精霊?
「ほほう……」
「これはなかなかに広大ですなぁ」
森林公園にいれた、身内ではない初の人物。
カジヤン族の村長さんと部下らしき男性2名……ふたりとも精霊とおつきあいがあるらしい……は、感心したように風景を見ていた。
「先輩方の目で見てどうです?精霊の広がり具合ですが」
「ふむ……しかしまだ精霊様が足りないようですな」
「え、まだ?」
あんなに鈴なり状態だったのに?
「単純にここが広すぎるのですよ。
ハチ殿。
今あなたの目で、さっき突入していった精霊獣たちが追えますかな?」
「無理です」
まるで風景に溶けるように消えてしまっていた……代わりにこの空間全体の精霊の気配が濃くなったようにも思える。
「さきほどの精霊様たちのおかげで、この入り口付近は足りたようですな。
しかし奥の方まで広がる分が全然足りてないようです」
あれでも足りないのか……むむむ。
そうしていたら、村長さんの部下のひとが奥をゆびさした。
「ハチ殿、あの奥に大きな湖があるでしょう?」
「はい」
「ビッピが、それも結構な数いますな?」
「ビッピ?」
首をかしげていたら、リンが補足してくれた。
「クロコ・クマロの事だよ」
「もしかして地方名?」
「そうそう」
「あー、はい、いるにはいるんですが」
「奥にはたくさん気配があるのですが、手元には少ないようです。
これは漁獲したためですかな?」
「はい、よくわかりますね」
「漁獲したら大きなものが穫れなくなったのでは?」
「う……正解です。
ちょっと捕りすぎましたかね?」
「いえ、これは精霊様が足りないのかと」
「精霊が?」
どういうことだ?
悩んでいたら、リンが質問してくれた。
「ほほう、もしかしてビッピはその繁殖力や生命力を活かすのに『魔』が必要と?」
「正解です魔族の方。
彼らは強い繁殖力のために精霊様の力をお借りするのです。
特になんらかの理由で一定区画の数が急に減りますと、それを補填する形で一気に増えようとするのです。
それがうまく働いていないようです。
こうなると彼らは非活性になり、精霊様が増えるまで大人しく隠れて動かなくなるのです」
「はぁ~……それで一部の数が減っても、他から流れてこないんだ」
「はい」
よくできましたと言わんばかりに、村長さんはにっこり笑った。
「これで精霊様が増えましたから、彼らも活気づくでしょう。
奥の方で大人しくしている群れも、精霊様を求めて移動してくるかもですな。
できれば念の為、漁の再開は2日ほど待てばよろしいでしょう」
「ありがとうございます!」
今のところ、魚釣りはほとんど公園内でやっているからな。
外でものんびり釣りをしたいけど……ん?
「え?」
「え?」
「?」
「これは……」
「ほほう」
順番に、俺、アイリス、ムギ、リン、村長さん。
ちなみに俺たちが見ているのは。
……なにこれ。
なんか草みたいなのが歩いてる。
えっと、そうだな。
たとえるなら……タンポポに草の手足が生えて、ゆらゆら揺れながら歩いてる感じというか。
しかも。
まだ閉めてない車につながるドアから次々に出てきて、よたよたと歩いていくんだが?
「えっと……なにこれ?」
「ごめんわかんない」
「あ、うん、そりゃアイリスはわかんないだろうな。
リンと村長さんはわかってるっぽいが……」
「樹人だろう……しかしこりゃまたずいぶんと小さいな」
「トレント?」
「樹精王様の眷属ですねえ」
リンの言葉に村長さんが付け足した。
「樹精王?」
「真竜族の話はしたろう?」
「ああ」
アース・ドラゴン様のことだな。
なんでもあのアース・ドラゴン様のようなドラゴンが世界に数体いるらしい。
「真竜族と同様の仕事をしている植物型の超越種だよ。
真竜がラシュトル族をたくさん連れているように、樹精はトレントを始めとする植物型の生き物や魔物を世界に放ち、仕事をさせているのさ。
ちなみにハチたちは立ち寄らなかったようだけど、中央大陸の砂漠にも大きなコロニーがあったんだぞ?」
「え、そうなの?」
「うむ、むかし姉さまが訪れた事があるんだ」
ほほう。
「しかし樹精様の眷属とは珍しいな、まだここの森はそんな段階ではないだろうに。
それに、どうしてこうも小さいのばかりなんだ?」
『それは理由があるのだよ、魔族の娘よ』
リンの言葉に重ねるように、トレントの一体が答えた。
『ふむ?そなた魔族オルガに似ているが……いや魔紋が異なる??』
「トレント殿、わたしはオルガではなく彼女を複写して生まれた別人だよ」
『ああ、それで魔紋が違っているのか……なるほど理解した。
だがすべてを複写しておるという事は、そなたもまた同類のようだな。
別個体として新たな名を設定できるが?』
「光栄の至りだが、よいのか?」
『そなたたち動物は個体の区別が重要であり、別個体を同じ名で呼ぶのは好ましくあるまい。
……そなたの名はリンでよいか?』
「はい、ありがとうございます。あらためてよろしくお願いいたします。
ところでトレント殿」
『うむ、若木を一体譲ろう。つれてゆくがよい』
「感謝いたします」
なんか、よくわからない会話がかわされていた。
「えーとすまん、よくわからんけど知り合いなの?」
『樹精殿は、ひとつのコロニーの個体群、全部がひとつでひとつが全部なのだよ』
「おー……」
全にして個とか、なんかファンタジー種族みたいだな。
って、ファンタジー種族だったか。
感心していたら、なんかトレントの一体が俺の前に来た。
『これは異世界人か……しかし奇妙な波動だな?』
「えっと、はじめましてでいいのかな?あ、俺ハチって言います」
『ふむ、これは失礼した、我は樹精である。
これは端末の小トレント。
ハチと申したな、君について尋ねてもよいだろうか?』
「あ、はい、いいですよ?」
俺は簡単に、今にいたる状況を説明した。
『なるほど、魂は異世界人のままで肉体が違うというわけか。
ふむふむ、まぁ問題ないだろう』
「え?問題ない?」
どういうことだ?
だけど、俺の疑問なんかそっちのけでトレントさんはひとり納得する。
『魔力も十分、無事に精霊とつながっているようだし問題あるまい』
「えっとあのー、トレントさん?」
『構造的にも接続可能だな、よしよし。
となると、リン同様に若木を与えるのがよいか、どれ』
「トレントさん?きいてます?」
しかしトレントさんは一方的に俺の左腕を触りだす。
いや、なんなんだよいったい。
さすがにちょっと警戒して後ろに下がろうとしたのだけど……。
あれ?動けない?
そして次の瞬間。
「!?」
左腕に強い、針で刺すような刺激がきた瞬間、目の前が真っ暗になった。
ドサリ。
俺は昏倒してしまった。




