だって。
休日に愛車で遊びにいくのが楽しみってだけの、本当にガチのいち市民なんだから!
だいたいヒーローの愛車が軽四って変だろ?
「パパ」
「なんだ?」
「ジャンボーグナ○ンは?」
「なんでそんな古い作品知ってんだよ」
たしかホンダZとかって軽四を使うんだと思うけど、俺ですら古すぎてよく知らないぞ。
「って、今はそんなこと話してんじゃないって」
「あはは」
楽しそうに笑われた。
でもそのおかげで、俺も肩の力が抜けた気がした。
あらら。
どうやらまだ緊張が抜けてなかったらしいや。
思わず首と肩をほぐすように動かしていたら、横からアイリスが肩をもんでくれた。
「って、いたたたっ!」
「パパ凝ってるねえ♪」
「いやいやいや、死んだばーちゃんかよ!」
俺の死んだばあちゃん。
お年寄りだから握力は弱いけど、肩をもみにかかると大男も悶絶するような人だったんだよな。
あれはすげえ。
実は俺も子供の頃、興味本位でやってもらって悲鳴をあげた経験がある。
楽しそうにニコニコ笑っていたばあちゃんが、あの時ばかりはSに見えたよなぁ。
話を戻そう。
子犬の世話を焼いているのは後部座席のふたり。
助けた子犬は保護したところで力尽きた。
今は力なく眠りこけている。
「どうだ?どこか悪かったりするのか?」
車に収容したらグッタリしちまったからな。心配だ。
「ただの魔力切れだな。
最後の疾走でほとんど魔力を使い切ったうえに、助けられたと感じたので気が抜けたんだろう。
わたしとムギで魔力を注いでいる。
そのうち目覚めるから心配するな」
「わかった、ふたりとも頼むわ。
ところで魔力を注げば目覚めるのか?
だったら俺も何かできる事ないか?」
「ハチは運転に専念してくれ、それが助けになる」
「……ういっす」
拒否られてしまった。
ショボンとしているのがバレたのか、リンがルームミラーの向こうで苦笑した。
「心配だし魔力チャージに参加したいと顔に描いてあるが、今は無理しなくていい」
「……」
「いいから少し待て、いいな?」
「お、おう」
「まぁクリネルにつく頃には目覚めるだろうけど、今はがまんしてくれ」
「いやいや別に我慢とかしてないし!」
「わかったわかった、ちびすけをかまいたいのはよくわかったから」
「ぐ……」
笑われた。
リンもムギも、アイリスまでも笑っていた。
「お、追手はどうだアイリス?」
「追いかけてこないみたい……むしろ峠に向かってる?」
「峠に?」
「あれが問題の勇者チームだとすれば、一度中央大陸まで戻るのかもしれないねえ」
アイリスと俺のやりとりに、リンが推測を挟んできた。
「どういうことだ?」
「本国に問い合わせをするためには、そうする必要があるのさ」
え?
「話がよくわからないんだが……本国に問い合わせ?
普通それなら大きな町、それこそクリネルあたりに向かうんじゃ?
それとも窓口がないのか?」
「いや、それではそもそもダメなのさ」
リンはクスクスと笑った。
「いいかいハチ?
魔族を倒すと称する討伐チームが編成される事は時々あるんだが、そういうのは中央大陸の人間族国家のお家芸なんだ。
西大陸の国は遠すぎて静観が基本だ。
南大陸や東大陸の国は逆に近すぎて、魔族と真正面から敵対しようなんて国は存在しない」
「あの撃ってきた連中は?」
「彼らはこっちを試したのさ。
魔族に守られてると認識したら、即座に撤退したろ?」
「物騒な試しだなぁ」
「ああ、そうかもしれんな」
リンは妙に楽しげだった。
「中央大陸の話に戻るがな。
あちらの国は好戦的だが、それでも現在、表立ってそれを認めてる国がいないんだ。
ちょっと事情があって各国で牽制しあってるのさ」
「ほう」
「認められない。
でも利権はほしい。
だから隠して派遣する……とまぁ、こんな感じだな」
「隠す?」
「自分たちがどの国から来たのか、たとえ拷問されても言えないよう封印をかけてあるのさ」
「……そんなんすぐバレるんじゃね?」
「バレバレだねえ。
そもそも遠方ならともかく、ご当地の国周辺でバレないわけがないからね。
だけど、こういうのは建前だからねえ」
「……なんだよそれ」
建前なのかよ。
はぁ、やれやれ。
「話を戻すけどねえ。
この手の封印は中央大陸を出たところで作動し、戻れば止まるようになっているのさ。
そうしないとせっかく成果をあげても、そのまま迷子になったり他国に確保されちまうからねえ」
「……なんか合理的なのか不合理なのか、よくわからないな」
けどまぁ理解はできた。
国に問い合わせをするために、一度戻らなくちゃいけないってわけなのか。
「ところでリン、そのケルベロスって野生はいないんだよな?
じゃあ、その子はどこの子なんだ?」
「あ、わたしが調べたよ」
その質問にアイリスが反応した。
「そうなの?」
「お館様がクリネルに運びこんだみたい」
「運びこんだ?」
「うん」
「どこから?なんで?」
「中央大陸を調べている端末が発見したんだって。
けど3つ首の犬なんて変だってことで、ちょうどクリネルで折衝開始していたオルガ博士に写真を見せて、それで急いでクリネルに運んだんだって」
なんだそれ。
でもそれにリンが反応した。
「なるほどそうか、デスリナ事件の被害個体か!」
「デスリナ事件?」
「最近あった事件で、まぁ平たくいったら魔族一家が殺される事件が起きたんだ。
魔族領の外で仕事していたところを狙われてね。
だが当人たちが殺されたのは魔力反応消失でわかったが、ケルベロスがまだ保護されてなくてな。
捜索隊が出ていたんだよ。
アイリス嬢、ほかの情報も頼めるかねえ?」
「ええ、お館様とオルガ博士の結論もリンちゃんと同じだって。
魔力反応からも係累なのは間違いなくて、その子が最後の生き残りだろうって」
「そうか……。
わたしが知らないという事は、データコピーした後に発覚したんだな」
ふむ、とリンが何か思案し、そして子ケルベロスに目線を戻した。
「そうかそうか……よく生き残ったな、強い子だ」
「で、その個体が逃げ出したと?」
「手当が終わって元気になったのはいいけど、商会のクリネル本店の中で運動会しちゃって。
そこで彼らに見つかったんだって」
「なるほどな」
「あらら」
なるほど、そういう流れだったのか。
そういう事ならマザーもさっさと教えてくれればいいのに……って、それはダメか。
俺は俺の目線で、俺の考えで旅する事を求められている。
そうする事で、人工頭脳であるマザーとその探査機がとりこぼしている情報を探すわけだ。
だからこそマザーは積極的関与をしてこない。
でも放置ではない。
だから必要で問い合わせたらきちんと教えてくれるし、非常事態には干渉してくるわけだ。
うん。
「お」
「なに?」
「もしかしてアレ、クリネルの町か?」




